植物の光合成誘導に働く重要な制御メカニズムを、シロイヌナズナ変異体を用いて明らかにしました。

生命科学部の本橋 健 教授と桶川 友季 研究員は、植物の光合成誘導に重要な制御メカニズムを明らかにしました。この研究は京都大学との共同研究として行われ、研究成果は国際学術誌であるPlant Physiologyに2020年9月11日付で公開されました。

研究背景

植物に光が当たると、葉の葉緑体では光合成がおこなわれます。光合成は光エネルギーを使い、空気中から取り込んだ二酸化炭素を糖やデンプンなどの有機物に変換します。しかし、植物は光が当たっても光合成をすぐに始めることはできません。光合成を行うにはそのシステムが働くための誘導期が必要であり、植物では光合成を開始するために様々な仕組みが働きます。
光合成で働く多くの酵素(主に二酸化炭素固定反応に関わる酵素)は、夜間はスイッチがオフになっており不活性化されています。しかし朝になって植物に光が当たると、チオレドキシンというタンパク質がこれらの酵素のスイッチをオンにして活性化します。これまでの研究からチオレドキシンが植物の迅速な光合成の誘導に不可欠であることはわかっていました。

研究概要

今回、私たちはモデル植物であるシロイヌナズナの突然変異体を用いて、迅速な光合成の誘導には、チオレドキシンに加えてPGR5というタンパク質も重要であることを明らかにしました。PGR5は光合成電子伝達系路の1つであるサイクリック電子伝達に関わるタンパク質で、光合成に必要なエネルギーであるATPの合成に寄与します。しかし、光合成誘導期における役割はあまりわかっていませんでした。
今回の研究で、PGR5は光合成を迅速に誘導するための環境を整えることに寄与することが明らかとなりました。PGR5の働きは、チオレドキシンの欠損変異体などの二酸化炭素固定反応に関わる酵素の活性化が遅れている植物で、特に重要であることがわかりました。チオレドキシンとPGR5の双方を欠損したシロイヌナズナ変異体では光合成誘導が阻害され、この二重変異植物体は生育阻害を受けます(図)。このように光合成を迅速に開始するためには、植物の複数の仕組みが協調して機能することが必要になります。
図 シロイヌナズナ変異体の生育の表現型
図  シロイヌナズナ変異体の生育の表現型
チオレドキシンとPGR5の両方を欠損した変異体(pgr5 trx f1f2)は
野生株と比べ、個体が小さく生育阻害を示した。
trx f1f2: チオレドキシン欠損変異体
pgr5: PGR5欠損変異体
 

掲載論文

論文タイトル Cyclic electron transport around photosystem I contributes to photosynthetic induction with Thioredoxin f
掲載誌 『Plant Physiology』
DOI 10.1104/pp.20.00741
和文タイトル 光化学系I循環的電子伝達は、Trx-fとともに光合成誘導に寄与する
著者 桶川 友季*1、Leonardo Basso*2、鹿内 利治*2、本橋 健*1
*1
京都産業大学、*2京都大学

謝辞

この研究は、JSPS科研費 新学術領域研究「新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化」(17H05730, 19H04733)、戦略的研究基盤形成支援事業「植物における生態進化発生学研究拠点の形成-統合オミックス解析による展開-」の支援を受けて実施されました。
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