~従来方法に比べて抗体発現量が約2倍向上~ 抗体医薬品の安定供給を実現するHspa5プロモーターを用いた新たな抗体発現系を開発

京都産業大学生命科学部 潮田亮准教授らの研究グループは、チャイニーズハムスター卵巣細胞から抗体を発現させる際に、Hspa5プロモーターを用いることで従来の高発現プロモーターに比べて抗体生産性を約2倍向上できることを解明しました。今後、安定した抗体産生が実現できるだけでなく、癌や新型コロナウイルス(COVID-19)などの疾患に対する創薬研究にも寄与できることが期待されます。詳細はこちら

概要

京都産業大学生命科学部の種村裕幸客員研究員、潮田亮准教授らの研究グループは、CHO細胞を用いた抗体発現において、発現量の高い遺伝子「hspa5」を特定し、hspa5遺伝子のプロモーター「Hspa5p」を用いることで、CHO細胞の培養の後半でも抗体の生産量が維持されることを見出しました。本研究成果は、抗体医薬品の安定した製造の実現に貢献できると期待されており、英国ネイチャー・パブリッシング・グループの科学雑誌Scientific Reportsオンライン版(2022年5月24日付)に掲載されました。

背景

近年、免疫グロブリンG (Immunoglobulin G、IgG)などのモノクローナル抗体は、高い特異性と有効性を併せ持つ有望なバイオ医薬品として注目を集めています。1986年にMuromonab-CD3が承認されて以来、モノクローナル抗体を用いた120品目以上の抗体医薬品が上市されています。抗体医薬品の製造には大量の抗体を生産できるCHO細胞が広く用いられています。
本研究では安定した抗体生産の実現に向けて、抗体遺伝子の転写に関わるプロモーターに注目しました。これまで、CHO細胞を用いた抗体発現にはCMVやhEF1αといったプロモーターが使用されてきました。しかし、これらのプロモーターの発現量は、フェドバッチ培養 *7の後半において減少するという問題があります。そこで本研究では、高発現かつ培養後半まで抗体遺伝子の転写量を維持できるプロモーターの取得を目的に、網羅的な遺伝子転写量解析(トランスクリプトーム解析)により新規高発現プロモーターの取得を試みました。

論文情報

タイトル 「Development of a stable antibody production system utilizing an Hspa5 promoter in CHO cells」
(Hspa5プロモーターを用いたCHO細胞における抗体安定発現系の構築)
掲載誌 英国科学雑誌「Scientific reports」(オンライン版)
掲載日 2022年5月24日 18:00 (日本時間)
著者 種村 裕幸1ac 、増田 兼治c 、奥村 武c 、都木 栄里c 、梶原 大介c 、柿原 博文c 、野中 浩一c
潮田 亮2ab
(1筆頭著者、2責任著者)
(所属 : a京都産業大学生命科学部、 b京都産業大学タンパク質動態研究所、c第一三共株式会社)
DOI 10.1038/s41598-022-11342-1

謝辞

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「プロテオスタシスの理解と革新的医療の創出」研究開発領域(研究開発総括:永田和宏)における研究開発課題「プロテオスタシスにおけるタンパク質構造形成機構の包括的解明」(研究開発代表者:田口英樹)の支援を受けて行われました。
また、本研究の一部は、経済産業省の「平成25年度個別化医療に向けた次世代医薬品創出基盤技術開発(国際基準に適合した次世代抗体医薬等製造技術)」及び平成26年度次世代医療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(国際基準に適合した次世代抗体医薬等製造技術))」、及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「次世代医療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(JP17ae0101003)」の支援によって行われました。
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