【経済学部】地域づくり人特別講義「伊根町は観光地ではなく〇〇です」

2022.05.06

一般社団法人「海の京都DMO」伊根地域本部(伊根町観光協会)事務局長 吉田 晃彦氏

経済学部の専門教育科目「地域づくり人特別講義」は、受講生が“地域づくり”について多面的に考察する能力を身に付けることを目的に開講している科目です。地域づくりのキーパーソンを講師として招聘し、その地域が抱える課題、取組みの経緯・苦労・成果など、そして地域づくりの現場から見た日本社会について、それぞれの視点からお話しいただきます。
4月19日の授業では、一般社団法人「海の京都DMO」伊根地域本部(伊根町観光協会)事務局長の吉田 晃彦氏をお招きし、日本で一番海に近い暮らし「伊根町の観光」についてお話を伺いました。

(学生ライター 経済学部4年次 木下 真菜)

吉田氏は、大学を卒業後、地元である京都府宮津市の旅行代理店、そして印刷会社に勤められました。印刷会社勤務の際、伊根町エリアを担当、のちに伊根町商工会に転職され、伊根町観光協会、海の京都DMOと約13年にわたって伊根町の観光に現在も従事されています。

伊根町は、京都府北部の丹後半島にある海と山に囲まれた地域で、人口は1,928人(令和2年国勢調査)と京都府内で2番目に人口が少ないのに対し、訪れる観光客の数は年間35万人(令和元年京都府観光入込客調査)を超えます。平成5年にNHK朝ドラの舞台として名を広めた伊根町は、令和4年現在もなお観光地として国内外問わず、たくさんの人が訪れています。しかし、伊根町は観光地ではないと、吉田氏は言います。

伊根地区には周囲約5kmの伊根湾があり、湾に沿って約230軒の舟屋が建ち並んでいます。舟屋とは1階が船のガレージ、2階が二次的な居室として利用している建物で、1700年代後半から建てられていました。道路を挟んだ反対側には母屋があり、そこで生活が営まれている様子を語られました。伊根町の特徴として“暮らしのそばに海がある”と吉田氏。
この舟屋こそが、伊根町に人が訪れる目的です。しかし住民側としては、舟屋は観光資源ではなく、生活を営むための住居であり、商売道具の船を格納したり魚の下処理をする場所です。普段通り生活をしているところに国内外から観光客が多数訪れるようになったことで驚き、喜び、戸惑いなど、住民の皆さんは困惑してしまったそうです。ゴミなど観光ならではの弊害も起き、人は来るが消費活動が上手くできていない事態も発生し、また訪問者側からも観光の仕方が分からないとの問い合わせが多くあったと言います。そこで、双方にとって良くないこの現状を変えようと、吉田氏らは、この価値観の差を知り、住民と観光客、お互いが快適に満足できるような環境をつくることに努められました。

その取り組みとして「まちの規模に合った観光の仕方」を模索されました。伊根町という小さな町に合った観光とは、その町に興味があり、理解がある人に来てもらうということです。収容力を超える来訪は、訪問者にも地域住民にも弊害が生じてしまいます。それならば受け入れる側が規制をし、工夫をすれば解決するのではないかと対策をされたそうです。具体的なものとして、伊根町のホームページには、舟屋と暮らしを守るための来訪者に向けた「お願い」を記載し、伊根町の旬の食材が楽しめる施設の開設、伊根町を楽しめる海上タクシーやガイドツアーなどのアクティビティを用意され、域内調達率向上を目指したと説明されました。

吉田氏は受講生へのメッセージとして、「何のための、誰のための観光なのか。観光の役割とは何なのか。また持続可能な観光とは何なのか。考えれば考えるだけ観光の可能性は無限に広がります。今一度、“観光”というものについて考えてみてほしい」と述べられました。
観光とは、お客様をお出迎えすることがベースですが、伊根町では訪問者はお客様ではありません。海に近い暮らし、漁師町の営みを訪問して雰囲気を味わってもらう場所であるとも語られました。
伊根町は観光地ではなく、私たちが住んでいる所と同じ、住民にとっての「暮らしの空間」だと、吉田氏は講義を通じて伝えられました。

受講生からの質問に答える吉田氏
今回の取材を通して、吉田氏の「伊根町は観光地ではない」という言葉が印象に残りました。
有名になれば良い、たくさんの人で賑わえば良い、お金が入れば良い、観光地を維持する目的はさまざまですが、今あるものを背伸びせずありのまま提供する、それを受け入れられる人たちに受け入れてもらう。このような新たな観光の形があることで知らなかった世界を知ることができ、自分の目で見える世界が広がると感じました。
PAGE TOP