【生命科学部】タマネギの品種育成の効率化に役立つ 画期的なDNA多型分析手法を開発

農研機構は、東北大学、山口大学、かずさDNA研究所、京都産業大学、龍谷大学、国立遺伝学研究所との共同研究により、巨大なゲノムのためDNA分析が困難であったタマネギにおいて、染色体全体のDNA型の違いを効率的に分析できる手法の開発に成功しました。本技術により、苗の段階で有用な形質を持つタマネギを選ぶことができるDNAの目印を迅速に開発でき、この目印を利用した新品種の早期育成が期待できます。

研究背景

タマネギは野菜の中で国内生産量が第3位、国内産出額が約950億円の重要品目です(2020年)。一方で、輸入量が最も多い野菜であり、国内生産量の約1/5を加工業務用として輸入しています。近年のコロナ禍の影響による海外サプライチェーンの不安定化と国内主要産地の不作が重なり、2022年1月から6月までのタマネギの価格は通常時の2倍以上に高騰しました。安定供給のために、実需者からは国産タマネギの増産が求められており、東北・北陸地域を中心に新たな産地形成も進んでいます。産地からは、気象や栽培条件に適し、かつ病気に強い、収量の高い大玉性などの特性を持った品種が求められています。新品種の早期育成には、有用な形質と関連したDNAマーカー(選抜マーカー)を開発し、苗の段階での選抜に利用し、育種を効率化することが必要です。

研究内容

  1.  染色体全体のDNA多型を分析できるDNAマーカーセットの設計方法を開発タマネギの品種間において、染色体全体のDNA多型を分析できるDNAマーカーセットの設計方法を開発しました。まず、解析対象とした2品種(球の大きさや収穫時期が異なる)について、葉の発現遺伝子の配列情報を網羅的に調べて、品種間で配列に違いがあった発現遺伝子を特定しました。次に、先行研究の情報を活用し、配列の違いがあった発現遺伝子の染色体上の位置を推定しました。そして、染色体全体に圴一に分布するように、441個の発現遺伝子を選び、品種間でのDNA多型を分析できるDNAマーカーを作成しました。また、このDNAマーカーセットの設計方法は、解析対象の品種を変えた場合でも有効であり、対象品種に合わせて最適なDNAマーカーセットを効率的に作成できます。
  2. 多検体、多数のDNAマーカーを一度に分析する手法の実証2品種の交配後代の192個体と設計した441個のDNAマーカーセットを用いて、全個体の全てのマーカーのDNA型を一度にまとめて分析することに成功しました。まず、各個体から抽出したDNAとマーカーセットを用いたPCRを行い、各マーカーのDNA多型部分の配列をまとめて増幅しました。次に、各個体のPCR産物に各々の標識配列を付加し、その後、全個体のPCR産物を一つにまとめて次世代シーケンサーで解析しました。取得した大量のDNA配列情報を標識配列により個体ごとに分類した後、各マーカーのDNA多型を分析しました。1マーカーずつDNA分析を行う従来法に比べて、分析にかかる作業労力を大幅に減らし、かつ分析にかかる日数を1/2以下、試薬等の分析にかかる費用を1/3以下に減らすことができました。得られた個体間のDNA多型と形質データを照らし合わせれば、DNAマーカーセットの中から目的の形質と関連したDNAマーカーを特定でき、選抜マーカーとして利用できるようになります。

今後の展望

今後は本技術の活用により、病気に強い、収量の高い大玉性など各産地や実需者ニーズの高い形質の選抜マーカーの開発を進めていく予定です。これらの選抜マーカーの利用は新品種の早期育成に繋がり、国内生産力強化や安定供給による価格安定に貢献することが期待できます。

発表論文 

Daisuke Sekine, Satoshi Oku, Tsukasa Nunome, Hideki Hirakawa, ‪Mai Tsujimura, Toru Terachi, Atsushi Toyoda, Masayoshi Shigyo, Shusei Sato, and Hikaru Tsukazaki (2022) Development of a genome-wide marker design workflow for onions and its application in target amplicon sequencing-based genotyping. DNA Research.‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬ DOI: https://doi.org/10.1093/dnares/dsac020‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
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