十倉 実佳子(とくら みかこ)さん

略歴

1992年 京都府立福知山高等学校卒業
同年 京都産業大学外国語学部言語学科イタリア語専修入学
1995~1996年 イタリア国立パドヴァ大学文学部へ単科留学
1998年 京都産業大学外国語学部言語学科イタリア語専修卒業
1999~2001年 ニューヨーク州立大学(FIT)へ留学
2002年 帰国後、教材出版社および学術出版社に勤務
現在は英語講師・フリーの編集スタッフとして働きつつ翻訳活動を行っている。
(2019年10月現在)

イタリアへの憧れ

映画『ブラザー・サン シスター・ムーン』と『眺めのいい部屋』、京都国立近代美術館で開催されていた「フィレンツェ・ルネサンス 芸術と修復展」、そして小説『薔薇の名前』。これらに出合い、当時高校生だった私は大学でイタリア語を学ぼうと決めました。単純すぎる動機ですが、高校の卒業文集にはいたって真面目にこう書いています。「イタリアに留学後、K先生(あまりにも不遜となるため実名は伏せます)のような翻訳家になる(云々……)」。なんとも壮大な夢。高三なのに発想が中二レベルです。これだけ大風呂敷を広げているのですから、大学ではさぞや真面目な学生だったのだろうと思われるかもしれませんね。高校生だった私もそうなると信じていました。ところが実際に入学してからは、クラブ活動との両立に苦労して、勉強は授業の予習が精一杯の状態。学業に専念できないことを理由にクラブを辞めてからは、(前よりは)真面目に勉強するようになったものの、今から思えば、まだまだ努力が足りていなかったように思います。しかし、その後、かねてより夢見ていた「留学」のチャンスを得ることができました(思い込みの力ってすごい!)。留学先はパドヴァ大学。ところがここで私は大きな挫折を味わうことになります。

留学と挫折

私の留学前のイタリア語のレベルは意思疎通が何とか図れる程度。それなのに現地で現代文学、それも詩を学ぶというのに「何とかなる!」と思っていたこと自体が無謀でした。この根拠なき自信はすぐに打ち砕かれ、自分の語学力のなさ、メンタル面の弱さを思い知らされました。講義を聞いてもちんぷんかんぷん。会話に自信をもてないため、クラスメイトが話しかけてくれても、なかなか心を開くことができません。それでも普段の生活では友人もでき、それなりに充実していたのですが、肝心の学業面では自信を失くすことばかりでした。そんな冴えない留学でしたから、卒業後はイタリア語からも遠ざかってしまったのです。

好きだったタディ橋からの眺め(パドヴァ)
カフェ・ペドロッキ(パドヴァ)

翻訳コンテスト

「いたばし国際絵本翻訳大賞」で優秀賞をいただいたときの課題作品(Parola di Napoleone!)
イタリア語の勉強を再開したのは翻訳がきっかけでした。あるとき興味本位で応募した英語の翻訳コンテストで入賞したのに味を占めて、様々な翻訳コンテストに応募するようになりました。たまに入賞して誌面に載ったり賞金をいただいたりするようになると、ますます翻訳が面白くなってきます。こうして、通信教育で学んだ後は、独学で翻訳の勉強を続けていました。「いたばし国際絵本翻訳大賞」に応募したのもこの頃です。イタリア語はすっかり錆びついていましたが、絵本を翻訳するという作業がよいリハビリになりました。喩えるならば、学生時代の親友と旧交を温めるような、そんな喜びがあったのです。
この「いたばし国際絵本翻訳大賞」には何度か応募していますが、あるとき、私は勝手に登場人物のキャラクターを少し変えて、「関西弁」を喋らせてみました。やりすぎたかなと思っていましたが、それが意外にも「特別賞」をいただく結果に。でも、次の年はふざけすぎてしまって予選落ち……。独りよがりな翻訳をしたことを反省し、翌年再チャレンジしたときに「優秀賞」をいただくことができました。

翻訳を仕事に

ただ、実際に翻訳の仕事を得るまでは簡単にはいきませんでした。リーディング(原書を読んでシノプシスをまとめる仕事)をしたり、企画を持ち込んだりしながら、翻訳者になるためのオーディションを何度も受けましたが、最終選考まで残ることはあっても、「最後の1人」にはなかなかなれません。そんな折、珍しくイタリア語のオーディションがあったので、力試しくらいの軽い気持ちで応募してみたところ、初めて翻訳者として採用されました(イタリア語なので応募者が少なかったのが幸いしたようです)。それがスローフード協会が発行している『最高においしいワインの飲み方(Il Piacere del Vino)』でした。それからは、ワインについてインターネットだけではなく、図書館から本を山のように借りて調べまくりました。しかし、それでも解決できない疑問点も出てきます。そんなときに救世主となってくれたのが、大学時代の同級生たち。ワイン関係の仕事をしている友人やソムリエをしている同級生は、私の質問・疑問に快く答えてくれました。また、私が仕事で悩んでいるときに励ましてくれた友人、本書の出版が決まって一緒に喜んでくれた友人もいます。私が限られた期間で300ページの本を一冊何とか訳しきれたのは、(もちろん家族も含めて)彼らみんなのおかげです。そういう意味でも、大学で出会った人々は、私にとって今なお頼れる存在であり、無形の財産でもあります。

最後に

現在私は児童向けの本のお仕事をいただき、翻訳をしています。翻訳者としてまだまだスタートラインに立ったばかりですが、次の目標は、「自分の企画した翻訳書を世に出して、その本を手に取った誰かに『読んでよかった』と思ってもらえること」。高校の卒業文集並みの野望ですが、「思い込みの力」を信じて頑張っていくしかありません。
ワインの原料となるブドウ。そのブドウを栽培するうえで大切なのは、他の作物と同様に、土壌と太陽と水だと言われています。私にとっての大学時代とはまさに、土壌(勉強できる環境)と太陽(知識を与えてくれる先生方)と水(刺激を与えてくれる友人たち)に恵まれた贅沢な時間でした。ブドウの木は年を経るほどによい実をつけるそうですが、私もかくのごとく、いつの日か、味わいのあるたわわな実をつけられるよう、しっかりと地に足をつけて人生を歩んでいきたいと思っています。
Vi ringrazio per la lettura. Auguro a tutti voi un futuro pieno di esperienze arricchenti!
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