【経済学部】地域づくり人特別講義「日本の農業における新たな方程式」

2023.03.20

株式会社マイファーム/一般社団法人日本有機農産物協会/学校法人札幌静修学園 代表取締役社長/理事長 西辻 一真氏

経済学部の専門教育科目「地域づくり人特別講義」は、受講生が“地域づくり”について多面的に考察する能力を身に付けることを目的に開講している科目です。地域づくりのキーパーソンを講師として招聘し、その地域が抱える課題、取組みの経緯・苦労・成果など、そして地域づくりの現場から見た日本社会について、それぞれの視点からお話しいただきます。
今回の授業では、株式会社マイファームで代表取締役社長を、そして学校法人札幌静修学園および一般社団法人日本有機農産物協会のそれぞれで理事長を務めていらっしゃる西辻 一真氏をお招きし、日本の農業の新しいあり方についてお話を伺いました。
(学生ライター 経済学部4年次 木下 真菜)

西辻氏の学生時代の夢は、誰も作れないすごい作物を作る農家になることでした。植物との出会いは、幼い頃、ご家族でされていた家庭菜園。その際、野菜を育てる上で一番大切なことは、その野菜の前にいることだと学ばれます。高校時代には、耕作放棄地の風景を見て“もったいない、使わないならその土地で野菜を作りたい”と感じたことがきっかけになり、自らが農家になるために農学部への大学進学を決められました。ですが、大学での研究内容は、学びたいと思っていた農家になる方法ではありませんでした。そこで、自力で農家になろうともされますが、紆余曲折あり農家にはなれず、情報通信サービス会社に入社。しかし、営業で外回りの際にみた飲食店の大量の食べ残しが、西辻氏にとって転機になりました。
食料ロス大国といわれる日本の農業の姿を目の当たりにしたことで、もう一度、自らがすごい農家になることを決意されます。そして、2007年に株式会社マイファームを設立されました。

“お腹がペコペコになってしんどい思いをした人はいますか”と、西辻氏は、受講生に尋ねられました。続けて、日本では、そのような状況になる人は珍しいでしょう。ならば、お腹いっぱいの人に、どのような価値を提供できるのだろうか。農家がすべきことは、お腹だけでなく心をも満たすことなのではないかと考えたと語られました。そうして設立されたマイファームは、耕作放棄地や遊休農地を改作した体験型農園サービスを全国120か所以上で展開しています。

農業といえば、効率的に農作物を栽培することと思われるのではないでしょうか。ですがここは、野菜づくりを楽しみ、自然を楽しむことを提供する場です。収穫量や外見の良い野菜の生産を目的としていないため、農薬も化学肥料も不使用です。また、他にも大切にしていることのひとつとして、地域や地主さんをあげられました。各地にあるファームの名前は、その土地の地主さんが決めます。また、担当される農家さんに払うお金も、農家さんが渡してくれる知識に対する対価です。そこには、その地ならでの面白さや、地域の方々の想いを大切にしたいという、西辻氏の思いが込められています。
野菜以外の価値を利用者に提供する。自然や野菜に触れることで生まれる時間や会話に、感謝や成長。それらのきっかけになるようにと活動されていることが、講義を通じて伝わってきました。

西辻氏が手掛ける事業は他にもあります。農業に対して興味を持った社会人向けの農業スクール、アグリイノベーション大学校です。仕事をしながら取り組める制度が充実しており、入学者はのべ2000名超え、日本一優秀な農家を輩出しています。また、高校生向けには、札幌静修高等学校があります。この学校の理念である、「ココロスイッチ」を見つける工夫のひとつとして、農業を学べるプログラムが用意されています。

ほかにも、これまで培ってきた農業技術とノウハウを生かした技術支援事業をされています。今回紹介していただいた中に、薬草の栽培についてのお話がありました。作る際に劣悪な農地を要する薬草と耕作放棄地は、相性が良いそうです。しかし、薬草を栽培する理由はそれだけではないと西辻氏。事業を行う上で、自身の掟があると言います。それは、既存の農地や農家さんを脅かさないこと。そして、既に作られているものは作らないことだと語られました。

受講生からの質問で、コロナ禍において農業で変化したことがあったかという質問がありました。それに対し西辻氏は、食べられるだけ、必要な分だけという、余剰が減る傾向になったのではないかと答えられました。また、卸売りにおける取引数の変化についても述べられました。西辻氏の事業の中には、新鮮な農産物を届けてくれる、やっちゃば倶楽部という会員制宅配サービスや、ラクーザというBtoB向けの卸売市場アプリなどもあります。

受講生からの質問に答える西辻氏
今回の取材を通して、西辻氏の“何事も続けることが大事だと思います”という言葉が印象に残りました。「自産自消」という言葉があります。これは、西辻氏がつくられたお言葉で、自然と触れる楽しさや面白さ。その産物をまるごと食べ、自然について会話し感謝すること、などの意味が込められています。15年間言い続けていたら広まっていましたと述べられ、何か目的を持ち、時間をかけることの重要さを伝えられました。今回知った、新しい「農」の形。自然と人との距離を近づける、互いを結ぶための農業。満たすだけではなく、心を豊かにする事業へと展開している農業が存在している、日本の農業の未来がとても楽しみです。
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