【理学研究科】神山天文台において可視光・小型屈折型補償光学装置CRAOの実証実験に成功

2023.11.16

理学研究科・博士後期課程の坂部 健太さんを中心とする研究開発グループ(京都産業大学、株式会社フォトクロス、国立天文台)は、これまで、神山天文台において可視光線波長域で動作する小型の補償光学装置CRAOの開発を行ってきました。この度、神山天文台・口径1.3m荒木望遠鏡に装着したCRAOによって可視光線波長域で星像を大幅に改善することに成功しました(その結果は、9月18日に開催された研究会「第19回 補償光学研究開発のための情報交換会」において坂部さんが発表しています)。

補償光学装置は、地球の大気によって乱された星の像をシャープな像へと復元する技術が基礎となっており、20年ほど前から赤外線波長域で口径8mクラスの大型望遠鏡に装備されて、天文観測に活用されてきました。しかし、より波長の短い可視光線波長域では、技術的なハードルが非常に高くなり、実現例は多くありません。とくに神山天文台のある日本国内では、大気の状態が悪く、絶えず変動する地球大気によってゆがんだ星像を、地球大気の影響を受ける前(つまり宇宙から地球に届いた直後)の状態に近付けることは容易ではありません。

坂部さんたちのグループでは、そうした困難の克服と、中小口径望遠鏡における小型・安価な装置の実現を目指し、レンズを用いた「屈折式」の光学系によって装置全体を小型化(従来の補償光学装置に比べて装置面積が1/3程度)、また補償光学装置で重要となる波面センサや可変形鏡に市販の光学部品を用いることで製作費用が200万円程度と大型望遠鏡の補償光学装置に比べて製作コストをおよそ1/50程度に抑えてCRAOを実現しました(図1)。現在のCRAOは、絶えず変動する地球の大気によって歪んだ星像を、数ミリ秒(1ミリ秒は1/1000秒)という短い時間で高速に補正し、ぼやけた星像をシャープに改善することに成功しました。神山天文台での平均的なシーイング・サイズ(星像のボケ)は2〜3秒角(注1)ですが、今回、最良の場合で約0.6秒角まで星像を改善できています。世界最良の天文観測地のひとつである米国・ハワイ島のマウナケア山の山頂(標高4,200m)での典型的なシーイング・サイズは0.7秒角程度(注2)と言われているため、これに匹敵することになります。図2の画像は、みずがめ座の連星 ζ Aqr を実際に観測した例です。二つの星は2.4秒角離れており、CRAOの補正なしには二つの星はぼやけて分離できていません。CRAOによる補正によって星像がシャープになり、より明確に分離できていることがわかります。

こうした星像改善によって、より狭い範囲に星からの光を集中させられると、CRAOと組み合わせたさまざまな天文観測装置による観測において、より暗い天体の観測が可能になります。現在、CRAOでは最短3ミリ秒程度で星像を補正していますが、今後、さらに短い時間で補正を行うことで、さらなる性能向上も期待できると坂部さんは語っています。

注1)1秒角は角度の単位で、1/3600度に相当する。
注2)すばる望遠鏡での典型的な可視光シーイング・サイズはすばる望遠鏡Webページに記載されている。
図1:今回開発した補償光学装置CRAOの構成とサイズ
図2:CRAOによる画像改善例(みずがめ座の連星ζ Aqr、離角2.4秒角)。左は補正無し、右が補正後。
研究を主導した坂部 健太さん(理学研究科 博士後期課程3年次生)とCRAO

謝辞
本研究は、公益法人住友財団 基礎科学研究助成(助成番号:130610、研究代表者:藤代尚文)、京都産業大学理学研究科、神山天文台の支援を受けて実施されました。
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