【生命科学部】ディフィシル菌の二成分毒素の複合体構造を解明
2022.11.02
タンパク質膜透過の最初の動的な様子を明らかにする
京都産業大学 生命科学部の津下 英明教授、山田 等仁博士後期課程学生、吉田 徹助教(現日本女子大学)は、大阪大学 蛋白質研究所 蛋白質結晶学研究室の川本 晃大助教、同研究所 電子線構造生物学研究室 加藤 貴之教授および堀場製作所 佐藤 優穂氏との共同研究で、ディフィシル菌の二成分毒素:CDTのタンパク質膜透過を担う装置(CDTb)とその基質タンパク(CDTa)の複合体構造を解明しました。
その結果、「CDTaが膜孔CDTbに結合し、N末端先端から解ける」という、タンパク質透過機構の最初の動的な様子を明らかにしました。
本研究成果は、2022年10月17日に英国科学誌『Nature Communications』オンライン版に掲載されました。
本件のポイント
- ディフィシル菌の二成分毒素であるCDTa (細胞骨格に影響を与える毒素)とCDTb膜孔(CDTaを解いて膜透過させる装置)の複合体の構造を解明しました。
- CDTaがCDTb膜孔に結合し、その後CDTaのN末端が解ける連続した様子を明らかにしました。
- この構造は、CDTb膜孔とCDTaの結合を阻害する薬剤の設計の基盤となります。
概要
この原因と考えられる、ディフィシル菌の産生する毒素には、2つの主要毒素の他に、二成分毒素CDTがあります。CDTは細胞内でアクチンをADPリボシル化し細胞骨格を壊すCDTaと、エンドサイトーシスを介してCDTaを細胞内へ膜透過させる装置CDTbの2つの成分から構成されています。この構造解明は阻害剤設計だけでなく、タンパク質の膜透過がどのように起こるかという面からも注目されていました。


我々は、まず界面活性剤を用いた条件でCDTb膜孔を調製し、ここにCTDaを加えて複合体を用意しました。このサンプルのクライオ電子顕微鏡を用いた解析から、CDTaが結合したCDTb膜孔ヘプタマー (7量体) の構造を高分解能で明らかにしました (図2)。
ここから3D variability analysis (3DVA) によるクラス分けを行ったところ、この複合体は単一な構造ではなく、CDTaのN末端の構造が異なる複数の状態が混在したものであることがわかりました。この結果をもとに、さらに2つの複合体構造(Folded CDTaとUnfolded CDTa) を決定することに成功しました (図3)。
doi: 10.1038/s41467-022-33888-4.

背景

すでに、この二成分毒素複合体の構造は米国の2つのグループでクライオ電子顕微鏡の構造が解析されていましたが、ダイヘプタマー(7量体x2)の構造であることが報告されていました。一方、我々は、ウェルシュ菌タイプEが産生する二成分毒素であるイオタ毒素の複合体の構造、Iaが結合したIb膜孔の構造解析から、生理的な働きをすると考えられるヘプタマーの膜孔構造を決定しています(NSMB, 2020 27(3):288-296)。ダイヘプタマーの構造は、膜孔として機能しないアーティファクトと考えられました。そこで、Ib膜孔で用いたのと同じ界面活性剤LMNGを用いて、今回のCDTaとCDTbの二成分毒素のサンプル調整を行いました。この結果、クライオ電子顕微鏡データの測定と解析より、CDTaが結合した、CDTb膜孔ヘプタマーの構造を明らかにすることに成功しました(図2)。この解析により、初めて「CDTaがどのようにCDTb膜孔に結合するか」という詳細な情報が得られました。面白いことに、同じサンプル中にはCDTaが結合した、CDTbのダイヘプタマー(報告されたのと同じ)も存在していました (図4)。しかし、残念ながら、このダイヘプタマー構造では、CDTaの結合は平均化して見えてきません。
CDTaが結合した、CDTb膜孔ヘプタマーの構造は、Iaが結合した、Ib膜孔ヘプタマーの構造とほぼ同じでした。この特徴は、その結合により、A成分のN末端αヘリックスがアンフォールドして、残りのαヘリックスが傾く。このことによりアンフォールド鎖はB成分の膜孔の最狭窄部位であるφクランプに向かっています。この2つの構造から、二成分毒素で共通したアンフォールドの機構がわかってきました。ただし、今回のCDTb膜孔の解析では、概要に記述したようにCDTaが結合してから、その先端がアンフォールドするまでの動的な様子が、詳細にわかってきたわけです。これは膜透過機構の理解の上で重要なマイルストンとなる知見です。
今後の展望
論文
タイトル | Cryo-EM structures of the translocational binary toxin complex CDTa-bound CDTb-pore from Clostridioides difficile |
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掲載誌 | 英国科学誌「Nature communications」オンライン版 |
掲載日 | 2022年10月17日 |
著者 | 川本 晃大13、山田 等仁1 4、吉田 徹4 5、佐藤優穂6、加藤貴之3、 津下 英明24 ※1筆頭著者、2責任著者、3大阪大学、4京都産業大学、5日本女子大学、6堀場製作所 |
DOI | 10.1038/s41467-022-33888-4 |