【経済学部】「つながりの資本」がまちを変えていく。シェアビレッジ代表取締役丑田俊輔氏による講義が行われました

2024.09.11

シェアビレッジ株式会社/ハバタク株式会社/プラットフォームサービス株式会社代表取締役社長丑田俊輔氏
経済学部の専門教育科目「地域づくり人特別講義」(担当:菅原宏太教授)は、地域づくりのキーパーソンを講師として招聘し、その地域が抱える課題、取組みの経緯・苦労・成果など、そして地域づくりの現場から見た日本社会について、それぞれの視点からお話を伺います。今回はゲスト講師として、シェアビレッジ株式会社/ハバタク株式会社/プラットフォームサービス株式会社 代表取締役社長 丑田 俊輔 氏をお招きし、これからの時代に求められる新たなコミュニティのあり方などについて丑田氏の経験から講義いただきました。
(学生ライター 文化学部4年次 佐々木大輔)
520年の歴史を誇る五城目朝市には人々の声がこだまする。五城目町は秋田市から北西約30キロメートルに位置する、人口8,000人ほどの小さなまち。肥沃な大地と馬場目川の清流に恵まれ、米作りなど農業が盛んに行われています。丑田氏は2014年、東京から五城目町へ移住。このまちで「シェアビレッジ」「越える学校」「ただのあそび場」「森山ビレッジ」などの事業を手掛けられています。

「ちよだプラットフォームスクウェア」~非営利型企業への挑戦~

丑田氏は大学時代、東京都千代田区の公共施設をまちづくり拠点として活用する非営利型の株式会社「ちよだプラットフォームスクウェア」の設立に参画されました。株式会社は、利益を株主へと配当するのが一般的ですが、「ちよだプラットフォームスクウェア」では利益を地域に再投資し続けることでまち全体を盛り上げることを経営の理念としました。この事業を通して「人の共感やつながりが金融資本へとつながっていく」ということを実感されたそうです。

五城目町との出会い

「ちよだプラットフォームスクウェア」には、全国の地方自治体が入居しています。現在、丑田氏が拠点を置く秋田県五城目町もそのうちの1つでした。同町まちづくり課の担当者に誘われたことをきっかけに、2013年夏、丑田氏は五城目町を訪れました。第一印象は普通のまち。観光地でもないし、すごい名産があるわけでもない。しかし、昔から続く日本の里山の原風景や文化を魅力に感じたそうです。そして東京という日本の中心からではなく、日本の過疎地やローカルから突き抜けた事例を作りたい。「東京を介さずとも、世界と繋がっていく」そんな未来像を思い描き、2014年夏、丑田氏はご家族と共に五城目町へ移住されました。五城目町は人口8,000人ほどの小さなまちです。人口減少が進み、若者の流出が課題となっていました。当時、五城目町は、企業誘致実績20年ゼロ。仕事先選びの選択肢の少なさが若者流出の要因でした。そこで同町まちづくり課が廃校を活用し、事業者や起業家に対し、月2~3万円ほどの賃料でシェアオフィスを提供することで、新たなベンチャーや起業家が生まれる環境づくりを目指しました。丑田氏も、同施設最初の入居者として「ハバタク株式会社」のオフィスを置きました。

「あそび場」から生まれたつながり

講義の様子
五城目町に移住した丑田氏が最初に取り組んだのは、子どもの「あそび場」づくりです。当初、地域住民の中には丑田氏のように外部から移住してきた人間に対して「よくわからない」という感情が少なからずあったといいます。しかし、あそび場での交流は、移住者と、地域住民のとの間に繋がりを生みました。次第に地域住民の中から「将来こんなジャムを作ってみたい」「農家なんだけどこういう商品を作りたい」という声が挙がるようになり、学び合えるコミュニティが自然と生まれていき、住民の中から「一歩踏み出してみよう」という機運が醸成されていきました。その結果、五城目町で起業した会社は2014~16年の3年間で20社、現在では40社に上ります。「過疎地域でも、地域の暮らしに根差しながら新たなビジネスを作っていくことができる」人と人とのつながりがまちを変えていくことを実感されたそうです。

まちを守った「つながりの資本」

2020年、五城目町にも新型コロナウイルスの感染拡大という試練が訪れます。様々な事業が転換を迫られる中で、地域に親しまれてきた温泉「湯の越温泉」が休業することを耳にしました。そこで立ち上がったのは、温泉を愛す地域の人々でした。地域の有志約30人は、給付金やクラウドファンディングで集めた資金を元手に600万円を用意、新たに会社を設立し、地元で愛された温泉を守ることに成功し、未来へ繋げていくことができました。あそびの中から生まれた人と人との「つながりの資本」が地域の温泉を守ったのです。「つながりの資本」は災害時にもその力を発揮しました。2022、23年、五城目町では2年連続で大規模な水害が発生。街中心部のほとんどが水没、2週間にわたる断水など大きな被害でした。そのなか丑田氏ら起業家は「五城目コモンズ」という任意団体を作り、災害からの復旧に尽力されます。BABAME BASEのある廃校オフィスを無料開放、地下水の無料配布プロジェクト、ボランティアへの古民家開放、消毒液の生成工場を作るなど、安心して生活できる環境を地域の人々とともに整えました。後に五城目町は災害からの迅速な復旧が専門家から評価されます。起業家と地域の人々の「つながりの資本」が五城目町を困難から復旧させました。

これからのコミュニティとは

質疑応答の様子
講義の最後に丑田氏は「貨幣の経済だけではなく、共助、コモンズなど地域のつながりの資本に目を向けていく必要があるのではないか」また、ハンドルにあそびを持たせるように、その余白やあそびがあるからこそ、なにかが生まれるきっかけとなる。学生には「これめっちゃ楽しそうだよね」「とりあえずやってみよう」という遊び心を大切にしてほしいと述べられ、授業を締めくくられました。

講義を受けて自分自身、隣人と話したことあったかなと思い返しました。近年、人と人とのつながりが希薄になっているように感じます。五城目町には人と人とのつながりが生むあたたかなコミュニティが形成されています。コミュニティでの深いつながりは何かと敬遠されがちですが、あらためて目を向けてみる必要があるのではないかと、授業を通して感じました。
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