【生命科学部】ヨモギにできる虫こぶの多様性を解明しました!

京都府立大学の武田征士 准教授(細胞工学研究室)、国立遺伝学研究所の前野哲輝技術専門職員、京都産業大学の木村成介 教授(生態進化発生学研究室)らの共同研究グループは、ヨモギに作られる虫こぶの多様性を生み出す仕組みを明らかにしました。葉や茎に作られる虫こぶの形態と発現遺伝子の解析を行った結果、虫こぶでは、元の光合成器官(ソース器官)から、新たな花や実のような機能を持つ蓄積器官(シンク器官)への運命転換が行われていることが分かりました。小さな昆虫が植物の運命を大きく変えるこの能力の解明は、機能性成分を蓄積する植物器官の人為的誘導というような技術開発につながる可能性があります。

研究のポイント

  • 研究チームは、虫こぶ形成昆虫によって植物に作られる虫こぶ(虫えい、ゴール、gall)について、その形成の多様性と共通基盤を明らかにするため、草本植物のヨモギに作られる異なる虫こぶの形態と発現遺伝子の解析を行った。
  • 形態の解析から、虫こぶ内で新たな維管束形成が見られ、虫こぶとホスト植物との間での物質のやり取りが盛んであることが示唆された。そこで、X線マイクロCTによる3Dイメージングを行ったところ、虫こぶ内に形成された維管束ネットワークの状態が初めて明らかになった。
  • 葉の虫こぶでは、光合成関連遺伝子の発現が抑制される一方、細胞壁合成関連遺伝子が活性化していた。一方、茎の虫こぶでは、細胞壁合成関連遺伝子の発現が抑制されていた。また、すべての虫こぶで、非生物ストレス応答遺伝子の発現が上昇していた。
  • 以上の結果から、虫こぶでは、光合成器官(ソース器官)から花や実のような蓄積器官(シンク器官)への運命転換が行われていると考えられる。虫こぶ形成の仕組みの詳細が分かれば、植物器官を自在に作ることができる技術の開発に応用できる可能性がある。
ヨモギクキコブフシのX線マイクロCT画像。
虫こぶの内部を非破壊で見ることができる。

右の太いものが茎で、そこから丸い虫こぶができている。この虫こぶでは、ネットワーク上に広がった維管束と、5~6個の虫室(虫がいる部屋)が観察できる(矢印)。

「このようなダイナミックな構造を、小さな虫(タマバエ)が作るというのは、ただただ驚きである。我々は植物改変の能力において、この小さな虫の足元にも及ばない。」(武田)
 
【虫こぶ動画】

論文情報

論文タイトル Exploring the diversity of galls on Artemisia indica induced by Rhopalomyia species through morphological and transcriptome analyses.
掲載誌 国際学術誌「Plant Direct*」
掲載日 2024年7月2日(火)
著者 Seiji Takeda, Makiko Yoza, Sawako Ueda, Sakura Takeuchi, Akiteru Maeno, Tomoaki Sakamoto, Seisuke Kimura
DOI 10.1002/pld3.619
*Plant Direct:アメリカ植物生理学会(American Society of Plant Biologists/ASPB)、実験生物学会(Society for Experimental Biology, SEP)とワイリー出版(Wiley Online Library)によって共同創刊されたオープンアクセス・ジャーナル。
植物科学に関する様々な主題を扱う論文を出版する。(Plant Direct ウェブサイトより引用)

研究体制

京都府立大学大学院生命環境科学研究科 細胞工学研究室

  • 准教授 武田征士
  • 大学院生 余座万紀子、竹内さくら
  • 学部4回生 上田紗波公

国立遺伝学研究所 細胞構築研究室

  • 技術専門職員 前野哲輝

京都産業大学 生命科学部 産業生命科学科

  • 教授 木村成介
  • 博士研究員 坂本智昭

研究概要

虫こぶは、虫こぶ形成昆虫などが植物に作る特殊な構造で、食料と住まいを兼ねている。植物に本来作られる器官とは異なる形態になることから、昆虫が植物の器官形成システムをハイジャックして、自分に都合の良い構造を作っていると考えられる。この仕組みが分かれば、植物器官を自在に作ることができる技術開発につながるが、その形成システムは未だに分かっていない事が多い。

多くの虫こぶが木本植物に作られるが、一般的に木本植物は生育に時間がかかること、大型であること、再分化を伴う培養が難しいことから、研究室内での研究や遺伝子機能解析が困難である。そこで、草本植物で入手が容易なヨモギに作られる虫こぶを材料に研究を行った。ヨモギには、葉や茎に異なる形態の虫こぶが作られる(図1)。ヨモギという同じホスト植物での虫こぶを比較解析することで、虫こぶ形成の共通基盤や多様性を生み出す仕組みが理解できる。
図1 ヨモギに作られる虫こぶの模式図
葉にできるもの、茎にできるもの、長い腺毛が生えるもの、腺毛がほとんど無いものなど、さまざまな形態のものがある。

エボシ:ヨモギハエボシフシ
ケタマ:ヨモギハシロケタマフシ
クキワタ:ヨモギクキワタフシ
クキコブ:ヨモギクキコブフシ
我々はまず、各虫こぶの形態の違いを明らかにするため、虫こぶの組織切片や、X線マイクロCTイメージングによって虫こぶの内部構造を観察した。いずれの虫こぶでも、中に空洞があり、その中で幼虫が育っていた。虫こぶ以内には新たに維管束が作られており、ホスト植物組織からの栄養分の供給があることが示唆された(図2)。
図2 ヨモギ虫こぶの構造
上から組織切片(トルイジンブルー染色)、その模式図、X線マイクロCTイメージング

ic: insect chamber (虫室)
st: stem (茎)
虫こぶ内部では、幼虫や蛹が観察でき、羽化したものは虫こぶを作るタマバエの他、寄生蜂も多くのケースで見られた(図3)。各虫こぶから羽化したタマバエの系統解析から、これらはすべてRhopalomyia属の異なる種のタマバエであることが分かった。
図3 虫こぶ形成昆虫
左から幼虫、蛹(おそらく寄生蜂)、タマバエ成虫(メス)、寄生蜂成虫。
各虫こぶで発現する遺伝子を網羅的に調べて比較したところ、すべての虫こぶで花や果実の発生に関わる遺伝子、翻訳関連遺伝子、非生物ストレス応答遺伝子の上昇が見られた。葉の虫こぶでは、光合成関連遺伝子が抑制され、細胞壁合成に関わる遺伝子が活性化されていた。茎の虫こぶでは、細胞壁関連遺伝子が抑制されていた。

これらの結果は、虫こぶでは、元のホスト植物の光合成器官(ソース器官)から、花や果実のような蓄積器官(シンク器官)への転換がダイナミックに起こっていることを示唆している。通常の植物では、葉で日長などの環境変化を感じると花成誘導を促すフロリゲン(FLORING LOCUS T, FT)が作られて茎頂へ運ばれ、そこで葉を作るフェーズから花を作るフェーズに転換する(下図)。ところが虫こぶでは、この過程を飛ばして、いきなり葉の上で花・果実を作る遺伝子がオンになっている。この仕組みが分かれば、農作物の葉の上に直接果実を作る技術ができるようになるかもしれない。

研究支援

本研究は、文部科学省および日本学術振興会の科学研究費補助金(JP21K06234, JP21H02513)、国立遺伝学研究所NIG-JOINT (44A2020, 64A2021, 20A2022) の支援を受けて行われました。
【教員紹介】木村 成介教授
PAGE TOP