太った星の体温測定—爆発前の超巨大星の表面温度を正確に測定することに成功

2021.03.01

図1.赤く太った恒星である赤色超巨星の温度を地球から測定している様子のイメージ図。(画像提供:東京大学)

京都産業大学神山天文台や東京大学などからなる研究グループは、主に恒星の表面付近で形成される鉄原子吸収線を用いることで、太陽の約9倍以上の質量を持つ恒星(大質量星)が進化した姿である赤色超巨星の温度を正確に決定する方法を確立しました。この方法は、既に温度がよく分かっている9個の赤色巨星から求めた11組の鉄吸収線のライン強度比(深さの比)と温度の間の関係を用いるという非常にシンプルなもので、複雑な数値モデルを介して測定する従来の手法と比べて、正確に温度を測定することができると期待されます。

この方法を用いて、京都産業大学神山天文台の荒木望遠鏡(口径1.3m)に搭載した近赤外線高分散分光器WINERED(ワインレッド)を用いて、2013年2月から2016年5月にかけて観測した10個の赤色超巨星の温度を正確に推定しました。また、欧州宇宙機関の位置天文衛星ガイアが2020年12月に公開したばかりの高精度な恒星までの距離を世界で一早く活用することで、赤色超巨星の正確な明るさの推定にも成功しました。本研究で得られた赤色超巨星の温度と明るさは、大質量星進化の理論モデルの予想とよく一致するものでした。

今後、年齢や金属量が異なるさまざまな赤色超巨星に同手法を適用することで、別の銀河や宇宙の初期に生まれた大質量星など、太陽系の近くにあるような星以外に対する恒星進化の理論モデルの検証ができるようになります。

この研究成果は、2021年2月28日(世界時)に、英国の天文学専門誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(オンライン版)』に出版されました。研究の詳細は下記リリースページをご覧ください。

関連リンク

近赤外線高分散分光器WINERED(ワインレッド)

WINERED(ワインレッド)は、京都産業大学神山天文台の研究プロジェクト「赤外線高分散ラボ(Laboratory of Infrared High-resolution spectroscopy: LiH)」がが東京大学や民間企業と協働で開発した近赤外線高分散分光器です(図2)。赤外線高分散ラボでは、開発当初から世界展開を念頭に活動をしており、そのきっかけとして、世界トップの性能を持つ観測装置の開発を行ってきました。WINEREDの大きな特徴は、望遠鏡で集めた光を無駄にしない(感度が高い)という点で、同様の装置と比べて3~5倍以上高い感度を持っています。WINEREDは、2012年5月からエンジニアリング観測やサイエンス観測を開始しました。研究対象は、太陽系小天体や星間物質、太陽系外惑星、本学創設者 荒木俊馬博士が理論研究をしていたセファイド型変光星やはくちょう座P星や新星といった質量放出天体など多岐にわたります。こうした成果により、2017年から2018年にかけて、観測条件の良いチリ共和国(ラ・シヤ天文台の新技術望遠鏡(口径3.58m))へWINEREDを移設し、サイエンスのさらなる拡大を目指して観測を行ってきました。現在は、さらに口径の大きいマゼラン望遠鏡(口径6.5m、チリ共和国ラス・カンパナス観測所)への移設を進めています。一方、WINEREDをさらに高性能にすべく、現在でも本学学生や神山天文台スタッフらにより改良を進めています。

神山天文台における装置の開発や論文の出版には、本学学生や神山天文台スタッフが大きな活躍をしています。学生諸氏は、様々な知識や技術を学びながら、世界屈指の性能を誇る観測装置を開発し、自らが開発した装置を用いた観測的研究を行っています。京都産業大学神山天文台・赤外線高分散ラボでは、この他にも、赤外線波長におけるイマージョン回折格子や高ブレーズ角回折格子、セラミック製光学系などの赤外線高分散分光天文学の発展に不可欠な基礎技術の開発を東京大学や民間企業と協働で進めています。神山天文台は、高性能な赤外線高分散分光器の開発拠点として、またそれらを用いた世界最高水準の研究拠点として、今後も世界の天文学をリードします。

図2.荒木望遠鏡に搭載した近赤外線高分散分光器WINERED(2016年1月撮影)。
(画像クレジット:京都産業大学神山天文台)

論文情報

雑誌名 Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
論文タイトル Effective temperatures of red supergiants estimated from line-depth ratios of iron lines in the YJ bands, 0.97–1.32 µm
「YJバンド(0.97–1.32 マイクロメートル)に見られる鉄原子吸収線のライン強度比を用いて推定した赤色超巨星の有効温度」
著者

谷口 大輔(東京大学)
松永 典之*(東京大学)
Mingjie Jian(東京大学)
小林 尚人*(東京大学)
福江 慧(京都産業大学)
濱野 哲史*(国立天文台)
池田 優二*(フォトコーディング)
河北 秀世(京都産業大学)
近藤 荘平*(東京大学)
大坪 翔悟(京都産業大学)
鮫島 寛明(東京大学)
竹中 慶一(京都産業大学)
安井 千香子*(国立天文台)
※本学神山天文台 客員研究員には名前の後ろ*印がついています。

DOI番号 10.1093/mnras/staa3855
アブストラクトURL(英語) https://academic.oup.com/mnras/article/502/3/4210/6146779
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