古典新星の「火の玉」における分子生成の謎を解明:一酸化炭素による急激な冷却

2016.09.02

古典新星は突然夜空に明るく星が輝く現象です。その正体は、白色矮星と呼ばれる高温・高密度の恒星と、太陽のような普通の恒星が作る連星において生じる爆発です。その爆発によって極めて高温度な爆発の「火の玉 (fire-ball)」が形成され、そのために明るく輝いて見えます。この高温の「火の玉」は1万度以上の高温になっており、そこでは全ての物質が原子あるいはイオンの状態にバラバラになっています(図1)。
ところが神山天文台では、京都産業大学の学生が中心となって、高温の「火の玉」状態にある「へびつかい座新星V2676 Oph」において炭素分子C2を世界で初めて発見し、また、80年ぶりに世界で2例目の発見となったCN分子の観測にも既に成功しています(図2)*1。また、その詳しい分析から、こうした新星爆発において新しく合成される元素が、太陽系の材料物質の一部となっていたことも突き止めています*2。しかし、高温度の「火の玉」である新星において、どうしたらC2やCNといった分子が形成されるようになるのか、その形成過程については謎のままでした。

今回、河北天文台長を筆頭とする研究者チームは、C2およびCN分子が形成されたV2676 Ophの観測データを詳細に検討し、世界中のデータを組み合わせる事で、爆発の絶頂期にある同新星においてガスの温度が急激に低下する「冷却現象」を発見しました。具体的な温度を測定し、こうした冷却が分子生成に繋がっていることを観測的に示したのは世界初となります(図3)。また、この冷却現象は一酸化炭素が原因となっている可能性が高いことを突き止めました。一酸化炭素は、C2やCN分子より高温な環境でも安定に存在でき、また冷却効果が非常に大きいという特徴があります。今回観測された温度低下率(1日あたり–1000度程度)は、この一酸化炭素の効果によって説明可能なのです。
このような冷却現象とその結果として生じる分子生成現象は、新星爆発で一般に見られるものではありません。研究チームでは、新星におけるC2およびCN分子の生成は特殊な条件がそろった新星(ゆっくりと爆発する新星: スロー・ノバ slow nova)でないと起こりえないのではないかと考えています。また、新星爆発時に分子が生成されることによって、観測から炭素や窒素原子の同位体比*3を決定することが容易になるため、分子生成を起こす新星は、新星爆発における物質合成の謎*4を解き明かすカギとなる重要な天体です。そこで、更に第二、第三のターゲットを探す国際研究プロジェクトが、既に神山天文台ではスタートしています*5。今後の成果にご期待ください。 

図2:一般的な新星のスペクトル、今回観測された分子生成を起こした新星(V2676 Oph)のスペクトル、そして炭素を多量に含む特殊な恒星(炭素星)のスペクトルを比較したもの。
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 図3:今回の研究で得られた新星V2676 Ophにおける温度変化の様子。爆発から10日後くらいから急激にガスの温度が下がり、爆発後13日目には分子の存在が確認されている。この温度低下の速さは、ガス中の一酸化炭素による冷却として説明できる。 ※クリックで拡大


*1  Nagashima et al. (2014), in Astrophysical Journal Letters
https://www.kyoto-su.ac.jp/kao/kenkyu/project/project01.html
*2  Kawakita et al. (2015), in 日本天文学会欧文報告誌
( https://www.kyoto-su.ac.jp/kao/news/20150220_news.html
*3 新星爆発時に存在する物質は、通常、原子またはイオンの形でしか存在しないため、重さの異なる同種の元素(同位体)を区別することは非常に困難です。これは、新星爆発で放出される物質が~1000km/sという高速で吹き飛んでいるために輝線や吸収線の幅が太くなり(ドップラー効果)、同種の元素の同位体によって僅かに異なる輝線や吸収線の波長を区別できないためです。しかし、分子の形をとることで、異なる同位体を含む同種の分子において、比較的大きな波長差が生じ、同位体の存在比(同位体比)を観測から決定できます。
*4 Tajitsu et al. (2015), in NATURE
( https://www.kyoto-su.ac.jp/kao/news/20150219_news.html
*5 京都産業大学・バンドン工科大学(インドネシア)と包括協定の締結
( https://www.kyoto-su.ac.jp/kao/kenkyu/project/project03.html

掲載論文

“The evolution of photospheric temperature in nova V2676 Oph toward the formation of C2 and CN during its near-maximum phase”, Kawakita et al. (2016), 日本天文学会欧文報告誌(Publication of the Astronomical Society of Japan).
 

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