マルハナバチの生息地における巣の密度をDNAデータから推定するための方法を開発
2021.07.13
世界各国において、マルハナバチの多くの種で個体数の減少が報告されています。マルハナバチは野外の植物や農作物の受粉には欠かせない昆虫であるため、早急な保全対策を講じる必要があります。希少動物の保全を考えるとき、繁殖個体の数は最も重要な情報ですが、マルハナバチでは野外で観察できる個体のほとんどは、繁殖に関与しない働き蜂です。
本学 生命科学部産業生命科学科の野村 哲郎 教授の研究グループは、野外で採集したマルハナバチの働き蜂から得たDNA情報を用いて、生息地における巣の密度を推定する方法を開発しました。マルハナバチは、1匹の女王蜂が1つの巣を作るので、巣の密度がわかれば保全において最も重要な女王蜂の個体数が推定できます。
これまでの研究で用いられてきた巣の密度の推定法では、生息地の面積を推定する必要がありましたが、面積の推定値には推定法によって大きな違いが生じ、巣の密度の推定値も信頼性に欠けるものでした。今回の研究で開発した方法は、統計的手法によって生息地の面積を推定することを回避し、巣の密度を直接に推定するものです。
開発した方法を用いて、北海道に生息するノサップマルハナバチの巣の密度を推定しました。ノサップマルハナバチは、北海道東部の根室半島と野付半島にのみ生息が確認されている希少種で、近年は個体数が著しく減少しています。このマルハナバチは、低温、強風、濃霧などの厳しい自然環境に適応し、送粉昆虫として生息地の生態系の中で重要な位置を占めていると考えられます。根室半島で採集した42匹の働き蜂のDNA情報から推定した巣の密度は、1平方キロメートル当たり15.6個と推定されました。この密度は、他のマルハナバチ種の報告値と比べて例外的に小さな値であり、生息地の環境保全などによって早急に個体数を増加させることが必要なことを示しています。

ノサップマルハナバチの生息地では海からの強風が吹きつけるため、木が風下に向かって傾いた風衝林が見られる。ノサップマルハナバチはこのような厳しい自然環境に適応している。

ノサップマルハナバチが生息する根室半島は、寒冷な気候を反映して亜寒帯針葉樹林が低地で発達し、通常は高山にしか分布しない昆虫類が低地で生息する特異な生態系を形成している。その生態系の中でノサップマルハナバチは、送粉昆虫として重要な役割を果たしている。
論文情報
タイトル | A molecular genetic method for estimating nest density in bumblebee populations without explicit definition of habitat area (生息地の面積を明示的に定義せずにマルハナバチの巣の密度を推定するための分子遺伝学的方法) |
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掲載誌 | 国際専門誌 Journal of Insect Conservation |
掲載日 | 2021年6月30日 |
著者 | Tetsuro Nomura, Takuma Sasaki, Yukio Taniguchi |
DOI | https://doi.org/10.1007/s10841-021-00334-7 |