【法学会 秋期学術講演会】「賭博と保険」—インデックス保険は許されるのだろうかー

2025.01.31

本学法学部法学会主催、秋期学術講演会が開催され、「賭博と保険—インデックス保険は許されるのだろうか」をテーマに吉澤 卓哉 教授が賭博と保険の関連性について講演されました。

(学生ライター 法学部4年次 清水 佳寿美)

法学部 吉澤 拓哉 教授
初めに今回のテーマである「賭博と保険」について賭博の歴史的背景を説明されました。

日本における「賭博」とは?

「賭博」は古くから人間の娯楽の一部であり、世界中でさまざまな形態が見られます。日本で賭博は労働意欲の減退や、副次的犯罪の誘発、信用賭博による問題などが懸念され、刑法第185条‑187条では賭博行為に対して処罰規が設けられていますが、宝くじや競馬といった公営競技、パチンコなど一部は例外として認められています。この「賭博」の魅力の一つは、還元率の低さにもかかわらず得られる精神的な興奮や期待感にあると考えられており、例えば、宝くじの還元率が50%の場合、1000円をかけても平均的には500円の損失となるが、「当たるかもしれない」という期待が人々を引きつける要因となっていると考えられるようです。

保険と賭博

そして吉澤教授は、保険と賭博が以下のような点で類似していることを指摘されました。
  • 偶然性が関与すること
  • 高額な対価が前払いで支払われること
  • では、この類似点をどのように保険と賭博に区別するべきなのでしょうか?損害保険は以下のような区別がなされています。
    (a)被保険利益要件(損害保険で、保険の目的と被保険者との間に存在する利害関係のこと) として、保険法3条を根拠としている。「損害保険契約は、金銭に見積もることができる利益に限り、その目的とすることができる。」
    (b)利得禁止原則(実際に被った損害を超える保険給付は受けられないという原則) については、明文規定なし。判例・学説によって認められている。
    そして吉澤教授は提案として、大規模災害時の保険金支払遅延などの可能性がある(b)利得禁止原則の見直しをもって、インデックス保険の可能性を示されました。

インデックス保険の特徴と可能性

インデックス保険は、損害額を厳密に算定せず、一定の条件を満たした場合に定額の保険金を支払う仕組みです。たとえば、自然災害による損害が発生した際、損害額の具体的な査定を省略して保険金が支払われるケースがこれに該当します。この仕組みの導入により、保険金支払いの迅速化や被災者支援の効率化が期待されています。
【日本の例】
自動車保険の「地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約」では、条件を満たすと一律50万円が支払われます。
【海外の例】
英国のFloodFlash社による洪水保険では、水位計の測定結果に基づいて保険金が支払われます。


将来への期待

インデックス保険の導入は、損害保険だけでなく生命保険や疾病保険などの分野にも応用できる可能性があります。しかし、モラルハザード(保険に加入することで、事故や病気といったリスクへの注意が、おろそかになってしまう状態)の防止や法的整備、基準の明確化が引き続き求められます。迅速な保険金支払いが実現すれば、被災者の安心感や社会全体の信頼感が向上することでしょう。インデックス保険が日本の保険制度の未来を切り開く鍵となることが期待されます。
筆者は今回の講演を通じて、賭博と保険が持つ本質的な関係性と、インデックス保険が現代社会にもたらし得る影響を深く考察する契機となりました。特に、吉澤教授が提案された迅速な保険金支払い基準の整備や、モラルハザード防止の具体案は、保険制度の信頼性向上に寄与する重要な議論であると感じました。これからの研究の進展と法整備の実現に注目していきたいと思います。
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