ミトコンドリアでのATP合成を阻害することで寿命を延ばす化合物を発見

池田貴子研究員(生命科学部、横山研究室)らのグループは、ATP合成活性を培養細胞を用いて測定することにより、2500種類の既存薬の中から8個のATP 合成阻害剤を見つけ、これらの薬剤が線虫でもATP 量を減らすこと、そして線虫の寿命を延ばすことを明らかにしました。この研究成果は、英文科学雑誌『Biochimica et Biophysica Acta - Bioenergetics』に掲載されました。

研究概要

生物にとって“老いて死ぬ”ことは自然の摂理であり、避けられない現実です。これまで、“老化”とは“時間の経過とともに起こる心身の機能低下であり、不可逆的な現象である”と考えられてきました。しかし近年の研究から、老化は単に物理的な時間経過によるものではなく、遺伝的・環境的な要因が複雑に絡み合い、老化の速度が調節されていることが明らかとなってきました。つまり、遺伝子や環境が寿命を決めているということです。興味深いことに、老化の速度を調節するメカニズムは生物種間で進化的に保存されており、線虫の一種であるCaenorhabditis elegans C. elegans をモデル生物とした研究により寿命研究は進展してきました。その中でも、細胞内エネルギー産生に関わるミトコンドリアの機能と寿命との関連については精力的に研究が進められています。ミトコンドリア呼吸鎖複合体は様々な生命活動に必要とされるアデノシン三リン酸 (ATP) を合成する重要な機能を担っていますが、一方で薬理学的、遺伝学的に呼吸鎖複合体の活性を下げると線虫の寿命が延びるという報告があります。そこで私達は、Mitochondrial Activity of SLO-permeabilized Cells (MASC) アッセイ(*)という方法を用いて2500種類の既存薬の中からミトコンドリアの ATP 合成に対する阻害薬の探索を行い、それらが線虫の寿命に影響を与えるかどうか調べました。その結果、哺乳細胞において2500種類の既存薬の中から8個のATP 合成阻害剤を見つけ、これらの薬剤が線虫でもATP 量を減らすこと、そして線虫の寿命を延ばすことを明らかにしました。
今回、私達は MASC アッセイという方法を用いて、ミトコンドリアの ATP 合成活性を阻害する化学物質の探索を網羅的に行い、8個のATP 合成阻害剤を見つけました。驚くべきことに、これら8個全ての薬剤が線虫の寿命を延ばすことが分かりました。ミトコンドリアの ATP 合成活性を抑制するとどうして寿命が延びるのか、を明らかにすることは老化を遅らせる方法を見つけ出すことにつながり、アルツハイマー病など高齢者のかかりやすい疾患の予防に役立つと考えています。

(*) Mitochondrial Activity of SLO-permeabilized Cells (MASC) アッセイ
培養細胞を用いた簡便な ATP 合成酵素の活性測定法。ミトコンドリア呼吸鎖複合体で新たに合成される ATP をルシフェラーゼという酵素を用いて検出する。様々なスクリーニング実験に応用可能。
図
図 スクリーニングによるATP合成阻害剤の探索と線虫の寿命に対する影響
約2500種ある化合物からミトコンドリアでのATP合成を阻害する化合物を探索した。8個のATP合成阻害剤が線虫の寿命を延ばした。

掲載

論文タイトル 「Identification of chemical compounds as an inhibitor of mitochondrial ATP synthesis, leading to an increased stress resistance and an extended lifespan in C. elegans」
掲載誌 『Biochimica et Biophysica Acta - Bioenergetics』
著者 池田 貴子1、岸川 淳一1、林田 優希1、藤川 誠2、横山 謙1
1
京都産業大学、2東京医科歯科大学

謝辞

本研究は科研費(基盤研究(B)17H03648)の支援を受けて実施されました。 
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