【法学部】戦慄かなのさんはやっぱりFabulous(ファビュラス)だった~前編:矯正社会学Ⅱの様子

2023.01.12

受講生の前で講演する戦慄さん

セルフプロデュースユニット「femme  fatale」のメンバーであり、NPO法人bae(ベイ)の代表理事を務める戦慄かなのさんが、法学部の専門科目「矯正社会学Ⅱ」(担当:服部 達也 教授)のゲストスピーカーとして登壇されました。その後、法学部の学生約60人との服部ゼミの授業にも参加され、児童虐待や育児放棄、少年院に関する数々の質問にお答えいただきました。その様子を、前編と後編(ゼミの様子)に分け、詳細にレポートしていきます。


  「少年院出身」という異例の肩書を持つアイドルとして活動する傍ら、今回のような講演会への出演依頼に積極的に応じておられる戦慄さん。その心中には、自らが経験した児童虐待・育児放棄と、少年院で過ごした時間に対するかけがえのない思いがありました。
戦慄さんの講義を聞いたのは、日頃から少年院などの矯正施設の在り方について学ぶ学生たち。果たして彼らは戦慄さんのお話から何を感じ、何を学んだのでしょうか。

 

(学生ライター 外国語学部4年次 福崎 真子)

戦慄かなのさんプロフィール

1998年9月8日、大阪生まれ。幼少期に親から虐待を受ける。高校時代、JKビジネス、窃盗幇助に関与して女子少年院へ入院し、1年8カ月間矯正教育を受ける。2017年に芸能活動を始め、講談社が主催するモデルオーディション ミスiD2018で「サバイバル賞」を受賞。2018年に大学の法学部に入学。育児放棄や児童虐待に関するNPO法人「bae」を立ち上げ、代表理事となる。現在は妹の頓知気さきなさんと共に、セルフプロデュースアイドル femme fatalとして活躍中。
・Twitter→戦慄かなの (@FABkanano) / Twitter
・Instagram→戦慄かなの(@fabkanano) • Instagram写真と動画

矯正社会学Ⅱの様子・対談内容の紹介

天地館の広々とした大教室で、教壇には戦慄かなのさんに加え、東京大学 国際高等研究所で少年非行や少年司法制度について研究する宇田川 淑恵(うたがわ・よしえ)先生がナビゲーターとして着席され、戦慄さんと向き合いながら、対談を繰り広げられました。
以下では、対談の内容を厳選してご紹介します。
宇田川先生
教室の様子

“少年院”で売りたいわけじゃなかった これが私の“ありのまま”というだけ

宇田川さん:戦慄さんは「少年院出身のアイドル」として売り出されているイメージがあるのですが、自分自身ではその肩書に対してどう感じていますか?

戦慄さん:私は元々歌とダンスが好きで、アイドルになりたいという気持ちがあったんですけど、少年院のことについて言うつもりは無かったんです。普通にアイドル活動がしたかった。デメリットしかないですからね。「どうして少年院に入ったのに日の目を浴びられるんだ」「まともに生活している人がいるのに、こういう奴が持ち上げられるのはおかしい」とか、批判の声がたくさんありました。もちろんショックですけど、不幸な自分を売り出したいわけじゃなく、美談にしたいわけでもなく、これが「ありのままの実状」なんですよ。ただ、それを私が発信していくことで「自分が虐待を受けている」と気付いていない人の助けになれば良いな、とは思っています。
私自身、自分が虐待を受けていることを少年院に入ってから初めて気付いたんです。虐待の事件をテレビのニュースで見ても、自分と程遠い場所にあるようなことに思えて。殴られたり蹴られたり、お母さんが一週間家に帰ってこなかったりしても、私はお母さんとのスキンシップもあるし、愛されているし…と思っていました。そういう人に早く気付いてもらいたいんです。

実はどれも難しい、SOSを伝えること 見つけること 対処すること

宇田川さん:先ほど虐待の話がありましたが、本来は周りの大人がすぐ気付いて助けるべきだと思ってしまいます。そういう機会はなかったんでしょうか?
戦慄さん:ちょこちょこ私からSOSは出していました。「お母さんに殴られるんだ、蹴られるんだ」と、ときどき小学校に来るカウンセラーさんに話したこともあるんですけど「じゃあ顔とか殴られたの?」「アザとかあるの?」「お母さんと話した方が良い?」とか、望んでいないことを言われて。「こういう証拠がないと虐待じゃない」という決めつけを感じたというか。それだと子どもは「相談するの、やめよう」「この人分かってくれない」となりますし、当時の私もそう感じて何も手を打ちませんでした。
「子どもの虐待ホットライン」の電話番号が書かれたカードが時々学校で配布されたこともあって、どこかで役に立つと思ってランドセルに入れていたんですけど、結局全然使えなくて。こういうところに自分から助けを求めに行くことはできなかったです。「親から今以上に怒られたらどうしよう…」「おかあさんと離れ離れになりたくないな…」「話を聞いてほしいだけというわけでもないし…」と不安に思って、本当にどうしたら良いか分かりませんでした。
宇田川さん:私は、小学生の時点で「どうしてほしい」と言えることの方が難しい気がしていて。きっと「ただこの状況をどうにかしてほしい」みたいな気持ちなんですよね。

親との関係性 虐待の過去があっても「恨みはない」

宇田川さん:お母さまについて、戦慄さんが少年院を出た後の様子や、現在の関係性を聞かせてください。
戦慄さん:私は少年院でいろんなことを学んで、たくさんのことに気付いて、変わるぞって気持ちでおうちに帰ってきたので、少しはお母さんも前向きな気持ちになって一緒に応援してくれると思っていたんですけど、結局何も変わってなくて。やっぱり気に食わないことや意に沿わないようなことをすると暴言やヒステリックが止まらなくなってしまったんですよね。なので、二十歳になる直前、妹と一緒に家を出ました。その後、ある日いきなり区役所から書類が届いて…。勝手に戸籍を外されていました(笑)
戸籍は変えられちゃったんですけど、今はお母さんから時々「会いたい」と言われるので、年2回くらい実家に帰っています。お正月も家族と過ごす予定です。虐待されたのは事実ですけど、今となっては諦めてるっていうか。親としてじゃなく、一人の人として距離を保って接すると決めているので、ためらいなくコミュニケーションがとれます。「一生会いたくない」とか「恨んでいる」みたいな気持ちは、今はもうありません。私を育てるのは大変だったと思うし、今こうして活動できているのはお母さんのお陰でもあるのかな(笑)だから、一応感謝はしています。
宇田川さん:親と向き合えるようになるまでに、きっと葛藤があったと思うのですが、どうですか?恨みがないって普通すごいことですよね。
戦慄さん強い恨みがある人は、まだ解決できていなかったり、自分の中で折り合いがついていなかったりするんだと思います。

人生が180度変わった少年院時代 子どもに本気で向き合う大人の存在

宇田川さん:親に対する心境の変化や、自分が今までにやってきたこと、されてきたことなどを客観的に見つめ直せたのは、やはり「少年院のおかげ」なのでしょうか?
戦慄さん:そうですね。少年院では、内省(自分の考えや行動などを深くかえりみること)、作文、面談などで、今まで考えたくもなかったことを振り返らされるんですよ。「親のことをどう思っているのか」「親にどうしてほしかったのか」「自分は何をしたのか」とか。
少年院に入るまで、スクールカウンセラー、担任の先生、児童相談所、少年センターとか、いろんな機関をたらい回しにされて、何回もSOSを出したのに理解してくれない大人がいて、もう無理じゃんって匙を投げていたので、入った当時は大人が信じられませんでした。でも少年院では、自分と先生たちがじっくり向き合う時間が2年間くらいあって、そこで自分の考え方が変わってきました。
先生の存在はすごく大きかったと思います。絶対に自分を見放さない存在と言うか。どれだけ暴れても絶対に向き合ってくれる人が、これまでの生活にはまずいなかったので。語弊があるかもしれませんが、少年院に入って良かったとも思います。少年院で学ぶことって日常生活の基礎だったりして。実際「普通の生活ができない子たち」がたくさん入ってくるので、その子たちは少年院みたいな場所がないと変われないと思います。
宇田川さん:少年院って「悪いことをした子が入って、罰を受ける場所」って思われてしまいがちですよね。出たら出たで「少年院に入っていた子」と揶揄されてしまう。本当は子どもたちをちゃんと見守ってくれる、見守ってあげられる場所なんですね。

NPO法人baeに懸ける思い 今後の展望

※戦慄さんが代表理事を務めるNPO法人baeでは、育児放棄や児童虐待を根絶させるための活動を行っています。
宇田川さん:NPO法人baeについて、現在の活動内容とこれからの活動予定を伺っても良いですか?
戦慄さん:現在は主に、私の生い立ちや経験を話し、共感してもらい、活動に賛同してもらうための講演活動をしています。最近はコロナ禍ということもあって、活動を自粛してるんですけど…。私自身、お母さんに家から追い出されたり、行く場所がないからその足で非行していたり、不良のたまり場に行って非行のループから抜け出せなくなったりした経験があるので、いずれはそういう子どもたちのための就業支援と、いつでも駆け込めるようなシェルター作りをしたいと考えています。


戦慄さんはその後、学生からのいくつかの質問に快くご回答くださり、最後は参加者の盛大な拍手に包まれて退場されました。

記事の後編では、戦慄さんと法学部の学生60人による服部ゼミの授業の様子をレポートしますので、そちらもぜひご覧ください→【法学部】戦慄かなのさんはやっぱりFabulous(ファビュラス)だった~後編:服部ゼミの様子

〈関連リンク〉
法学部 | 京都産業大学 (kyoto-su.ac.jp)
服部 達也 | 京都産業大学 (kyoto-su.ac.jp)
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