太陽系の材料は新星爆発で作られた

 私たちの太陽系は46億年前に分子雲と呼ばれるガスと塵から成る雲のような天体から作られました。この分子雲は、様々な天体から放出されたガスや塵がもとになっているとされていますが、具体的に私たちの太陽系の素になった材料が、どのような天体から放出されたものであるかは十分には分かっていませんでした。その謎を解き明かす手がかりが、隕石中に見つかる「プレソーラー粒子」と呼ばれる微小な粒子です。

 私たちの地球や太陽系に存在する様々な元素には、それぞれ化学的な性質が同じでありながら、異なる重さを持つ「同位体」が微量に存在しています。同位体の存在比は、太陽系内の天体ならばほぼ同じ値を示すのが普通です。これは、太陽系の素になった材料全体の値と考えられます。プレソーラー粒子は、太陽が示す同位体比とは大きく異なる同位体比を持つような粒子です。

 宇宙にある様々な天体において、それぞれ種々の元素が合成されています。たとえば太陽では、中心付近で水素からヘリウムが合成されていて、その際に発生するエネルギーで太陽は光っています。代表的な元素合成の現場としては、太陽よりもずっと年をとった(進化した)星や、超新星と呼ばれる星の大爆発などが挙げられます。合成される元素にはそれぞれの天体特有の同位体比があるため、プレソーラー粒子それぞれが、どのような天体で合成された物質からできているか?ということが判断できます。

 図1 は炭素と窒素の元素について、それぞれ同位体比がどのようになるか?を示したものです(炭素は重さ12の12Cが大部分ですが、重さが13の炭素13Cも微量に存在しています。また、窒素は通常、重さが14の14Nですが、重さが15の窒素15Nも微量に存在します)。太陽における値が星印で示してあります。これまで、プレソーラー粒子の多くは、超新星や進化した星の内部で作られた元素が、これらの天体からのガス放出によって宇宙空間に供給されたものと考えられてきました。しかし、この図の左下にあるように、本来は微量であるはずの重さ13の炭素(13C)や重さ15の窒素(15N)が豊富な粒子も見つかっており、それらがどのような天体で作られたのか謎のままでした。

図1:プレソーラー粒子の炭素および窒素の同位体比の分布。太陽における値は星印で示した。様々な天体で作られた物質が混ざり合って、太陽系を作った事が分かる。今回、特に左下のグループ(重い炭素および重い窒素の割合が多いタイプのプレソーラー粒子:赤い点線でくくった部分)の起源が新星であることを、世界で初めて観測から明らかにした。図中の×印が、今回、神山天文台で得られた観測結果を示す。

 起源が不明なこのプレソーラー粒子は、おそらく新星爆発の際に起こる熱核暴走反応で作られるのではないか?という理論的な研究がありました。しかし、実際の新星爆発を観測して確認した例は皆無だったのです。炭素については、重さ12の炭素(12C)と13の炭素(13C)の存在比(12C/13C)が観測から決定された例が僅かにありましたが、窒素については全く観測されたことがありませんでした。今回、神山天文台では「へびつかい座の新星」V2676 Ophのスペクトルから、世界で初めて窒素の同位体比(重さ14の窒素14Nと重さ15の窒素15Nの存在比:14N/15N)を観測から決定することに成功しました。その値は、まさに謎とされてきた、起源が不明であったプレソーラー粒子の値に相当するものでした。この結果によって、プレソーラー粒子の起源がほぼ全て解明できたことになり、太陽系を作っている物質が、どのような天体で合成された物質なのか?という全容がようやく明らかになりました。この結果は、日本天文学会欧文報告誌に掲載されます(オンライン版が2月16日に公開されました)。

図2:へびつかい座の新星 V2676 Oph で観測された可視光線波長域のスペクトル。吸収(スペクトル中のへこみ)のパターンが、C2およびCNという分子が光を吸収するパターンに一致している。特に、太陽系にはあまり存在しない重い炭素(13C)や重い窒素(15N)を含む分子の吸収が、世界で初めて確認された。(観測されたスペクトル全体の様子については「本学学生が荒木望遠鏡により、世界初、新星における炭素分子を発見」をご参照ください)

 論文の筆頭著者である神山天文台・河北台長は「この成果は、昨年度に本学の大学院生らが中心になって発見した、新星における分子の存在が鍵となっています。本論文も、大学院および学部の学生たちが取組んだ研究成果が発端です。彼らの観測研究を更にすすめて、このような新しい知見を得ることができたことを大変、喜ばしく思っています。新星の観測研究の拠点として、今後も神山天文台から次々に新しい成果が 出る予定です(神山天文台研究プロジェクト) ご注目ください。」と語っています。

掲載論文

“Formation of C2 and CN in nova V2676Oph around its visual brightness maximum”, Kawakita et al. (2015), 日本天文学会欧文報告誌(Publication of the Astronomical Society of Japan).

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