【法学部】社会安全フィールド・リサーチ「社会復帰支援の在り方と子ども・親を守るためには」

2023.11.10

学生の活動レポート(法学部 3年次生 杉原 翔さん)

服部 達也教授の社会安全フィールド・リサーチクラスでは、我が国の刑事政策において生き辛さを抱えた青少年、特に若年女性・女子・少年に対して、非行、犯罪に陥らないようにするためのさまざまな支援活動を行っている団体や、刑務所・少年院からの受け皿である協力雇用主の活動状況をリサーチしていきます。

2023年9月12日・13日の2日間福岡県に行き、刑務所出所者を受け入れる「中溝観光開発」、子ども・親の支援を行っている「福岡市こども総合相談センター」、「福岡県警少年サポートセンター」を訪問し、社会復帰支援に重要なこととは何なのか、子ども・親を支援していくには何が必要なのか、支援が必要な子どもたちにはどのような接し方が必要なのか、などについてお話を伺いました。

1日目(9月12日)

中溝観光開発の皆さん
協力雇用主をされている中溝 茂寿氏が代表取締役を務める「中溝観光開発」を訪問し、刑務所出所された従業員の方とビル屋上にある水、ガスのパイプや給湯器などを拭いたり、駐車場や施設床の掃除、近隣のごみ拾いなどを一緒にさせていただきました。
従業員の方と就労する中で、これまで行ってきた犯罪の事や、なぜ中溝社長の下で働いているのかなどを質問しました。
中溝観光開発の従業員の方々とビル屋上設備メンテナンス作業をしました

2日目(9月13日)

中溝 茂寿氏による講義と、中溝社長・従業員の方へ質問させていただきました。

中溝 茂寿氏のお話は最初に、「刑法改正により2025年から懲役刑と禁固刑が一本化され、『拘禁刑』となることに伴い、各個人の犯罪に適した方法で刑務所の処遇を行っていく、という形に変わることになったが、社会復帰のためには当たり前の事である」という言葉から始まりました。その後、刑務所の内情について詳しく話していただきました。 
また、出所者である従業員の方との討議では、従業員の一人が「前働いた会社では前科がある事を隠していたが、途中で気持ちが嫌になってしまった。でも中溝観光開発では前科を隠さないでいられるので、日常が楽しくなった」とおっしゃっていたことが印象深く感じられました。

中溝観光開発での講義・討議の様子

福岡市こども総合相談センター・福岡県警少年サポートセンター

福岡市こども総合相談センターこども相談企画課 宗係長による講義
こども総合相談センター(児童相談所)では、児童相談所がどのようなことを行っていて、どのような施設になっているのかを案内していただきました。
また子どもが犯罪に巻き込まれた際に、子どもの負担にならないよう検察・児童相談所・警察で協力し、事実確認をし、同じ情報を共有できるようにしていることなどを知りました。
福岡市こども総合相談センターにて
少年サポートセンターでは、子どもとの面接で関係を構築していき、立ち直り支援活動などを行っているとのことでした。
同センター所属の少年育成指導官の方のお話では、子どもたちへのサポートの仕方として「若さ」を出すことで子どもたちに近い存在となり、彼らの隠している部分を出してくれるようにしているそうです。
また親が虐待してしまうのも、子どものために良かれと思っていたり、愛したくても愛すことができないことから引き起こされることがあり、親も悩みを抱えているとお話されました。
福岡県警本部少年サポートセンター 中山少年育成指導官による講義

実習を経験した学生の感想(抜粋)

中溝観光開発

「自分が知っている人よりも言葉遣いが丁寧で、優しい雰囲気と感じ、刑務所出所者のイメージとは全く違った」
「私たちと変わらない一人の人間であり、運や周りの環境で人生が大きく変わるのだということを実感させられた」

福岡市こども総合相談センター・福岡県警少年サポートセンター

「子どもたちの話を聞き、受動的な姿勢で徐々に心を開いてあげることが大切だと感じた」
「何かに依存してしまう怖さを知ることが大切」
「児童相談所は子どもの負担を減らすことができるシステムがあり、すごい」
「生き辛さを抱えている子どもには居場所が必要だと思った」

学生ライターの私が思ったこと

ここで読者の皆さんに1つ質問です。

「あなたが行ったコンビニに、刑務所出所者が勤務していたらどう思いますか」

何も気にしませんか。どんな人だろうか、どんな罪で刑務所に入ったのだろうと考えませんか。そのコンビニに行こうと思わなくなりませんか、普段通りの生活を送ることができるでしょうか。

この質問は、中溝 茂寿氏が私たちに投げかけた質問です。

社会復帰支援を学んでいる私たちの中にも、どのような罪で刑務所に入っていたのか気にしてしまう気持ちがありました。しかし、犯罪や非行という過ちを犯した人も根は私たちと変わらない人間ですし、出所した人の多くはコンビニでの店員を含め、それぞれの職場での就労を通して「今度こそ社会に溶け込もう」「罪を償い人生をやり直そう」と懸命に働いているのです。少なくとも私たちは、今回の実習でその姿を目のあたりにしました。

皆さん、先ほどの質問に対して再度どう思いますか。

今の日本社会は被害者支援か加害者支援の二項対立になっていないでしょうか。本当にそれで正しいのでしょうか。両方の支援事業を進めていくのではダメなのでしょうか。二つの支援を進めていくことで新たな被害者を生み出すことを未然に防ぎ、新たな加害者が出るのを防げるのではないでしょうか。
もちろんそんな簡単なことではないと思います。まずは知ることから始めていただけるといいな、と私は思います。

また今の子どもたちはいろいろな悩みを抱えています。そんな子どもたちは悩みを外に出せずにいます。皆さんの周りの子どもたちにも、悩みを抱えている子がいるかもしれません。少しだけでも子どもたちの行動を気にかけて行動してみてください。それが犯罪・非行のない社会を作っていくことにつながるのですから。

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