星形成過程における質量流出プロセスと原始惑星系円盤進化との関係性を発見
2019.11.28
今回の成果のポイント
- おうし座星形成領域に存在する中質量(ここでは太陽質量の1.5倍から4倍程度の質量)の若い星(「前主系列星」と呼ばれ、年齢はおよそ100万歳)について、神山天文台で開発した観測装置「WINERED(ワインレッド)*1」を用いた近赤外線高分散分光観測を実施しました。得られたスペクトルには、中心星周辺から外側への質量流出を示す水素原子やヘリウム原子のラインが見られました。
- スペクトル形状の詳細な解析結果から、、およそ100天文単位にも広がる原始惑星系円盤のうち中心星からわずか0.3天文単位の位置にある円盤最内縁部のダスト円盤の有無により、中心星周辺の質量流出プロセスが決定づけられることを見出しました。これにより、質量流出プロセスが円盤最内縁部の不透明度に依存するという物理描像を提案し、長い間未解決のまま残されている質量流出メカニズムに対して観測的に大きな制約をつけました。
- さらに、恒星の表層部分である彩層由来のヘリウム原子による吸収線(波長λ=1083.0 nm)を、前主系列星において初めて検出しました。この吸収線は一般に、紫外線やX線などの強いエネルギーを持つ光を大量に発する環境で見られることから、これらの星が非常に若い段階から活発に活動していることを明らかにしました。たとえこれらの星の円盤中で地球のような惑星が形成されたとしても、生命が誕生するためにはあまりに過酷な環境であることが予想されます。
本文
太陽のような自ら輝く星(恒星)は、宇宙に漂うガス雲(およそ1%の微量のダストを含む)が重力により収縮することで生まれます。恒星は、誕生時の質量によってその後の進化が決まり、重い星ほどその一生は急速に短くなることが知られています。
小中質量星は以下のような描像で形成されることがこれまでの様々な観測からわかってきています(図1)。最初に、ガス雲の中心で赤ちゃん星(原始星)ができると、原始星に向かって落ち込む(降着する)ガスの一部は円盤(原始惑星系円盤)を作り、ガスが恒星表面に向かって公転しながら降着します。この時、中心星の近くにあるガスの一部は、双極方向のガス流として星間空間へ放出されます。その後、原始惑星系円盤の中で惑星を形成する材料である微惑星と呼ばれる小天体が形成され、やがて、微惑星同士の合体によって惑星が形成されます。太陽は恒星の中では質量が小さい「小質量星」に分類されます。小質量星の誕生と進化を知ることは太陽や太陽系の起源を知る上で重要ですが、それより重い星でも小質量星と同じように惑星が形成されているかはよく分かっていません。そこで、進化が早すぎて数も少ない大質量星ではなく、「中質量星(ここでは太陽質量の1.5倍から4倍程度の質量)」を調べることが注目されてきています。
論文情報
タイトル |
Possible progression of mass flow processes around young intermediate-mass stars based on high-resolution near-infrared spectroscopy. I. Taurus |
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著者 | 安井千香子*(国立天文台)/濱野哲史*(国立天文台) 福江慧(京都産業大学)/近藤荘平*(東京大学) 鮫島寛明(東京大学)/竹中慶一(京都産業大学) 松永典之*(東京大学)/池田優二*(フォトコーディング) 河北秀世(京都産業大学)/大坪翔悟(京都産業大学) 渡瀬彩華(京都産業大学)/谷口大輔(東京大学) 水本岬希(日本学術振興会海外特別研究員/英国ダーラム大学) 泉奈都子(茨城大学・国立天文台)/小林尚人*(東京大学) ※本学神山天文台の客員研究員には名前の後ろに*を付けています。 |
雑誌 | The Astrophysical Journal(アストロフィジカル・ジャーナル) |
発行年月 | 2019年11月28日(世界時) |
URL | https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab45ee |
本研究は、文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(課題番号: S0801061、S1411028)および科学研究費補助金(課題番号:16684001、20340042、21840052、13J10504、16H07323、18H05441)、ならびに日本学術振興会 二国間交流事業 (JSPS-DST; 2013-2015、2016‐2018)の助成を受けて行われました。
追加情報および用語解説
京都産業大学神山天文台の研究プロジェクト「赤外線高分散ラボ(Laboratory of Infrared High-resolution spectroscopy: LiH)」が、東京大学や関連企業との協働によって開発した、世界トップの感度を誇る近赤外線高分散分光器です。波長範囲は近赤外線波長域(0.9–1.3 μm)で、WIDEモード(波長分解能=28,000)とHIRESモード(波長分解能=70,000)の2つの観測モードを有しています。近赤外線波長は、可視光と比べてガスを見通した観測が可能であるため、可視光と比べて濃いガスの中まで観測することができます。これまでにも数多くのDIB(Diffuse interstellar band)の発見、彗星に含まれるCN分子の元素同位体比、晩期型巨星の有効温度の推定、ミラ型星の化学組成比の導出、大気吸収線の補正方法の確立、早期型星のラインカタログの作成(Hamano et al. 2015, 2016, 2019, Sameshima et al. 2018a, 2018b, Shinnaka et al. 2017, Taniguchi et al. 2018)など様々な天体について成果を出してきました。2017年以前は、京都産業大学神山天文台の荒木望遠鏡(口径1.3 m)に搭載し、様々な観測を行ってきました。2017年からはサイエンスの拡大を目指して、チリ共和国のラ・シヤ天文台の新技術望遠鏡(口径3.58 m)に搭載して運用しており、現在はさらなるサイエンスの拡大を目指して、ラス・カンパナス観測所(チリ共和国)のマゼラン望遠鏡(口径6.5 m)への移設を進めています。
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