【生命科学部】変動する光のもとで、強すぎる光から光合成タンパク質を保護する仕組み

~活性調節因子チオレドキシンの新たな役割の発見~

生命科学部/植物科学研究センターの本橋 健教授のグループは、岡山大学資源植物科学研究所と共同で、植物の葉緑体において光合成の調節因子として働くチオレドキシンタンパク質が、変動する光環境下で強すぎる光から光合成タンパク質を保護する働きがあることを明らかにしました。この研究成果は、2023年8月22日付で国際科学誌「Plant Physiology」のオンライン版に掲載されました。

概要

強すぎる光は、植物の光合成タンパク質に損傷を与え、光合成活性の低下につながります。このため、植物は強光から身を守るためのさまざまなメカニズムを備えています。
本研究では、シロイヌナズナのチオレドキシンタンパク質を欠失した変異体を用いて、変動する光環境下での光合成活性を測定し、チオレドキシンタンパク質の機能を調べました。その結果、変動する光条件において、x型および型チオレドキシンが光合成タンパク質を光による損傷から保護していることがわかりました。また、これらのチオレドキシンが光環境の大きな変化において、植物の成長に重要な役割を果たしていることも明らかとなりました。

背景

植物は光エネルギーを用いて二酸化炭素から糖などの有機物を固定する光合成反応[1][]を行います。光合成反応のうち、光合成電子伝達反応[2]では光を必須ですが、過剰な光は望ましくありません。光合成電子伝達反応において利用されない余剰の強光は活性酸素種などを生成し、光合成タンパク質の損傷を引き起こし、光合成活性の低下につながります(光損傷)。このため、植物は強光から身を守るためのさまざまなメカニズムを備えています。

研究成果

これまで、発表者らはチオレドキシン[3]と呼ばれる光合成関連タンパク質調節因子に関する研究を行ってきました。モデル植物シロイヌナズナの葉緑体には5種類のチオレドキシン(f型、m型、x型、y型、z型)が存在し、光合成関連酵素の活性化など光合成反応の調節に関与しています。f型やm型のチオレドキシンについてはその役割がよく理解されていますが、x型およびy型のチオレドキシンの役割は明確ではありませんでした。
そのため、x型およびy型のチオレドキシンタンパク質を欠失させたシロイヌナズナ突然変異体を作成し、光合成機能や植物の観察を通じて解析を行いました。
通常の一定な光量の光条件では、x型・y型チオレドキシン変異体と野生株には明確な違いは見られませんでした。しかしながら、光環境が変動する条件下での研究では、x型・y型チオレドキシン変異体は光合成電子伝達反応が阻害され、光化学系Iタンパク質が光損傷を受けることがわかりました。これにより、変動光照射後、x型・y型チオレドキシン変異体では光化学系Iの活性が野生株と比べて顕著に減少していました(図1)。また、x型・y型チオレドキシン変異体では成長が阻害され、葉の色が薄くなるなどの変化も見られました(図2)。さらに、x型・y型チオレドキシン変異体では植物の生重量が64%減少し、光合成に不可欠なクロロフィル[4]含量も29%減少していました。
本研究では、変動する光条件下において、x型および型チオレドキシンが光合成タンパク質を光による損傷から保護する役割を果たしていることを明らかにしました。また、この2種類のチオレドキシンが光環境の大きな変化において、植物の成長に重要な役割を担っていることも示されました。

今後の展開

本研究により、変動する光ストレス条件下において、チオレドキシンが光合成タンパク質を保護する役割を果たすことが示されましたが、その分子メカニズムまでは明らかにされていません。自然界では短時間で大きな光環境の変化が生じます。今回の研究で明らかにされたメカニズムをさらに詳細に理解することで、激しく変化する光環境に対する耐性をもつ作物の改良に役立つことが期待されます。

補足・用語説明

[1]光合成反応

光エネルギーを化学エネルギーへ変換する反応と、二酸化炭素を糖などの有機物に固定する反応の総称。

[2]光合成電子伝達反応

光エネルギーを化学エネルギーへ変換する反応。水から電子を引き抜き、光化学系Iや光化学系IIなどのタンパク質を介して電子を移動させ、二酸化炭素固定に必要となる化学エネルギーを得る。

[3]チオレドキシン

酸化還元タンパク質の一種で、植物では光合成関連タンパク質の酸化還元状態を変化させ、さまざまな酵素活性を調節する。

[4]クロロフィル

植物の葉緑体に存在する色素で、光合成電子伝達反応で光エネルギーを吸収する役割をもつ。

参考図

論文情報

論文タイトル x- and y-type thioredoxins maintain redox homeostasis on photosystem I acceptor side under fluctuating light
掲載誌 Plant Physiology 
掲載日 2023年8月22日にオンライン版で掲載
著者 桶川 友季(岡山大学)佐藤 望(京都産業大学)、中倉 梨乃(京都産業大学)村井 亮太(京都産業大学)坂本 亘(岡山大学)本橋 健(京都産業大学)
責任著者:桶川 友季(岡山大学)
本橋 健(京都産業大学)
DOI https://doi.org/10.1093/plphys/kiad466

謝辞

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(基盤研究C・16K07409、研究代表者:本橋 健)、および文部科学省の私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S1511023)、京都産業大学植物科学研究センターの支援を受けて実施されました。

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