【法学部】元レディース総長のゲスト中村すえこさんに聞く、私たちにできる「社会復帰支援」とは

2023.06.29

ゲストスピーカーの中村すえこ氏

法学部の専門教育科目「矯正社会学」(担当:服部 達也 教授)は「刑務所や少年院の社会的役割・機能および被収容者処遇の内容を理解し、社会復帰支援の重要性を認識すること」を目的として開講されています。今回は学校教員で、「NPO法人セカンドチャンス!」(※)のメンバーであり、ドキュメンタリー教育映画の監督でもある中村すえこさんをゲストスピーカーとしてお招きして講演いただき、続いて行われた「服部ゼミ・社会安全フィールドリサーチ服部クラス合同授業」では学生からの少年院などに関する数々の質問にお答えいただきました。「服部ゼミ・社会安全フィールドリサーチ服部クラス合同授業」として行われた質疑応答を中心とした授業を取材しました。

(学生ライター 法学部1年次 中尾 柚葉)

(※)「NPO法人セカンドチャンス!」少年院出院者同士が経験や将来の希望をわかちあい、仲間として共に成長していくことを目的としたNPO法人
 

中村すえこさんのプロフィール
1975年埼玉県生まれ。15歳でレディース(暴走族)の総長となり、抗争による傷害事件により逮捕され、女子少年院に送致となる。更生の後、2020年に通信制大学を卒業し高校教員免許を取得。現在は教員として働く傍ら、全国の少年院などでの講演を続けている。また「NPO法人セカンドチャンス!」のメンバーとして、少年院出院者の支援を行っている。ドキュメンタリー教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』の監督でもある。

レディース(暴走族)時代全国制覇できなかったことから少年院への講演全国制覇を目指している中村さん。今年度中には46都道府県の少年院を制覇できる予定なのだそうです。

少年院での決まり事と「NPO法人セカンドチャンス!」について

少年院の中で入院者は365日24時間一緒に生活しますが、出身地などを他の入院者に明かすことはできません。それが発覚すると警察での取り調べのような調査が行われ、出院できる時期が遅れるそうです。また、少年院を出た後に同時期に収容されていた入院者と会ってはいけないというルールがあったそうです。中村さんが活動をしている「NPO法人セカンドチャンス!」は少年院から出院した者「出院者」の自助グループですが、結成当初はそれを理由に認めてもらえませんでした。現在は少年院にも認めてもらって活動をしており、少年院に入院していた経験がある当事者だからこそできる支援を行っています。
中村さんはレディース(暴走族)総長であった当時、レディース(暴走族)には安心できる居場所と活躍できる居場所があり、一緒に泣いてくれたり、悩みの相談に乗ってくれる仲間がいて、自分を一番表現できる場所だと思っていたそうです。そんな自身の経験から「NPO法人 セカンドチャンス!」では全国で頑張っている出院生の繋がりを大切にし、仲間の輪を広げ、少年院を出院したら地域にも、全国にも仲間(居場所)ができる。という繋がりを大切にしているそうです。

中村さんとの質疑応答の様子
質疑応答の時間に受講生から「少年犯罪について過去と現在の違いはあるのか」という質問が出ました。薬物犯罪について、以前は覚せい剤やシンナーが主流でしたが、現在は大麻を使用するケースが増加傾向にあるそうです。また、過去には暴走族などが敵対する組織に対して暴行するなどの行為が集団で行われることが多くありましたが、現在は群れることは少なく、代わりにインターネットを通じて出会った人たちと共謀して犯罪行為を行う事案が増えています。また、SNSなどを利用して詐欺行為に加担するなど、デジタル犯罪が増えてきているそうです。

少年院の入院者の中には過去に虐待を受けた経験のある子どもが多くいますが、自分が虐待被害者であるということに気が付いていない、自覚はあるものの他人には話していないという人が大半を占めます。これは、自分が両親などから愛されていなかったという現実を認めることにつながるため、口に出さないそうです。しかし虐待を受けてきた子どもは、言葉に頼らずともその行動からそれを察することができるそうです。 中村さんは講演の中で、「信頼する」という点を強調されていました。そこで、学生から信頼関係を構築するため必要なことについて質問がありました。 「一番大切なことは一方通行にならないようにすること。」そして「まずは自分が相手を信頼することが大切」とおっしゃっていました。何度も何度も裏切られることはありますが、それでもいつか相手が気づいてくれた時に手を差し伸べるために信じることが必要なのだと説明されました

—私たちにできることー

中村さんは自身が少年院に入院した経験を持っておられますが、少年犯罪には貧困や、虐待などの社会問題が関連しています。少年院の入院者は加害者でありながら、被害者でもあるのです。このような社会的な構図を調べることで、自分の興味が何かに繋がるかもしれません。まずは知ることが大切です。そしてインターネットの中だけではなく、広く社会の出来事に関心をもってアンテナを張ることも大切です。中村さんは、少年院の課題としてSNSの使い方などを教育の中で取り入れていくべきだとおっしゃっていたことが印象的でした。
私はこの授業を取材するまで、少年院について考えたことはありませんでした。少年院は社会との繋がりが希薄ですが、少年出院者の社会復帰支援は重要な課題です。この記事を読んでくださった方々が、社会復帰支援について改めて考える機会となれば幸いです。
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