小胞体局在還元酵素ERdj5の機能不全は細胞内のカルシウムイオンバランスの攪乱を招き、細胞老化の亢進、個体寿命の短縮を起こすことを解明
2021.11.08
京都産業大学 永田和宏名誉教授と生命科学部 潮田亮准教授らの研究グループは、小胞体局在還元酵素ERdj5の機能不全は細胞内のカルシウムイオンバランスを攪乱し、ミトコンドリアをバラバラに断裂化することで、細胞老化を亢進し個体寿命に影響を与えることを解明しました(図)。
このことは、ミトコンドリアの機能破綻によって引き起こされるミトコンドリア病や神経変性疾患など様々な病気の治療法解明に重要な知見をもたらすことが期待されます。
詳細はこちらをご覧ください。
リリース日:2021-11-03
概要
細胞小器官の1つである小胞体は、細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)貯蔵庫として働き、小胞体からサイトゾルにCa2+を放出することで、筋収縮、免疫応答、涙・唾液のような外分泌など様々な生命現象のシグナル源として重要な役割を果たします。小胞体膜上に存在するCa2+ポンプは、Ca2+を小胞体内腔へと取り込み、小胞体内腔のCa2+を高濃度に、そしてサイトゾルのCa2+濃度を低く保ち、細胞内のCa2+バランスを維持しています。以前に、潮田准教授らのグループは小胞体局在還元酵素ERdj5が小胞体のCa2+ポンプを活性化することを見出しました。
今回、同グループの大学院博士課程、山下龍志らを中心に、この調節機構の破綻により、サイトゾルでのCa2+濃度が定常的に上昇することで、別の細胞小器官であるミトコンドリアをバラバラに断裂化し、ミトコンドリアの機能を低下させることを発見しました。ミトコンドリアの機能低下は、細胞内に活性酸素種を蓄積させ、細胞老化を亢進させます。さらに細胞老化の亢進は、ミトコンドリアからのシトクロムc放出によるアポトーシス(細胞死)を誘導し、これはアルツハイマー病をはじめとした神経変性疾患やミトコンドリア病の原因になります。
今回の発見から、ERdj5の機能を正常に維持することはミトコンドリア機能の低下を防ぎ、健康寿命の延伸につながることが期待されます。さらに、ERdj5の機能に注目した解析は、ミトコンドリア機能の低下を原因の1つとするアルツハイマー病のような神経変性疾患など様々な疾患の治療法開発の足がかりになるのではないかと期待しています。
本研究の成果は2021年11月2日に英国ネイチャー・パブリッシング・グループの科学雑誌Scientific Reportsオンライン版に掲載されました。
今回、同グループの大学院博士課程、山下龍志らを中心に、この調節機構の破綻により、サイトゾルでのCa2+濃度が定常的に上昇することで、別の細胞小器官であるミトコンドリアをバラバラに断裂化し、ミトコンドリアの機能を低下させることを発見しました。ミトコンドリアの機能低下は、細胞内に活性酸素種を蓄積させ、細胞老化を亢進させます。さらに細胞老化の亢進は、ミトコンドリアからのシトクロムc放出によるアポトーシス(細胞死)を誘導し、これはアルツハイマー病をはじめとした神経変性疾患やミトコンドリア病の原因になります。
今回の発見から、ERdj5の機能を正常に維持することはミトコンドリア機能の低下を防ぎ、健康寿命の延伸につながることが期待されます。さらに、ERdj5の機能に注目した解析は、ミトコンドリア機能の低下を原因の1つとするアルツハイマー病のような神経変性疾患など様々な疾患の治療法開発の足がかりになるのではないかと期待しています。
本研究の成果は2021年11月2日に英国ネイチャー・パブリッシング・グループの科学雑誌Scientific Reportsオンライン版に掲載されました。
背景
小胞体は、生体膜に囲まれた膜系の細胞小器官です。小胞体は、分泌・膜タンパク質の立体構造形成(フォールディング)の場であり、多くの分子シャペロンや酸化異性化酵素が存在し、そのフォールディングを介助しています。しかし、小胞体で全てのタンパク質が正しい立体構造を獲得出来るわけではなく、構造異常タンパク質の蓄積は小胞体ストレスを惹起させ、小胞体ストレスの亢進はアルツハイマー病に代表される神経変性疾患、糖尿病や癌など様々な病気の原因となることが知られています。
細胞は小胞体ストレスから免れるために、小胞体ストレス応答という巧妙な対応戦略を持っています。小胞体ストレス応答の1つとして、構造異常タンパク質を小胞体から排出し、サイトゾルのユビキチン・プロテアソーム系で分解させる小胞体関連分解が、小胞体ストレスから細胞を守るための重要な機構とされています。以前、潮田らのグループは、小胞体でERdj5が還元酵素として働くことを世界で初めて発見し、ERdj5の還元活性が異常タンパク質の小胞体関連分解に関与することを見出し、タンパク質品質管理に重要な役割を果たすことを明らかにしました(Ushioda et al. Science 2008)。その後、潮田らのグループは、ERdj5の還元活性が小胞体膜上に存在するCa2+ポンプSERCA2bのポンプ活性を正に制御することを明らかにし、サイトゾルから小胞体へのCa2+の取り込みを促進していることを明らかにしました(Ushioda et al. PNAS 2016)。これらの研究成果から、ERdj5が小胞体内腔のCa2+濃度を高濃度に維持するために重要であることを証明しました。
これまでの報告で、潮田ら研究グループは、還元酵素ERdj5がタンパク質品質管理とCa2+制御の両方に関与し、小胞体恒常性維持に重要な働きをすることを示してきましたが、ERdj5欠損によって細胞にどのような影響が観察されるのか、その生理的な重要性は明らかにされてきませんでした。本研究では、ERdj5を欠損した哺乳類細胞と線虫を用い、ERdj5欠損による細胞および個体への影響を観察しました。
細胞は小胞体ストレスから免れるために、小胞体ストレス応答という巧妙な対応戦略を持っています。小胞体ストレス応答の1つとして、構造異常タンパク質を小胞体から排出し、サイトゾルのユビキチン・プロテアソーム系で分解させる小胞体関連分解が、小胞体ストレスから細胞を守るための重要な機構とされています。以前、潮田らのグループは、小胞体でERdj5が還元酵素として働くことを世界で初めて発見し、ERdj5の還元活性が異常タンパク質の小胞体関連分解に関与することを見出し、タンパク質品質管理に重要な役割を果たすことを明らかにしました(Ushioda et al. Science 2008)。その後、潮田らのグループは、ERdj5の還元活性が小胞体膜上に存在するCa2+ポンプSERCA2bのポンプ活性を正に制御することを明らかにし、サイトゾルから小胞体へのCa2+の取り込みを促進していることを明らかにしました(Ushioda et al. PNAS 2016)。これらの研究成果から、ERdj5が小胞体内腔のCa2+濃度を高濃度に維持するために重要であることを証明しました。
これまでの報告で、潮田ら研究グループは、還元酵素ERdj5がタンパク質品質管理とCa2+制御の両方に関与し、小胞体恒常性維持に重要な働きをすることを示してきましたが、ERdj5欠損によって細胞にどのような影響が観察されるのか、その生理的な重要性は明らかにされてきませんでした。本研究では、ERdj5を欠損した哺乳類細胞と線虫を用い、ERdj5欠損による細胞および個体への影響を観察しました。
論文情報
タイトル | Ca2+ imbalance caused by ERdj5 deletion affects mitochondrial fragmentation. (小胞体局在還元酵素ERdj5の欠損は、細胞内のカルシウムイオンバランスを攪乱し、ミトコンドリアの断裂化を引き起こす) |
---|---|
掲載誌 | 英国科学雑誌「Scientific Reports」(オンライン版) |
掲載日 | 2021年11月2日(19:00)(日本時間) |
著者 | 山下龍志1、藤井唱平、潮田亮2、永田和宏2(京都産業大学) (1筆頭著者,2責任著者)(研究当時) |
DOI | doi: 10.1038/s41598-021-99980-9 |
謝辞
この研究は、JSPS 科研費(JP18H04002, JP21H05268)、京都産業大学タンパク質動態研究所の支援を受けて実施されました。