【理学部】宇宙物理・気象学科 小郷原 一智 教授が火星中緯度の温帯低気圧とダストストームの関係についての論文を出版しました
2025.04.11
宇宙物理・気象学科 小郷原 一智 教授による、火星の中緯度における温帯低気圧とダストストームの発生との関係についての論文が、アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union, AGU)の論文誌Journal of Geophysical Research - Planetsに掲載されました。
掲載論文
雑誌 : Journal of Geophysical Research - Planets
巻号 : Volume 130, Issue 3
URL : https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024JE008455
題目 : Martian Local Dust Storms Associated With Extratropical Cyclones in Arcadia Planitia
著者 : Kazunori Ogohara
巻号 : Volume 130, Issue 3
URL : https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024JE008455
題目 : Martian Local Dust Storms Associated With Extratropical Cyclones in Arcadia Planitia
著者 : Kazunori Ogohara
研究概要
地球と同じように火星の中緯度には真夏を除いて西風ジェットが吹いています。さらに地球と同じように高低気圧が西からやってくるので、西から天気が変わります。このような移動性高低気圧は、大気力学的には傾圧不安定波と呼ばれる大気波動であることが知られています。過去の火星観測から、火星中緯度のダストストーム(いわゆる砂嵐)は、移動性高低気圧の高気圧と低気圧の気圧差が大きい(すなわち傾圧不安定波の振幅が大きい)地域や季節で多発することがわかってきました。しかし、火星中緯度のダストストームが高気圧の中で発生しやすいのか、低気圧(この場合は温帯低気圧)の中で発生しやすいのか、寒冷前線の通過時に発生しやすいのか、西高東低の冬型の気圧配置の時に発生しやすいのか、全くわかっていませんでした。中緯度の温帯低気圧システムが強化される地域や季節にダストストームが多発するのですから、ダストストームと温帯低気圧に何らかの関係性があることは想像できていましたが、具体的に温帯低気圧システムの何がどのようにしてダストストストームを引き起こすかはわかっていなかったのです。
そこで小郷原教授は、アメリカの火星探査機マーズ・グローバル・サーベイヤーに搭載されたマーズ・オービター・カメラが撮影した画像から、深層学習を用いて、火星のアルカディア平原西部で発生した砂嵐を自動的に抽出しました。この地域のlocal dust storm(大きさがおよそ1300×1300 km2以下)は、北半球の冬至の前後を除いて、ほぼ北半球の秋分と春分の間に集中していました。また、local dust stormが頻繁に観測される時期には、下層大気における波長5000km程度の傾圧不安定波が増幅される傾向がありました。さらに、数値シミュレーションデータを観測データと整合するように補正した再解析データと呼ばれるデータセットをもちいて、local dust stormが観測されたときの周辺の大気環境を調べました。その結果、local dust stormは、傾圧不安定波に伴う温かい南風域(寒冷前線と温暖前線の間にある暖かい空気)とその周辺で形成される傾向があることがわかりました。南から温帯低気圧に流入した暖気は下層大気を不安定にし、日中は地表付近の対流を強めます。夜にはエリシウム山の北側斜面を吹き下ろす南風を強化します。どちらの場合も、暖かい南風領域で地表の応力が増大し、観測された砂嵐の形成につながります。
本論文は、火星中緯度のダストストームを直接的に引き起こすメカニズムを観測的に示唆した点で大変意義があります。将来的には、アラブ首長国連邦(UAE)の火星ミッションHOPEや日本の火星衛星探査計画Martian Moons eXploration (MMX)によって、火星ダストストームの発生や成長がより細かくモニタリングされ、多様なダストストームのメカニズムが明らかになると期待されます。
そこで小郷原教授は、アメリカの火星探査機マーズ・グローバル・サーベイヤーに搭載されたマーズ・オービター・カメラが撮影した画像から、深層学習を用いて、火星のアルカディア平原西部で発生した砂嵐を自動的に抽出しました。この地域のlocal dust storm(大きさがおよそ1300×1300 km2以下)は、北半球の冬至の前後を除いて、ほぼ北半球の秋分と春分の間に集中していました。また、local dust stormが頻繁に観測される時期には、下層大気における波長5000km程度の傾圧不安定波が増幅される傾向がありました。さらに、数値シミュレーションデータを観測データと整合するように補正した再解析データと呼ばれるデータセットをもちいて、local dust stormが観測されたときの周辺の大気環境を調べました。その結果、local dust stormは、傾圧不安定波に伴う温かい南風域(寒冷前線と温暖前線の間にある暖かい空気)とその周辺で形成される傾向があることがわかりました。南から温帯低気圧に流入した暖気は下層大気を不安定にし、日中は地表付近の対流を強めます。夜にはエリシウム山の北側斜面を吹き下ろす南風を強化します。どちらの場合も、暖かい南風領域で地表の応力が増大し、観測された砂嵐の形成につながります。
本論文は、火星中緯度のダストストームを直接的に引き起こすメカニズムを観測的に示唆した点で大変意義があります。将来的には、アラブ首長国連邦(UAE)の火星ミッションHOPEや日本の火星衛星探査計画Martian Moons eXploration (MMX)によって、火星ダストストームの発生や成長がより細かくモニタリングされ、多様なダストストームのメカニズムが明らかになると期待されます。

参考
- 京都産業大学 教員紹介ページ:小郷原 一智 教授