本学学生が荒木望遠鏡により、世界初、新星における炭素分子を発見

概要

 京都産業大学神山天文台の荒木望遠鏡により、世界で初めて、新星における炭素分子C2が発見されました。新星というのは、突如、明るい星が出現し、数週間から数ヶ月程度の時間をかけて徐々に暗くなってゆくという天体現象です。これは、星が爆発によって急激に明るく輝くことが原因であると考えられています。新星が最も明るく見える頃には、星の温度は1万度にも達します。そのため、低温度でなければ存在できない分子ガスが新星に存在することは、簡単には説明できません。

 今回、本学大学院・理学研究科の長島雅佳さんと梶川智代さん(ともに博士前期課程2年生)は、2012年3月に「へびつかい座」に出現した新星(V2676 Oph)において、C2分子(炭素原子が二個結合した分子)とCN分子(炭素と窒素が結合した分子)を検出しました。

 新星におけるC2分子の発見は、世界初となります(CN分子の発見は、1934年のヘラクレス座の新星DQ Herにつづき2例目の発見であり、80年ぶりの快挙です)。この成果は、長島さんによって、イタリアのパレルモで開催されていた新星に関する国際会議(2013年9月9日〜14日)で、各国の研究者の前で発表されました。

  • 発表タイトル:“Detection of Diatomic Molecules in the Dust Forming Nova V2676 Oph” 著者:M. Nagashima, A. Arai, T. Kajikawa, H. Kawakita, E. Kitao, T. Arasaki, G. Taguchi, Y. Ikeda(いずれも研究時には本学の所属)
  • 国際会議名:”The Golden Age of Cataclysmic Variables and Related Objects - II”(開催地:イタリア、パレルモ市、日時:2013年9月9日〜14日)

詳細

図1:新星爆発の想像図(©NASA)

 新星とは、二つの星が互いに周りあう連星と呼ばれる星で生じる爆発現象です。連星をなす二つの星のうち、片方が白色矮星と呼ばれる高密度かつ高温度な星である場合、他方の星からガスが流れ込み、白色矮星表面で爆発を起こすことがあります。これが、新星爆発と呼ばれる現象であり、爆発によって急激に明るく輝くことになります。新星が最も明るくなる頃には星の温度は1万度にも達し、高温度なガスが周囲へ放出されます。

 通常、このような高温度ガスの中では分子は存在できません。しかし、ごくまれに分子の存在が確認されることがあります。今から80年前に、初めてCN分子が、ヘラクレス座に現れた新星(DQ Her)において発見されました。しかし、それ以降、CN分子の発見報告はありませんでした。最近になって、一酸化炭素(CO)が発見された例もあります。しかし、新星における分子の観測例はほとんど無いため、高温度なガス中でどのようにして分子が作られるのか?という問題については、あまり研究が進んでいませんでした。今回の発見によって、新星における分子生成についての理解が大きく進むと期待されます。

 神山天文台では、2010年の設置以来、特徴ある装置開発に重点を置き、自ら開発した装置を活用した観測的研究を進めてまいりました。特に、新星のように時間的な変動を示す天体は、神山天文台における重要な観測研究対象です。今回、本学大学院理学研究科(物理学専攻・博士前期課程2年生)の長島雅佳さんと梶川智代さんは、2012年3月に「へびつかい座」に出現した新星V2676 Oph(3月25.8日世界時に、アマチュア天文観測家の西村さんによって新星爆発が発見されました)を、新星が発見された直後から継続的に分光観測しました。

 その後、観測によって得られたデータを詳しく解析した結果、新星が最も明るくなった直後の4月8日に新星爆発によって生じたガス中にC2分子とCN分子が存在していたことを発見したのです。新星におけるC2分子の発見は、世界で初めてとなります。また、同時に発見されたCN分子については、世界で2例目、80年ぶりの快挙です。今回の観測から、これらの分子は、わずか数日間しか新星に存在していなかったことが分かりました。一方、80年前のDQ HerではCN分子は発見されていますが、C2分子は見つかっていません。今回観測したV2676 Ophという新星は、炭素が豊富な新星だった可能性があります。

 また、過去の他の新星においても同様な分子が生成されていた可能性がありますが、存在する期間が短いために観測から洩れていた可能性が示唆されます。今回の発見は、新星研究における頻繁な連続観測の重要性を再認識させるものとなりました。新星を継続的に分光観測している研究機関・研究者が非常に少ない状況の中、今回の発見は、継続観測の重要性に着目した長島さんと梶川さんならではの快挙と言えます。この発見は、神山天文台において学生が主体となって開発した低分散分光器「LOSA/F2」を用いた研究成果です。(同装置を用いた過去の研究成果については、神山天文台の研究成果のページをご参照ください)

図2:新星V2676 Ophと炭素星とのスペクトルの比較

 天体からの光を色ごとに分けたものをスペクトルと呼びます(上図の左から右にかけて、青色〜赤色に対応する)。上のスペクトルが新星V2676 Ophのものです。また、下のスペクトルは炭素が豊富な星として知られている「炭素星」という種類の天体のひとつ、TX Psc(うお座TX星)という星のスペクトルです。両者が非常に良く似ていることが分かります。どちらの天体にもC2とCNという二種類の分子が示す吸収(へこみ)がスペクトル中に見られます。新星においてC2分子が発見されたのは世界初となります。

図3:国際会議の会場にて、発表者近影
研究を主導した本学理学研究科物理学専攻の長島さん(中央)と梶川さん(右)、
そして共同研究者の新井さん(左、現西はりま天文台研究員:昨年度まで神山
天文台の特定研究員)。国際会議の会場にて河北が撮影。

 なお、同国際会議では、長島さんによる発表の他、梶川さん、河北秀世 神山天文台長による発表もそれぞれ行われました。これらも神山天文台における新星観測の成果を報告したものです。また、昨年度まで神山天文台で特定研究員を務めていた新井彰さん(現西はりま天文台)による再帰新星T Pxy(らしんばん座T星)に関する重要な成果も今回の国際会議において発表がありました。この研究においても、神山天文台で行った同じ観測装置による観測が、研究の鍵となる役目を果たしています。
(くわしくは、初期観測の成功を報じた「再帰新星らしんばん座T星の増光初期の分光データ取得に成功」をご参照ください)

 このように、神山天文台では、学生自らが開発した装置を活用した観測研究を行い、世界の天文学の発展に貢献をしています。今後も、このような時間変動を示す天体を中心に、様々な研究活動を展開してゆく予定です。

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