【生命科学部】花びらができる位置を決定する位置情報伝達システムを発見
2022.08.23
京都府立大学、名古屋大学、熊本大学と生命科学部 産業生命科学科の木村 成介 教授の共同研究グループは、植物の花において、花びらができる位置を決定する位置情報伝達システムを発見しました。
花びら(花弁)は、がく片とがく片の間(がく片境界部)の少し内側にできますが、どのようなメカニズムで花弁ができる位置が決定しているかは不明でした。本研究では、がく片境界部で働くPTL遺伝子に着目し、PTL遺伝子がUFO遺伝子の働きを介して花弁原基形成を担うことを示しました。花器官の配置は、花粉を運ぶポリネーターにとって、また花のかたちの観賞価値を高めるために重要です。本研究成果は、花弁の位置情報伝達システムを解明したことに加え、花の形を改変する技術につながる可能性があります。
花びら(花弁)は、がく片とがく片の間(がく片境界部)の少し内側にできますが、どのようなメカニズムで花弁ができる位置が決定しているかは不明でした。本研究では、がく片境界部で働くPTL遺伝子に着目し、PTL遺伝子がUFO遺伝子の働きを介して花弁原基形成を担うことを示しました。花器官の配置は、花粉を運ぶポリネーターにとって、また花のかたちの観賞価値を高めるために重要です。本研究成果は、花弁の位置情報伝達システムを解明したことに加え、花の形を改変する技術につながる可能性があります。
研究背景

多くの花では、外側からがく片、花弁、おしべ、めしべの4種類の花器官が、同心円状に配置されます(写真)。この中で、花弁はほぼ例外なく、がく片とがく片の間(がく片境界部)の少し内側に作られます。こうして、花は全体としてバランスのとれた形になり、花粉を運ぶポリネーターにその存在をアピールしています。
シロイヌナズナを用いたこれまでの研究から、花弁原基*1で働くRABBIT EARS (RBE)遺伝子*2や、がく片境界部で働くPETAL LOSS (PTL)遺伝子*3の機能が失われると、花弁が無くなることが知られていました。しかしながら、がく片境界部と、花弁原基との関連は不明でした。
シロイヌナズナを用いたこれまでの研究から、花弁原基*1で働くRABBIT EARS (RBE)遺伝子*2や、がく片境界部で働くPETAL LOSS (PTL)遺伝子*3の機能が失われると、花弁が無くなることが知られていました。しかしながら、がく片境界部と、花弁原基との関連は不明でした。
研究内容
今回、がく片境界部と、花弁形成領域の関係を明らかにするために、以下のことを示しました。
- 蛍光タンパク質*4を使って、両者の細胞が重ならずに隣り合っていることが分かりました。
- がく片とがく片の間の細胞に細胞死*5を起こさせると、花弁ができませんでした。がく片境界部が花弁形成に必要なことが示されました。
- がく片境界部で働くPTLの下流の遺伝子を網羅的に探索し、PTLの活性後3時間でUNUSUAL FLORAL ORGANS (UFO)遺伝子*6が働き出すことを見つけました。
- UFO遺伝子は花弁原基の形成にも関与していることから、がく片境界部と花弁形成領域の間の位置情報伝達を担っていることが示唆されました。
以上の結果から、がく片境界部で働くPTL遺伝子が、UFO遺伝子の働きを介して形成領域においてRBE遺伝子を活性化することで、花弁の位置が決定していることが示唆されました(下図)。

今後の展望
花器官の配置は、自然界でも園芸的にも、とても重要です。がく片境界部には何もできないのですが、その存在が花弁形成に必須であることが分かりました。
植物では、このような「一見、何もないところ」が、器官形成に重要な例が他にもあります。今後は、このようなシステムを利用して、新しい形の花を作ることができるようになるかもしれません。
植物では、このような「一見、何もないところ」が、器官形成に重要な例が他にもあります。今後は、このようなシステムを利用して、新しい形の花を作ることができるようになるかもしれません。
論文
タイトル | Non-cell-autonomous regulation of petal initiation in Arabidopsis thaliana. |
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掲載誌 | 国際学術誌「Development」オンライン版 |
掲載日 | 2022年8月11日 |
著者 | Seiji Takeda, Yuki Hamamura, Tomoaki Sakamoto, Seisuke Kimura, Mitsuhiro Aida, Tetsuya Higashiyama |
DOI | 10.1242/dev.200684 |
用語
*1 花弁原基
「原基」とは、器官が最初に作られる際の数細胞からなる構造を指す。花弁原基の場合、数細胞が分裂して盛り上がった状態をいう。
*2 RABBIT EARS (RBE)遺伝子
花弁予定領域と花弁原基で発現する、C2H2 zinc fingerタンパク質をコードする遺伝子。
*3 PETAL LOSS (PTL)遺伝子
がく片境界部で発現する、GT2タイプの転写因子をコードする遺伝子。
*4 蛍光タンパク質
GFPなどの蛍光を発するタンパク質。目的タンパク質と融合したものを植物に導入することで、植物を生かしたまま、遺伝子発現やタンパク質局在を観察することができる。
*5 細胞死
細胞に毒性のある遺伝子を発現することで、意図的に局所的な細胞死を誘導し、その影響をみることができる。
*6 UNUSUAL FLORAL ORGANS (UFO)遺伝子
タンパク質の分解に関わるF-boxタンパク質様のタンパク質をコードする。花弁形成の他、花芽形成、花弁やおしべの性質決定など、花で多面的な役割をもつ。