【神山宇宙科学研究所】世界初!新星爆発時にCNとCO分子を同時検出!
2024.12.11

新星爆発(古典新星)は、白色矮星(図中央右側)と伴星(同左; 太陽のような主系列星もしくはそこから進化した赤色巨星)からなる連星系で、二つの星の距離が非常に近い場合(近接連星と呼びます)に起こる爆発現象だと考えられています。
新星(古典新星)は、太陽のような恒星と、白色矮星という高密度になった進化末期の恒星からなる連星系において、2つの恒星が非常に接近して互いの周りをめぐっている場合に起こる爆発現象です。2つの恒星が近接しているため、恒星(進化末期の白色矮星より軽い)から白色矮星へとガスが流れ込み、白色矮星表面に降り積もったガスが、ある限界を超えると原子核融合反応が暴走的に起こり、爆発します。このとき、降り積もったガスは吹き飛びますが、白色矮星自体は残りますので、再びガスが降り積もって、爆発を繰り返します。この爆発初期に、普段は暗くて見えない連星が急に明るくなって見えるようになるため、「新しい星(nova stella)」=新星、と呼ばれます。
通常の新星爆発では、爆発直後に最も明るくなった時点で、表面温度は約8000~10000 K(絶対温度単位[K]、ケルビン; 摂氏温度[℃]+273.15)という高温になります。しかし、ごくまれに、表面温度の低い新星(「低温度新星」と呼びます)が現れます。温度が高いと、分子はすぐに壊れてしまって存在できませんが、低温度新星では、爆発で出来たガス球の表面にさまざまな分子が形成されることがあります。私たちは、そうした低温度新星に注目し、新星爆発が現れるのを待ちかまえてきました。新星爆発ガスの表面温度が5000K以下まで下がると炭素原子や窒素原子が結合してできるCN分子やC2分子が見えるようになりますが、それらは1週間以内に消滅するようです。これらの分子が共に検出された新星は、過去に2例しかありません。ひとつめはV2676 Oph(2012年へびつかい座新星)で、神山天文台で本学の学生らが分子の検出に成功しています(2013年9月20日 神山天文台ニュース)。ふたつめはV1391 Cas(2020年カシオペア座新星)で、岡山県在住のアマチュア天文家の藤井 貢さんが世界で初めて分子を検出しました(2021年2月2日 神山天文台ニュース)。実はCOという分子も新星では爆発初期に検出されることがあるのですが、これは比較的高い温度でも存在できる分子で、いくつかの新星で検出されています。もちろん、前述の2つの低温度新星でも、検出報告があります。今回、河北台長と米国W. M.Keck天文台のLyke博士は、2020年8月に世界最大級の口径10m Keck望遠鏡2号機で観測したカシオペア座新星V1391Casに関する研究成果を、2024年11月15日に、米国天文学会誌The Astronomical Journalに論文として発表しました。前述のようにV1391Casは、2020年8月12日(世界時)にアマチュア天文家の藤井さんによって、CN分子とC2分子によるバンド吸収が可視光線波長域で検出されています。検出の直後に藤井さんから連絡を受けた河北台長は、この新星の赤外線分光観測をW.M.Keck天文台のLyke博士に依頼し、8月14日(世界時)に観測に成功したのです。その結果、波長1~2.4㎛付近までの赤外線スペクトルを得ることができ、世界で初めてCN分子による赤外線吸収バンドとCO分子による輝線バンドを同時に捉えることに成功しました。これまで、新星においてはCN分子とC2分子がスペクトルの吸収として初期に見られる一方で、CO分子は少し後になってから輝線として観測されており、その中間の時期に何が起こっているのか不明でした。今回の成果は、そのような途中の段階を捉えたことで、CNおよびC2分子が存在する時期にはすでにCO分子も存在しており、空間的な分布が違うためにCO分子のみがスペクトル中に輝線として見えている事がわかってきました。こうした分子のガスは、いずれは塵(ダスト)となって凝集し、宇宙空間に炭素や窒素の豊富なダストが撒き散らかされることになります。私たち太陽系も、過去に起こったさまざまな新星爆発で放出されたダストを材料の一部としていたことがわかっています。新星爆発は、私たちをつくる材料物質の起源を探る手掛かりになるのです。

論文情報
雑誌名 | The Astronomical Journal |
論文タイトル | Formation of CN and CO Molecules in the Envelope of Nova V1391 Cas During the Near-maximum Phase (和題:新星V1391 Casの極大期付近における爆発放出物中でのCN分子とCO分子の形成) |
著者名 | Hideyo Kawakita (Kyoto Sangyo University) James E. Lyke (W. M. Keck Observatory) |
DOI | 10.3847/1538-3881/ad79f3 |