京都産業大学 神山天文台・近赤外線高分散ラボ(LiH)が近赤外線波長域での詳細なA型星ライン・カタログを世界で初めて公開
2018.11.27
京都産業大学 神山天文台の鮫島 寛明 研究員をはじめとする赤外線高分散ラボ(LiH)の研究グループは、A型星とよばれる普遍的な恒星について、近赤外線波長域(波長0.9-1.3ミクロン)における世界で最も詳細なライン・カタログを出版しました。
宇宙に存在するさまざまな恒星をそのスペクトル(虹)によって分類しようという試みは、20世紀初頭から多くの天文学者たちによって行われ、現在では「ハーバード分類」と呼ばれる分類法が標準となっています。この分類法では、恒星表面の温度が高いものから低いものに順に、O型、B型、A型、F型、G型、K型、M型、・・・というように名付けられています(図1)。ちなみに私たちの太陽は、表面温度約6000℃であり、G型に分類されます。特にA型星は最もシンプルな(目立った吸収線の無い)スペクトルのパターンを持っており、赤外線天体観測において、天体の明るさ(エネルギー)の基準、あるいは地球大気による吸収線を天体のスペクトルから除去する際などに頻繁に利用されてきました(『神山天文台研究員らのチームが「近赤外線波長域における地球大気吸収線の精密補正」を可能に』)。特に後者の目的に利用される際には、A型星のスペクトルがシンプルであることが重要となっていました。しかし、赤外線波長域において非常に細かな吸収線がA型星にも多数存在していることが予想されながら、その詳細な観測・研究は進んでいませんでした。
京都産業大学 神山天文台の赤外線高分散ラボ(LiH)では、鮫島 寛明 研究員を中心として、A型星の赤外線波長域における高分散スペクトル(波長分解能※128,000)を詳細に研究し、波長0.9ミクロンから1.35ミクロンにおける吸収線の詳細なカタログを作成しました。赤外線高分散ラボが中心となって開発した高精度・近赤外線高分散分光器WINEREDを神山天文台 口径1.3m荒木望遠鏡に取り付け、極めて精密なA型星の近赤外線高分散スペクトルを得ることに成功しました。ターゲットとなったのは、やまねこ座の21番星(21 Lyn)です(図2)。鮫島研究員は、A型星における微弱な吸収線をリストアップし、カタログ化することを目的としていました。恒星スペクトルに見られる吸収線は、恒星が早く自転するほど幅が広く・浅くなるため、より微弱な吸収線を検出するためには自転速度の遅い恒星を観測する必要があったのです。やまねこ座21番星は、こうした条件にまさに適合していました。スペクトル型はA0.5Vと極めてノーマルなものであり、また、自転速度を観測者方向に投影した成分(v sin i)は毎秒19 kmと通常観測される恒星としては非常に遅いものでした。そのため、微弱な吸収線であっても検出しやすいという利点があったのです。
鮫島 研究員のこうした戦略が功を奏し、今回、WINEREDによる観測から、微弱な吸収線を含む219本の吸収線をやまねこ座21番星において検出することに成功しました(図3)。検出された吸収線は、水素、炭素、窒素、酸素、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、硫黄、カルシウム、鉄、・・・といった様々な元素が原因となっています。A型星において近赤外線波長域にこれだけ多数の微弱な吸収線が検出されたのは、世界で初めての事です。これは、WINEREDが当該波長域において世界トップクラスの波長分解能と精度を誇っていたからこそ、可能となったのです。これまで同波長域では、今回の研究成果に比べて10分の1以下の波長分解能で観測された恒星スペクトルのカタログしか存在していませんでした。恒星を研究する際には、当該波長域にどのような吸収線が見られるのか?ということを詳細に列挙した辞書のような役割を果たす「ライン・カタログ」が必要不可欠だったのですが、これまでそうした研究に利用可能な観測装置が存在していなかったと言っても過言ではありません。今回、WINEREDが観測したA型星やまねこ座21番星の詳細なライン・カタログを公開したことで、赤外線波長域における地球大気吸収線の除去過程をより精密にすると共に、またA型星それ自体の元素組成比をより精密に決定する研究にも寄与することができます。
※1 波長分解能: 分光観測において波長λミクロンで波長幅Δλを分解できる場合、波長分解能R=λ/Δλと定義します。
鮫島 研究員のこうした戦略が功を奏し、今回、WINEREDによる観測から、微弱な吸収線を含む219本の吸収線をやまねこ座21番星において検出することに成功しました(図3)。検出された吸収線は、水素、炭素、窒素、酸素、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、硫黄、カルシウム、鉄、・・・といった様々な元素が原因となっています。A型星において近赤外線波長域にこれだけ多数の微弱な吸収線が検出されたのは、世界で初めての事です。これは、WINEREDが当該波長域において世界トップクラスの波長分解能と精度を誇っていたからこそ、可能となったのです。これまで同波長域では、今回の研究成果に比べて10分の1以下の波長分解能で観測された恒星スペクトルのカタログしか存在していませんでした。恒星を研究する際には、当該波長域にどのような吸収線が見られるのか?ということを詳細に列挙した辞書のような役割を果たす「ライン・カタログ」が必要不可欠だったのですが、これまでそうした研究に利用可能な観測装置が存在していなかったと言っても過言ではありません。今回、WINEREDが観測したA型星やまねこ座21番星の詳細なライン・カタログを公開したことで、赤外線波長域における地球大気吸収線の除去過程をより精密にすると共に、またA型星それ自体の元素組成比をより精密に決定する研究にも寄与することができます。
※1 波長分解能: 分光観測において波長λミクロンで波長幅Δλを分解できる場合、波長分解能R=λ/Δλと定義します。
前述のように、当該波長域にどのような吸収線が見られるのか?ということを詳細に列挙した辞書のような役割を果たす「ライン・カタログ」が、恒星の研究には必要不可欠です。今回の研究成果はA型星についてのライン・カタログでしたが、恒星のスペクトル型によって見られる吸収線の種類や強度が変わるため、各種恒星スペクトルごとにライン・カタログが必要です。神山天文台・赤外線高分散ラボでは、独自に開発した高精度・近赤外線高分散分光器WINEREDを活用し、今後、様々なスペクトル型の恒星についても、近赤外線波長域におけるライン・カタログの公開を進めてゆく予定です。波長0.9~1.35ミクロンにおける精密な高分散分光観測を可能としたWINEREDは、A型星のみならず様々なスペクトル型の恒星天文学研究に大きなブレークスルーをもたらすと期待されます。
タイトル | WINERED High-resolution Near-infrared Line Catalog: A-type Star (WINEREDによる近赤外線高分散ライン・カタログ:A型星) |
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著者 | 鮫島 寛明、池田 優二、松永 典之、福江 慧、小林 尚人、他11名 (京都産業大学 神山天文台・赤外線高分散ラボ) |
雑誌 | The Astrophysical Journal Supplement Series |
発行年月 | 2018年11月 |
本研究は、文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(課題番号: S0801061、S1411028)および科学研究費補助金(課題番号:16684001、20340042、21840052、26287028、18H01248、16H07323、13J10504)、ならびに日本学術振興会 二国間交流事業 (JSPS-DST; 2013-2015、2016‐2018)の助成を受けて行われました。
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