研究概要

植物生理学分野(本橋 健)

植物のもつ大きな特徴のひとつに光合成がある。陸上植物の光合成は葉緑体と呼ばれる複数の膜系からなる形態的に複雑なオルガネラで進行し、二酸化炭素固定が行われる。植物にとって光合成は非常に重要な機能であるため、様々な制御機構を備えている。植物生理学分野では、この中でも光合成電子伝達に連動した昼夜での光合成機能制御メカニズムである葉緑体レドックス制御機構について、その生理機能と分子メカニズムの解明を目指し、研究を行っている。葉緑体のレドックス制御機構では、チオレドキシンと呼ばれるタンパク質がその制御に中心的な役割を果たす。そのため、チオレドキシンファミリータンパク質の生理学的機能解析を中心として研究を進めている。

ゲノム構造学分野(金子 貴一)

植物の中でもマメ科に属するものは、根で窒素固定を行う。つまり、土壌から無機窒素成分を吸収して窒素同化に利用するだけでなく、植物体内で窒素同化の原料を空気から作ることができる。この窒素固定には、根粒菌との共生が成立し、光合成エネルギーが根粒菌に供給される必要がある。窒素固定のしくみの本体は根粒菌にあるので、共生が成立するにも、窒素固定が機能するのも、宿主植物と根粒菌両者の制御機構が関わっている。その中でも、ゲノム構造学分野では、共生窒素固定に関わる根粒菌外来性因子のゲノム多様性に着目し、メカニズムの解明を目指して研究を行っている。重要な作物であるダイズでは、ゲノミックアイランドと呼ばれる外来性因子にある遺伝子群が、共生窒素固定で中心的な役割を果たすことが多い。そのため、現在はダイズ根粒菌とその類縁菌を中心とし、共生ゲノム研究を進めている。

集団遺伝学分野(河邊 昭)

「地球の歴史は地層に、生物の歴史は染色体にかかれている」と木原均博士が言ったように、生物の遺伝情報はゲノム上に存在し、その情報を比較することで進化が理解できる。現在、多くの生物で全ゲノム情報の解読が当たり前のようにおこなわれ、それぞれの生物の持つ特徴が遺伝子の働きの違いとして理解されるようになってきている。しかし、種の違いや同じ種の中での個体間の違いをもたらす突然変異が実際にどのように起こり、また維持されているのかは完全に理解されているわけではない。集団遺伝学分野では進化の機構を明らかにするために、特にゲノム中に存在する反復配列に注目し、その種類や構造についての違いを明らかにするとともに、遺伝子や表現型に対する影響を調査している。

生態進化発生学分野(木村 成介)

地球上の多彩な生物が見せる驚くべき「形の多様性」は古くから多くの人々を惹きつけてきた。この多様性が生じるしくみを、「発生」「進化」「環境」という3つの異なる観点から総合的に理解しようとするのが「生態進化発生学」である。北米に分布する水陸両生植物のRorippa aquaticaは、生育環境に応じて葉の形態を大きく変化させる異形葉性という興味深い性質を示す。このような葉形の変化は、水の抵抗を軽減したり、効率良く光合成を行なったりするために役立つと考えられ、発生と環境の相互作用を理解し、生態進化発生学を推進するための最良のモデルとなる。そこで生態進化発生学分野では、Rorippa aquaticaをモデルとして、ゲノム解析やトランスクリプトーム解析などにより異形葉性のメカニズムや進化的な背景を研究している。このような研究により植物と環境の関係を明らかにするとともに、環境ストレス耐性植物の作出を目指している。

植物分子遺伝学分野(寺地 徹)

植物分子遺伝学分野では、コムギ、ダイコン、タバコなどの高等植物を材料に、オルガネラ(ミトコンドリアと葉緑体)のゲノムや遺伝子を対象にした様々な実験を行っている。高等植物では、ミトコンドリアのゲノム構造自体がまだ解明されていないことも多く、次世代シークエンシングなどの新しい技術を用いて、主要作物のゲノム解読を進めている。また、ミトコンドリアゲノムの再構成により偶然生じた新しい遺伝子によって、作物の育種に役立つ形質である雄性不稔がもたらされることがあり、原因遺伝子の同定やその働きを解明するため、ゲノム編集などの新しい実験に取り組んでいる。一方、葉緑体ゲノムに関しては、遺伝子組換え方法が確立されており、外来遺伝子を葉緑体ゲノムに導入することで、ストレスに強い植物を育成する、有用タンパク質を大量に作らせるなど、モデル植物を用いた基礎研究と作物への応用研究を実施している。

環境教育学分野(川上 雅弘)

地域の植物資源を維持しつつ、持続可能な発展を目指す社会を構築するためには、地域の住民をはじめ、広く国民全体に環境保全の重要性や植物の多様性への認識が拡がることに留まらず、具体的な行動に結びつくような取り組みが求められる。このため地域の学校教育や社会教育において推進されている環境教育の取り組みから、地域に応じた効果的な協働や共創の事例を学ぶとともに、本学周辺で実施可能な環境教育の取り組みの創出を目指す。また近年では、地域の科学館や大学など研究機関の広報においても独自の情報発信のノウハウが蓄積されており、科学コミュニケーションの観点から分析し、植物の機能を生かした地域づくりに資するデータを収集している。

環境農学分野(三瓶 由紀)

持続可能な地域づくりに向けて、自然共生型の社会システムへの転換が期待されている。その実現には地域の自然資源の活用は重要な課題であるが、地域の自然資源である植物は、地域の文化や人々の暮らしと密接な関連性を有してきた。
環境農学分野では、地域文化や生業などの人々の暮らしが、植物を中心とする地域自然資源をどのように支え、地域の植物の機能や魅力を引き出してきたかという観点から、社会・経済・文化的な背景まで踏まえ、里山の植物や農作物などを対象に、植物が生み出す地域の自然環境の機能を明らかにする。そのうえで、そのような植物の機能活用に向けた、保全や維持管理上の課題を明らかにし、今後どのように活用可能であるか、地域住民や市民の意向等も踏まえ、持続可能性を担保するための方策を提案する。

環境政策科学分野(西田 貴明)

環境政策科学分野においては、近年、特に注目される気候変動、脱炭素や生物多様性の劣化など地球環境問題の解決に向けて、自然環境の保全と持続可能な利用を推進する政策や事業手法、またはこれらの実施による効果の評価手法の開発をおこなっている。特に、植物の機能を中心とした、自然の持つ多様な機能を発揮させるインフラである「グリーンインフラ」をテーマとして扱っている。雨水浸透貯留機能を有する緑地などのグリーンインフラに関しては、その導入により、地域の生物多様性保全や、雨水浸透貯留機能、経済波及効果などの発揮が期待される。本分野では、このような多岐にわたる自然の機能について生態学的、環境経済学的なアプローチで評価する手法を開発している。さらに、これらの評価手法を用いて、地方自治体等の地域におけるグリーンインフラの社会実装に向けた計画策定、合意形成等の支援をおこなっている。

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