ジャコビニ・ツィナー彗星から複雑な有機物由来の赤外線輝線バンドを検出

2019.11.19

今回の成果のポイント

  • 彗星は、地球との衝突以外でも、流星という形で彗星に含まれる様々な物質を地球へ供給しています。今回、10月りゅう座流星群の母天体であるジャコビニ・ツィナー彗星の中間赤外線スペクトル中に、彗星に含まれるシリケイト(ケイ酸塩)鉱物由来の輝線バンドに加えて、彗星において未知の輝線バンドを検出しました。
  • これらの輝線バンドは脂肪族炭化水素や多環芳香族炭化水素といった複雑な有機分子に起因する可能性が高く、同彗星に大量の有機物が含まれていることが明らかになりました。こうした有機物は高温環境で形成されやすいことが知られています。一方で、彗星形成領域の指標となるシリケイト鉱物の結晶質の存在量比(*1)は彗星の平均的な値を示すことも分かりました。
  • ジャコビニ・ツィナー彗星は、原始太陽系円盤の木星などの巨大惑星の周惑星円盤中という特殊な環境で作られた可能性があり、本研究により、彗星は原始太陽系円盤の様々な場所で形成されたことが明らかになってきました。
図1.原始太陽系で作られた彗星の有機物が地球にもたらされる様子の概念図。彗星に含まれる水や有機分子などの様々な分子は、地球との衝突や彗星から過去に放出されたダストが流星という形で原始地球に降り注いだと考えられます(模式図、クレジット:京都産業大学)
図2.2018年8月22日に観測されたジャコビニ・ツィナー彗星(クレジット:Michael Jaeger氏)。

本文

「流れ星が流れる間に3回願い事を唱えると叶う」夜空を見上げながら願い事をした経験がある方も多いと思います。この流れ星(流星とも言います)の正体は、彗星などが過去に宇宙空間に放出したダストが地球とぶつかるときに、地球大気との摩擦により大気やダストが光を放つ現象です。彗星は、地球に水や有機物をもたらした起源天体のひとつと考えられていますが、現在でもその起源は完全には理解されていません。彗星にどの程度の有機物が存在するのか、またどういう経路を通じて地球に運ばれたのかなど、まだまだ解明すべき点があります。彗星物質が地球に運ばれる経路としては、彗星自身が地球に衝突すること以外にも、流れ星(流星とも呼ばれる)が挙げられます。つまり、彗星に有機物が存在すれば、流星という形で過去に地球表面まで運ばれた可能性が十分に考えられます。

ジャコビニ・ツィナー彗星(21P/Giacobini-Zinner)は周期6.6年の短周期彗星で10月りゅう座流星群(旧称ジャコビニ流星群*2)の母天体として知られています。この彗星は、これまでの観測から、多くの分子(炭素を含む分子、NH2、高い揮発性分子)が欠乏し、可視光連続光成分の偏光度が負の傾き(一般的な彗星は正の傾き)を持つことが報告されていました。彗星の分光学的分類でも、全彗星の約6%しか存在しないジャコビニ・ツィナー型に分類されており、揮発性分子もダストも共に非常に特異な性質を持つ彗星であることが知られています。これらの先行研究から、ジャコビニ・ツィナー彗星は,原始太陽系円盤中で、他の彗星とは異なる特殊な環境で形成された可能性が指摘されていましたが、具体的な形成場所については議論が続いていました。また、このような偏光観測で偏光度に負の傾きを持つ天体は、その表面を覆うダストに複雑な有機分子が含まれている可能性が指摘されています。しかし、彗星における複雑な有機分子は探査機ロゼッタによるチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P/Churyumov-Gerasimenko)のその場測定によるグリシンなどが唯一の検出例で、天文観測ではこれまで分子量が100を超えるような複雑な有機分子の検出例がありません。彗星にどの程度まで複雑な有機分子が存在するのかは、殆ど分かっていませんでした。

京都産業大学神山天文台の河北 秀世台長と本学研究機構の新中 善晴氏らを中心とした研究チームは、2005年7月5日(世界時)にすばる望遠鏡の中間赤外線観測装置 COMICS (*3)で観測された、10月りゅう座流星群の母天体であるジャコビニ・ツィナー彗星(21P/Giacobini-Zinner)の撮像および分光データを詳細に解析しました。その結果、彗星に含まれるシリケイト(ケイ酸塩)鉱物特有の輝線バンドに加えて、彗星において未知の輝線バンドを検出しました。
図3.中間赤外線波長域での様々な彗星の相対放射強度スペクトル(観測スペクトルを黒体輻射モデルで割ったスペクトル)。ジャコビニ・ツィナー彗星のスペクトル(黒丸)は他の彗星とは大きく異なり、これまで彗星では検出されたことのない未知の特徴的な輝線バンドを示している。これら未同定バンド放射のうち、~8.2, ~8.5, ~11.2 マイクロメートルは多環芳香族炭化水素(PAH)、~9.2 マイクロメートルは脂肪族炭化水素由来の可能性が高いと考えられる。灰色網かけ部分は、地球大気オゾンの吸収による観測データへの影響が残っている領域を示します。

実験室で測定された様々な分子のスペクトルと比較した結果、これらの未同定輝線バンドは脂肪族炭化水素や多環芳香族炭化水素といった複雑な有機分子に起因する可能性が高いことがわかりました(図3)。例えば、多環芳香族炭化水素は複数のベンゼン環が縮合した炭化水素で、10個以上の炭素原子を含む複雑な有機分子です。このことは、ジャコビニ・ツィナー彗星には大量の有機物が含まれていたことを意味します。こうした有機分子は氷が形成される温度よりも高温の環境で形成されやすいことから、同彗星は平均的な彗星よりも高温(絶対温度数百ケルビン)の領域で形成された可能性が高いことがわかりました。

一方で、今回得られた中間赤外線スペクトルを基に決定したシリケイト鉱物の結晶度は、他の彗星と似た値を示すことがわかりました。結晶質のシリケイト鉱物は、原始太陽近くの絶対温度1000ケルビン程度の領域で形成され、太陽から離れた場所まで運ばれたのちに最終的に彗星に取り込まれたと考えられています。太陽から遠方になるほど取り込まれにくい結晶質シリケイトが平均程度含まれていることから、同彗星は太陽からの距離という観点では他の多くの彗星と似たような領域で形成されたことが予想されます。

これらの結果を総合すると、ジャコビニ・ツィナー彗星は、他の彗星と似た距離(シリケイト鉱物の結晶質の存在比より推定)にも関わらず、他の領域より暖かい場所で形成された(複雑な有機分子の検出)可能性が示されました。このような特殊な場所の有力な候補として、原始太陽系円盤では木星などの巨大惑星の周惑星円盤中が考えられます。惑星は形成される際に周囲の塵やガスを重力によって取り込みながら成長しますが、その取り込まれていく物質は惑星の周囲に円盤上の構造を作ります。この円盤を「周惑星円盤」と呼び、惑星の衛星はこうした周惑星円盤の中でできると考えられていますが、円盤は周囲よりも密度が濃く温度も高くなるため、有機物が形成される可能性が高いと考えられるのです。

彗星の本体である氷微惑星は今から約46億年前の原始太陽系円盤中で形成されたと考えられており、本研究により、その形成領域と温度環境に大きな多様性があることが明らかになりました。様々な環境で作られた彗星の一部には暖かい環境で作られた複雑な有機物をたくさん含んでいるものもあり、その彗星から放出された物質が、流星という形で太古から地球へこうした有機物を供給してきたと考えられます。

今回、ジャコビニ・ツィナー彗星から複雑な有機分子が検出されましたが、他の彗星にも存在するのか、どういう分子構造なのか詳細を明らかにするには、更なる観測が必要となります。こうした観測には赤外線が有効なのですが、地球の大気が邪魔をしてしまい、すばる望遠鏡のような口径 8mの大望遠鏡でも、地上から観測できるのはごく限られた波長範囲になってしまいます。地球大気の外、宇宙空間であればその制限がなくなるため、さらに多様な有機物の詳細な赤外線観測が可能となります。京都産業大学神山天文台・赤外線高分散ラボでは、宇宙からの赤外線高分散分光観測の実施を目指し、宇宙望遠鏡や探査機に搭載できる小型・赤外線高分散分光器の実現に必要な基盤技術(イマージョン回折格子、セラミック製光学系など)の開発を、関係企業との協働で進めています。

本研究成果は、Ootsubo, Kawakita, Shinnaka, Watanabe, Honda, 2019, “Unidentified Infrared Emission Features in Mid-infrared Spectrum of Comet 21P/Giacobini-Zinner”として、2019年11月18日(世界時)に米国天文学会の天文学雑誌『Icarus(イカルス)』のオンライン版に掲載されました。本研究に参加した本学神山天文台の河北秀世台長と研究機構の新中善晴氏は、これまでも彗星を含む太陽系小天体の観測的研究を行ってきており、今後もESAが2028年に打ち上げ予定の彗星探査計画「コメット・インターセプター」(詳しくはこちら)に参加するなど、世界トップレベルの研究を進めています。京都産業大学神山天文台は今後も太陽系に関する研究をさらに進めてゆく予定です。

論文情報

タイトル Unidentified Infrared Emission Features in Mid-infrared Spectrum of Comet 21P/Giacobini-Zinner
(ジャコビニ・ツィナー彗星の中間赤外線スペクトルに見られた未同定赤外輝線バンド)
著者 大坪貴文 (JAXA宇宙科学研究所)
河北秀世(京都産業大学)
新中善晴(京都産業大学)
渡部潤一(国立天文台)
本田充彦(岡山理科大学)
雑誌 Icarus(イカルス)
発行年月 2019年11月
URL https://doi.org/10.1016/j.icarus.2019.113450

本研究は、文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(課題番号: S1411028)および科学研究費補助金(課題番号:JP17K05381、JP19H00725)の助成を受けて行われました。

関連リンク

追加情報および用語解説

*1 シリケイト鉱物の結晶質の存在量比
彗星にはシリケイト(ケイ酸塩)と呼ばれる鉱物が含まれています。シリケイトは結晶質のものとアモルファス(非晶質)の状態が存在しており、彗星にはこのいずれもが共存しています。アモルファス成分は宇宙空間にも存在しており、太陽系が誕生した時にそのまま彗星核に取り込まれた可能性があります。一方、結晶質成分は宇宙空間にはほとんど存在していないため、彗星に含まれる結晶質のシリケイトは、アモルファスなシリケイト・ダストが原始の太陽の近くで加熱されることで結晶質に変化したものであり、太陽から離れた場所まで運ばれてから、最終的に彗星に取り込まれたと考えられています。太陽から遠くに離れるほど運ぶことのできるダストは少なくなるため、結晶質成分が少ないほど太陽から遠い所で誕生した彗星であると考えられます。
*2 10月りゅう座流星群(旧称:ジャコビニ流星群)
流星(流れ星とも言います)は、宇宙空間にある直径1ミリメートルから数センチメートル程度のダストの粒が地球大気に飛び込むことで、大気と激しく衝突する際の大気や気化したダスト成分が光を放つ現象です。
彗星は太陽に近づくとこのようなダストを軌道上に放出しており、放出されたダストの集団は、それを放出した彗星の軌道上に密集しています。彗星の軌道と地球の軌道が交差している場合、地球がその位置を通過すると、ダストの集団が地球の大気に飛び込んできます。地球が彗星の軌道を横切る日時は毎年ほぼ決まっているので、毎年特定の時期に星空のある一点から放射状に流星が流れる「流星群」が出現します。流星が飛び出す中心となる点を放射点と呼び、放射点のある星座の名前をとって「○○座流星群」と呼ばれます。流星群の素となるダスト(流星体とも呼ばれます)を放出した天体は「母天体」と呼ばれます。
10月りゅう座流星群は、10月初旬(8、9日ころ)に極大となる流星群で、以前は母天体の名前をとって「ジャコビニ流星群」とも呼ばれていました。記録に残るこの流星群の初出現は1920年で、軌道の関係で13年ごとにピーク時の流星の量が大きくなります。この流星群は、1972年に大出現の予測がなされマスメディアでも大きく報道されたためか、松任谷由実氏の「ジャコビニ流星の日」という歌やアストロ球団という漫画の「ジャコビニ流星打法」という必殺技、トップをねらえ!というアニメーションで「ジャコビニ流星アタック」という技名などで使われています。
*3 冷却中間赤外線分光観測装置COMICS(詳しくはこちら 
すばる望遠鏡は標高4,000m以上のマウナケア山頂にあるため、空気が薄く乾いており、中間赤外線による観測が可能です。COMICSは中間赤外線の観測に特化した観測装置で、COMICSを用いた観測によりこれまでに多くの科学的成果が報告されてきています。
冷却中間赤外線分光観測装置COMICS(クレジット:国立天文台)。
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