小胞体局在還元酵素ERdj5の機能不全は細胞内のカルシウムイオンバランスを攪乱し、ミトコンドリアをバラバラに断裂化することで細胞老化を亢進し個体寿命に影響を与えることを解明

2021.11.03

京都産業大学 永田和宏名誉教授と生命科学部 潮田亮准教授らの研究グループは、小胞体局在還元酵素ERdj5の機能不全は細胞内のカルシウムイオンバランスを攪乱し、ミトコンドリアをバラバラに断裂化することで、細胞老化を亢進し個体寿命に影響を与えることを解明しました。
このことは、ミトコンドリアの機能破綻によって引き起こされるミトコンドリア病や神経変性疾患など様々な病気の治療法解明に重要な知見をもたらすことが期待されます。
 

リリース日:2021-11-03
 

概要

細胞小器官(※1)の1つである小胞体(※2)は、細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)貯蔵庫として働き、小胞体からサイトゾル(※3)にCa2+を放出することで、筋収縮、免疫応答、涙・唾液のような外分泌など様々な生命現象のシグナル源として重要な役割を果たします。小胞体膜上に存在するCa2+ポンプは、Ca2+を小胞体内腔へと取り込み、小胞体内腔のCa2+を高濃度に、そしてサイトゾルのCa2+濃度を低く保ち、細胞内のCa2+バランスを維持しています。以前に、潮田准教授らのグループは小胞体局在還元酵素ERdj5(※4)が小胞体のCa2+ポンプを活性化することを見出しました。
今回、同グループの大学院博士課程、山下龍志らを中心に、この調節機構の破綻により、サイトゾルでのCa2+濃度が定常的に上昇することで、別の細胞小器官であるミトコンドリア(※5)をバラバラに断裂化し、ミトコンドリアの機能を低下させることを発見しました。ミトコンドリアの機能低下は、細胞内に活性酸素種(※6)を蓄積させ、細胞老化を亢進させます。さらに細胞老化の亢進は、ミトコンドリアからのシトクロムc放出によるアポトーシス(細胞死)を誘導し、これはアルツハイマー病をはじめとした神経変性疾患やミトコンドリア病の原因になります。
今回の発見から、ERdj5の機能を正常に維持することはミトコンドリア機能の低下を防ぎ、健康寿命の延伸につながることが期待されます。さらに、ERdj5の機能に注目した解析は、ミトコンドリア機能の低下を原因の1つとするアルツハイマー病のような神経変性疾患など様々な疾患の治療法開発の足がかりになるのではないかと期待しています。
本研究の成果は2021年11月2日に英国ネイチャー・パブリッシング・グループの科学雑誌Scientific Reportsオンライン版に掲載されました。

背景

小胞体は、生体膜に囲まれた膜系の細胞小器官です。小胞体は、分泌・膜タンパク質の立体構造形成(フォールディング)の場であり、多くの分子シャペロンや酸化異性化酵素が存在し、そのフォールディングを介助しています。しかし、小胞体で全てのタンパク質が正しい立体構造を獲得出来るわけではなく、構造異常タンパク質の蓄積は小胞体ストレスを惹起させ、小胞体ストレスの亢進はアルツハイマー病に代表される神経変性疾患、糖尿病や癌など様々な病気の原因となることが知られています。
細胞は小胞体ストレスから免れるために、小胞体ストレス応答(※7)という巧妙な対応戦略を持っています。小胞体ストレス応答の1つとして、構造異常タンパク質を小胞体から排出し、サイトゾルのユビキチン・プロテアソーム系で分解させる小胞体関連分解が、小胞体ストレスから細胞を守るための重要な機構とされています。以前、潮田らのグループは、小胞体でERdj5が還元酵素として働くことを世界で初めて発見し、ERdj5の還元活性が異常タンパク質の小胞体関連分解に関与することを見出し、タンパク質品質管理(※8)に重要な役割を果たすことを明らかにしました(Ushioda et al. Science 2008)。その後、潮田らのグループは、ERdj5の還元活性が小胞体膜上に存在するCa2+ポンプSERCA2bのポンプ活性を正に制御することを明らかにし、サイトゾルから小胞体へのCa2+の取り込みを促進していることを明らかにしました(Ushioda et al. PNAS 2016)(図1)。これらの研究成果から、ERdj5が小胞体内腔のCa2+濃度を高濃度に維持するために重要であることを証明しました。
これまでの報告で、潮田ら研究グループは、還元酵素ERdj5がタンパク質品質管理とCa2+制御の両方に関与し、小胞体恒常性維持に重要な働きをすることを示してきましたが、ERdj5欠損によって細胞にどのような影響が観察されるのか、その生理的な重要性は明らかにされてきませんでした。本研究では、ERdj5を欠損した哺乳類細胞と線虫を用い、ERdj5欠損による細胞および個体への影響を観察しました。

研究成果

ERdj5の生理的な重要性を個体で観察するため、モデル生物として線虫を用い、線虫のERdj5(線虫ではDnj-27と呼ばれています)を欠損させ、その影響を観察しました。ERdj5が存在する野生型の線虫では、ミトコンドリアはチューブ状に繋がった形態が観察されますが、ERdj5を欠損させた線虫では、ミトコンドリアがバラバラに断裂化していることが観察されました(図2)。さらに哺乳類細胞を用いて、ミトコンドリア形態を観察したところ、ERdj5欠損細胞でミトコンドリアの断裂が観察され、線虫でも哺乳類細胞でも同様の結果が得られました。
ミトコンドリアは細胞内のエネルギー合成を担う重要な細胞小器官であり、ミトコンドリア形態は、「融合」と「断裂」のバランスによって成り立っています。しかし、過度な断裂化はミトコンドリア機能を低下させ、ミトコンドリアからのシトクロムc放出による細胞死を引き起こします。今回の報告で、ERdj5欠損によるミトコンドリア断裂の原因が、細胞内Ca2+の不均衡にあるのではないかと考えました。実際、ERdj5の欠損により、小胞体膜上のCa2+ポンプSERCA2bが活性化できなくなり、サイトゾルから小胞体へのCa2+の取り込みが不十分になることで、サイトゾルのCa2+濃度が1.4倍ほど常に上昇していることを見出しました。ミトコンドリア膜上に集積し、ミトコンドリアをくびりきる因子Drp1はサイトゾルのCa2+濃度の上昇とともに活性化することが知られていました。ERdj5欠損細胞では、サイトゾルのCa2+濃度が恒常的に上昇しており、Drp1が活性化していることを明らかにしました。
これらの結果から、ERdj5欠損によるミトコンドリアの断裂化は、活性化したDrp1が原因であることをつきとめました(図3)。さらに、ERdj5の欠損により過度なミトコンドリア断裂が起こっている細胞では、活性酸素種の蓄積が観察され、細胞老化の亢進が示唆されました。線虫では、ERdj5の欠損によって、線虫の個体寿命が短くなることが観察されました。また、ERdj5の欠損は、抗がん剤スタウロスポリンに対して脆弱となり、より多くの細胞でアポトーシスが起こることを見出しました。

今後の展開

今回、小胞体の恒常性維持に重要な役割を果たすERdj5を欠損させ、細胞内での影響を観察しました。ERdj5の欠損は小胞体のみならず、ミトコンドリアの形態・機能に影響を与え、細胞老化を亢進することを見出しました。ERdj5は、小胞体内腔で還元酵素として機能しますが、その活性化メカニズムは不明な点が多いのが現状です。ERdj5がどのように酵素活性を小胞体で維持できるのか、その詳細を明らかにすることは、小胞体のみならずミトコンドリア、そして細胞全体の恒常性維持に重要であると考えています。
また、ミトコンドリアの異常断裂によるミトコンドリアの機能低下は、活性酸素種を細胞内に蓄積させ、細胞老化・個体老化を亢進すると言われています。また、ミトコンドリアの機能低下は、シトクロムcの放出を介したアポトーシスを引き起こし、これらの細胞死は、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の原因の1つとされています(図4)。今回の結果より、小胞体に局在するERdj5が正常に働くことが、ミトコンドリアの機能低下を防ぎ、関連する疾患の新たな治療法開発につながるのではないかと期待しています。さらに、ERdj5の欠損が抗がん剤スタウロスポリンに対して脆弱になることで、新たな抗がん剤開発のターゲットになる可能性があります。

用語・事項の解説

1 細胞小器官

細胞内で一定の機能を果たす構造体の総称。小胞体、ミトコンドリアやゴルジ体などを指す。

2 小胞体

真核生物の細胞質中に網目状にある膜状構造の細胞小器官。細胞内のカルシウムの貯蔵のほか、分泌タンパク質のフォールディングや修飾、脂質代謝、細胞内物質輸送などを担う。

3 サイトゾル

ミ細胞質から細胞小器官を除いた部分。

4 ERdj5

線虫から哺乳類まで保存される小胞体局在タンパク質。N末端に分子シャペロンBiPと結合し、BiPのATPase活性を促進するJドメイン、4つの活性中心CXXCモチーフを持つチオレドキシン様ドメインを有する。酸化的なレドックス環境と考えられてきた小胞体でジスルフィド還元酵素として機能する。

5 ミトコンドリア

真核生物の細胞質中に存在する、糸状または顆粒状の細胞小器官。呼吸およびエネルギー生成の場で、ATP(アデノシン三リン酸 )の合成を行う。

6 活性酸素種

酸素分子 (O2) に由来する反応性に富む分子群の総称。ミトコンドリアの電子伝達系における副産物やNOXと呼ばれる酵素のはたらきによって産生される。

7 小胞体ストレス応答

小胞体ストレスは、小胞体に構造異常タンパク質や正常な修飾を受けていないタンパク質が蓄積し、ストレスがかかった状態であり、これらストレスの予防、ストレスからの回復などを担う細胞システム。

8 タンパク質品質管理

タンパク質はアミノ酸の鎖で合成され、その後、正しい立体構造を形成することが必要である。これらタンパク質の品質を厳正に管理するシステムが存在し、タンパク質品質管理と呼ぶ。

論文情報

タイトル Ca2+ imbalance caused by ERdj5 deletion affects mitochondrial fragmentation.
(小胞体局在還元酵素ERdj5の欠損は、細胞内のカルシウムイオンバランスを攪乱し、ミトコンドリアの断裂化を引き起こす)
掲載誌 英国科学雑誌「Scientific Reports」(オンライン版)
掲載日 2021年11月2日(19:00)(日本時間)
著者 山下龍志1、藤井唱平、潮田亮2、永田和宏2(京都産業大学)
(1筆頭著者,2責任著者)(研究当時)
DOI doi: 10.1038/s41598-021-99980-9

図1: ERdj5によるCa2+ポンプSERCA2bの活性化メカニズム
ERdj5の還元活性によって、SERCA2bの小胞体内腔側のジスルフィド結合が還元されることでSERCA2bは活性化する。活性化したSERCA2bはCa2+ポンプの働きによりサイトゾルから小胞体へとCa2+を取り込み、小胞体の高いCa2+濃度が形成される。
図2: ERdj5の欠損によって線虫の腸細胞のミトコンドリアは断裂化する
左:野生型の場合、ミトコンドリアはチューブ状の構造を形成している。
右:ERdj5を欠損した場合には、ミトコンドリアの構造がバラバラに断裂化してしまう。
図3:ERdj5の欠損によるミトコンドリアの断裂化
左:ERdj5存在下では、小胞体内腔とサイトゾルのCa2+濃度のバランスが保たれ、ミトコンドリア形態が維持されている。
右:ERdj5が欠損すると、Ca2+濃度の恒常性が破綻し、小胞体からCa2+が漏れ出ることで、サイトゾルのCa2+濃度が上昇する。サイトゾルのCa2+濃度が上昇するとミトコンドリアを「断裂」するタンパク質であるDrp1が活性化し、ミトコンドリアの断裂化が亢進する。
図4:ERdj5欠損または機能低下による老化や疾患
ERdj5の欠損によりミトコンドリアの断裂化が亢進すると、ミトコンドリアの機能が低下する。ミトコンドリア機能の低下は、エネルギーの合成量を減少させミトコンドリア病を引き起こす。また、細胞へ活性酸素種を蓄積させることで細胞老化を亢進する。細胞老化が進むとミトコンドリアからシトクロムcが放出され、アポトーシスが誘導される。神経細胞でのアポトーシス誘導は神経変性疾患の原因になる。
お問い合わせ先
内容について:京都産業大学生命科学部 潮田 亮 准教授
〒603‐8555 京都市北区上賀茂本山
E-Mail: ryo3ussy3@cc.kyoto-su.ac.jp

取材について:京都産業大学 広報部
Tel.075-705-1411
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