【理学部】岸本真教授を中心とする国際研究チームが巨大ブラックホール系の赤外線観測で世界最高の解像度を達成!

2022.11.24

京都産業大学 岸本 真 教授を中心とする国際研究チームは、銀河系外天体の赤外線観測で世界最高の解像度を達成し、これにより、大質量降着中の巨大ブラックホールが、噴出するジェットに垂直な明るいリング構造に取り囲まれていることを確認した。これは、中心部の巨大ブラックホール系の「エンジン」部が、ジェット方向と垂直の円盤構造を持つことを強く示唆するものであり、長年の予測を裏付ける結果である。この研究成果は米国天体物理学雑誌 The Astrophysical Journal誌に掲載された。

読売新聞(11月18日夕刊)、京都新聞(11月18日夕刊1面カラー)、毎日新聞(11月19日夕刊)、時事通信共同通信産経新聞に掲載されました!
また、11月21日にNHKで放送されました。(NHK NEWS WEB【動画配信】ニュース630 京いちにち、ニュース845)


宇宙の銀河の中心部には、質量が太陽の100万倍から10億倍程度の巨大ブラックホールが、ほぼ普遍的に存在するとされている。こうした巨大ブラックホールにガスが降着する(落ち込む)際には、中心部に強い紫外光を発する円盤状の構造が形成され、これが巨大ブラックホール系の「エンジン」部になると考えられている。この中心部からは高エネルギープラズマのジェットが放出されている場合もあり、こうした円盤とジェットが周辺部と激しい相互作用を起こす源となる。現在のところ、この円盤構造自体は視直径(地球から見た大きさ・角度)が小さすぎて、残念ながら形を直接捉えることができない。

しかしながら、もしこの円盤構造が本当にあれば、このさらに外側に、ダストからの放射で明るく光るリング状の構造が存在すると予測されてきた。宇宙空間にはダストと呼ばれる、重元素でできた砂のような粒子が多数存在する。ブラックホール系の中心部では温度が高すぎて溶けてしまうものの、中心部から十分に離れた1200℃程度以下の領域には溶けずに存在し、中心部からの紫外光に熱せられて、リング状に強い赤外線を放っていると考えられる。これを検出することができれば、中心部の円盤構造の存在を確かめることになり、「エンジン」部および周りとの相互作用の理解を大きく進めることができる。

実は、このダストリング、横から見ようとするとダスト粒子自体によって光が吸収されてしまうため、なかなか形をとらえることができない。そこで研究チームは、地球からこの構造を上から見ることができ、かつ最も明るい質量降着巨大ブラックホールである近傍銀河NGC4151の中心部にターゲットを絞った。しかし検出には、複数の赤外線望遠鏡を用いて非常に高い解像力を実現する必要があり、かつこれら複数の望遠鏡が天体に対して適切な向きに並べられている必要があった。

NGC 4151 銀河の全景(直径数万光年); https://www.nasa.gov/ ; image credits: NASA, ESA, J. DePasquale (STScI)
この2つの条件を満たす装置は現在世界に1つしかない。米国・カリフォルニア州にあるCHARA干渉計である。6つの望遠鏡で構成され、その適切な並びによって、様々な角度から天体を観測できるように最適化されている。それぞれの望遠鏡の口径(直径)は1mだが、望遠鏡間の距離は数百メートルあり、この長さを口径とする望遠鏡に相当する解像力を誇る。赤外線観測において現在世界で最もシャープな「眼」を持つ観測装置といえる。
CHARA 干渉計の全景イラスト https://www.chara.gsu.edu/
研究チームは、このCHARA干渉計を用いてNGC4151の中心核を観測し、ついに、噴出するジェットと垂直な方向に現れるダストリングを実際に検出することに成功したのである。チームをリードしてきた京都産業大学の岸本は、「観測が成功するには随分長い時間が必要だった」と振り返る。この成功には、「補償光学」と呼ばれる装置を、CHARA干渉計の各望遠鏡に新たに装備する必要があった。「これによって、集められる光の量が格段に増え、各望遠鏡の口径が比較的小さいにもかかわらず、銀河系内の恒星よりもずっと暗い、銀河系外ターゲットの観測が可能になった。(CHARA干渉計天文台ポスドク研究員 Matt Anderson)」
左:NGC4151の中心部数千光年の領域。中央:推測されている中心部約1光年の構造のイラスト。ブラックホールを中心にジェット(白色)が前後に噴出し、その周りをダストリング(赤色)が取り巻いている様子。右:中心のブラックホールに対して、CHARA干渉計およびKeck 干渉計によって、いくつかの方向に沿って測られたサイズ。図の上下方向に伸びた構造が検出されている。

さらにこの検出には別の側面もある。質量降着中の巨大ブラックホール系には、観測的性質が明らかに異なる2種が存在する。これに対し、「これらは実は同一のもので、中心を取り囲むダストリングの存在によって、上から見たものと横から見たものに見かけ上分かれるだけである」とする、いわゆる「統一モデル」が約40年前に提唱された。今回の検出は、そのダストリングの存在をついに観測的に確認したことになる。

また、今回観測に用いた赤外線よりもう少し長い波長の赤外線(中間赤外線)の干渉計観測によると、ダストリングより少し外側の領域は、ジェットに垂直ではなく、ジェットに「沿った」方向に広がっていることが最近わかってきている。これは、ジェット方向に向かう大きなガスの流れ(アウトフロー)であると研究者らは考えている。これに対し、今回研究チームが、より中心部にはジェットに「垂直な」構造を検出したことによって、このアウトフローがどのように形成され、さらにはこの巨大ブラックホール系を宿す母銀河とどのように相互作用をしているのか、さらなる理解が進むと期待できる。現在CHARA干渉計天文台では、より高感度の装置の開発が進んでおり、研究チームはこれによるさらなるデータの取得を目指している。

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