【生命科学部】ニホンミツバチのゲノム解析の結果、3つの異なる地域集団に区別され、人為的移動などが局所適応を妨げる可能性があることを解明
2023.10.11
生命科学研究科の若宮 健博士(現在は東京都立大学特別研究員)と高橋 純一准教授らは、東北大学、東京都立大学、農研機構と共同で、日本各地の105個体のニホンミツバチの全ゲノム配列を解析し、遺伝的に異なる3つの地域集団(北部、中央部、南部)を確認しました。さらに個体の遺伝的組成から、人為的に移入された個体かの判別が可能であることが分かりました。また、それぞれの遺伝的に分化した3地域への適応に関わる遺伝子の検出を試みた結果、本種が地域特異的な要因に適応していることが示唆されました。
これらのことから、地域間のコロニーの人為的移動は、コロニーの適応状態を阻害する可能性が考えられます。この研究成果は、国際科学誌「Ecology and Evolution」誌に掲載されました。
本件のポイント
研究の背景
本亜種は、古くからの伝統養蜂種としてだけでなく、植物の花粉媒介に貢献する送粉者として重要な生物です。ニホンミツバチは、本州、九州、四国および一部の離島に分布し、多様な生物環境で構成される日本の自然環境へ幅広い適応をみせています。南北に細長い形状の日本列島は、気温差、標高差、降水量差などのミツバチの生存に影響を与える要素を多く含むことから、日本列島内の異なる環境条件にそれぞれの地域集団が局所適応している可能性が予想されます。
これまでのミトコンドリアDNAなど、一部の遺伝情報を用いた研究で、ニホンミツバチは日本列島内に遺伝的に均一な集団が分布すると考えられていました。そこで、日本各地のニホンミツバチのゲノム配列を解析することで、日本列島内の集団の遺伝構造を可視化し、それぞれの地域内のどのような環境に適応しているのかを調べることが重要になります。
今回の取り組み


続いて、3地域のそれぞれで自然選択を受けて局所適応に関係している候補遺伝子を検出しました。さらに、温度、積雪量、降水量など、南から北へ緯度にそって変化する環境に伴って頻度を変化させている環境適応に関する候補遺伝子の検出を行いました。
その結果、各地域で局所適応している遺伝子は、緯度にそって変化する環境へ適応している遺伝子とは一致しませんでした。このことは、ニホンミツバチは、各地域の特異的な環境に適応しているため、温暖化による気温などの上昇に応じて北に移動するのを困難にしていることが示唆され、個体群の減少リスクを高める可能性があると考えられました。また、異なる地域間で個体を移動させることは、移動した個体が移動先の地域に適応できない可能性があることが示唆されます。
本研究で得られた進化学的知見は、ニホンミツバチの遺伝子型と地域ごとの形質(生物の特徴)の詳細な関係性を明らかにする基礎研究への接続が期待できます。
今後の展開
また、本研究で検出された局所適応に関わる候補遺伝子が具体的にどのような環境で、どのように適応に関与しているのかを調べることで、ニホンミツバチを保全していくための応用面での貢献が可能になると考えられます。
論文情報
著者:*責任著者 | |
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Takeshi Wakamiya* | *若宮 健(東京都立大学理学部生命科学科・特別研究員) |
Takahiro Kamioka | 上岡 駿宏(東北大学大学院生命科学研究科・研究員) |
Yuu Ishii | 石井 悠(東北大学大学院生命科学研究科・研究員) |
Jun-ichi Takahashi | 高橋 純一(京都産業大学生命科学部・准教授) |
Taro Maeda | 前田 太郎(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構農業環境研究部門・上級研究員) |
Masakado Kawata* | *河田 雅圭(東北大学教養教育院・総長特命教授) |
論文名 | |
Genetic differentiation and local adaptation of the Japanese honeybee, Apis cerana japonica. Ecology and Evolution | |
掲載誌 | |
国際科学誌「Ecology and Evolution」誌 | |
DOI | |
10.1002/ece3.10573 |