京都産業大学神山天文台 世界初!「ぼやけた星間線」の観測に成功
2016.05.25
京都産業大学神山天文台の濱野 哲史研究員の研究グループは、神山天文台が開発した観測装置「WINERED(近赤外線高分散分光器)※」を使い、世界で初めて『ぼやけた星間線(通称:DIB)』の原因となる分子の観測に成功しました。DIBの正体解明は、天文学100年来の最大の課題の一つであり、これからのDIBの正体解明やDIB同定に繋がることが期待されます。
※WINERED(近赤外線高分散分光器):京都産業大学神山天文台の研究プロジェクト「赤外線高分散分光ラボ(LiH)」が、東京大学大学院や関連企業との協働によって開発した世界トップレベルの感度を誇る近赤外線高分散分光器(波長範囲0.9〜1.3μm、波長分解能30,000の観測モードで、現在運用中)。
※WINERED(近赤外線高分散分光器):京都産業大学神山天文台の研究プロジェクト「赤外線高分散分光ラボ(LiH)」が、東京大学大学院や関連企業との協働によって開発した世界トップレベルの感度を誇る近赤外線高分散分光器(波長範囲0.9〜1.3μm、波長分解能30,000の観測モードで、現在運用中)。
天文学100年来の課題「ぼやけた星間線」の謎に迫る
100年以上前に初めて発見された「ぼやけた星間線(Diffuse Interstellar Band、略してDIB)は、星間空間に存在する複雑な分子が引き起こす光の吸収ではないかと考えられながら、その原因となる分子の正体は未だ十分には明らかになっていません(図1)。
現在までに500本以上のDIBが発見され、また現在でも様々な波長において新しい種類のDIBが発見され続けているにも関わらず、昨年度になってようやく固定されたフラーレン・イオン(C60+)の4本を除けば、全てが未同定のままなのです(図2)。そのため、DIBの正体解明は、天文学100年来の最大の課題のひとつとなっています(こうした吸収線の原因となる分子の固定には、様々な分子のつくる吸収線を実際に実験室で確かめる必要がありますが、膨大な数の種類の複雑系分子から、該当するものを推定し、実際に実験を行うという事は極めて時間のかかる作業なのです)。
現在までに500本以上のDIBが発見され、また現在でも様々な波長において新しい種類のDIBが発見され続けているにも関わらず、昨年度になってようやく固定されたフラーレン・イオン(C60+)の4本を除けば、全てが未同定のままなのです(図2)。そのため、DIBの正体解明は、天文学100年来の最大の課題のひとつとなっています(こうした吸収線の原因となる分子の固定には、様々な分子のつくる吸収線を実際に実験室で確かめる必要がありますが、膨大な数の種類の複雑系分子から、該当するものを推定し、実際に実験を行うという事は極めて時間のかかる作業なのです)。
図1:「ぼやけた星間線」の観測は、通常の恒星を背景の光として、恒星から地球までの間に存在するガス(星間物質)が光を吸収する痕跡を検出します。(出典:http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2015/images/04/01b.jpg) ※クリックで拡大
図2:神山天文台WINEREDで観測した「ぼやけた星間線」DIBの代表例(フラーレンの陽イオンによる吸収と2015年に初めて同定されたもの)。通常の恒星スペクトルに見られる吸収線はもっと幅広く、また原子状の星間ガスによる吸収線はもっと細い形をしています。 ※クリックで拡大
星間空間には様々な環境(紫外線強度、ガス密度、温度、…)が存在しますが、「DIBを形成する分子(DIBキャリア)が宇宙空間にどのように分布しているのか?」については、これまで、十分な理解は得られていませんでした。DIBキャリアがどういった環境に豊富に存在するかという情報は、DIBキャリアを特定するために貴重な鍵となります。
しかし、星間空間でも比較的ガスの濃い環境では、DIBキャリアの分布についてほとんどわかっていません。これまで、ほとんどのDIB研究が可視光線波長域で行われてきた為に、比較的濃いガスを見通した観測が難しかったのです。
今回、京都産業大学 神山天文台の濱野研究員をはじめとする研究グループは、同天文台の口径1.3m荒木望遠鏡に設置された『近赤外線高分散分光器WINERED』を用いて、はくちょう座にある「はくちょう座OB2星団」と呼ばれるガスに埋もれた星の集団において、DIBキャリアが環境によって欠乏したり、逆に豊富に存在したりしている様子を、初めて赤外線波長域での観測から明らかにしました。
この「はくちょう座OB2星団は比較的若い星の集団であり、周囲の濃いガスに埋もれています。また、この星団と地球との間には、それらのガスとは別に薄い星間ガスが存在していると考えられています(図3)。
通常、可視光線での観測は、上記の薄い星間ガス(図3の①)を通して星を観測することがはできても、これらの星団を取り巻く濃いガス(図3の②および③)を通して恒星を観測することは困難でした。そのため、様々なDIBキャリアが、これらのガスのどの部分に豊富に存在しているのか(DIBキャリアによって、空間分布に違いがあるのか)については、あまり理解されていませんでした。
今回、WINEREDを用いることによって、より透過能力の高い赤外線に置いて星団の星々を観測することができ、星団をとりまくガス雲のより内部まで、DIBキャリアの分布を明らかにすることができたのです。
しかし、星間空間でも比較的ガスの濃い環境では、DIBキャリアの分布についてほとんどわかっていません。これまで、ほとんどのDIB研究が可視光線波長域で行われてきた為に、比較的濃いガスを見通した観測が難しかったのです。
今回、京都産業大学 神山天文台の濱野研究員をはじめとする研究グループは、同天文台の口径1.3m荒木望遠鏡に設置された『近赤外線高分散分光器WINERED』を用いて、はくちょう座にある「はくちょう座OB2星団」と呼ばれるガスに埋もれた星の集団において、DIBキャリアが環境によって欠乏したり、逆に豊富に存在したりしている様子を、初めて赤外線波長域での観測から明らかにしました。
この「はくちょう座OB2星団は比較的若い星の集団であり、周囲の濃いガスに埋もれています。また、この星団と地球との間には、それらのガスとは別に薄い星間ガスが存在していると考えられています(図3)。
通常、可視光線での観測は、上記の薄い星間ガス(図3の①)を通して星を観測することがはできても、これらの星団を取り巻く濃いガス(図3の②および③)を通して恒星を観測することは困難でした。そのため、様々なDIBキャリアが、これらのガスのどの部分に豊富に存在しているのか(DIBキャリアによって、空間分布に違いがあるのか)については、あまり理解されていませんでした。
今回、WINEREDを用いることによって、より透過能力の高い赤外線に置いて星団の星々を観測することができ、星団をとりまくガス雲のより内部まで、DIBキャリアの分布を明らかにすることができたのです。
図3:はくちょう座OB2星団と観測者(地球)との関係。星団中の星が発する光は、途中の様々な環境のガスを通過して観測者に届きます。 ※クリックで拡大
濱野研究員は、WINEREDによって観測されたほとんどのDIBキャリアが手前の薄いガス雲(①)には存在しているが、はくちょう座OB2星団をとりまくガス(②)の中では一部のDIBキャリアは欠乏しており、更に、特に濃い部分(③)ではほとんどのDIBキャリアが欠乏してしまっていることを明らかにしました。紫外線強度やガス密度など、星間環境によって影響を受けやすく欠乏しやすいDIBキャリアや、逆に影響を受けにくいDIBキャリアが存在しているのです。
図4:星の手前に分布する「ガスの量」に対する3本のDIBの強度。一般的な薄い星間ガスではガス量に比例してDIB強度が大きくなるのに対し、はくちょう座OB2星団ではDIBによってガス量に対して欠乏あるいは増加するなど多様な振る舞いを見せています。 ※クリックで拡大
DIBキャリアとなる分子がどのような環境に豊富にあるのか(紫外線が強い方が良いのか?弱い方が良いのか?)など、濃いガスを見通して様々な環境におけるDIBキャリアの存在量を明らかにすることが、将来のDIB同定に繋がると期待されています。そのため、ガスを透過する能力が高い赤外線波長の光は、DIBキャリアの空間分布を研究する上で非常に重要です。
また、赤外線波長域には、昨年に同定されたC60+など様々なDIBキャリア候補分子の電離イオンが吸収線をつくると予想されており、新たなDIBの発見という観点からも重要な波長域と言えます。今回の濱野研究員らによる研究結果は、赤外線波長域でのDIB探査の重要性を示した貴重な成果であり、同研究グループでは、2015年にDIBキャリアとして初めて同定されたC60+についても、その空間分布(および環境依存性)を明らかにするための観測を神山天文台で進めています。
また、赤外線波長域には、昨年に同定されたC60+など様々なDIBキャリア候補分子の電離イオンが吸収線をつくると予想されており、新たなDIBの発見という観点からも重要な波長域と言えます。今回の濱野研究員らによる研究結果は、赤外線波長域でのDIB探査の重要性を示した貴重な成果であり、同研究グループでは、2015年にDIBキャリアとして初めて同定されたC60+についても、その空間分布(および環境依存性)を明らかにするための観測を神山天文台で進めています。