【経済学部】自産自消できる社会に~農家が考えるこれからの農業の在り方~

2023.08.24

登壇された株式会社マイファーム 代表取締役社長 西辻 一真氏

経済学部の専門教育科目「地域づくり人特別講義」(担当:菅原 宏太 教授)は、受講生が地域づくりについて多面的に考える能力を身につけることを目的として開講しています。講義では、地域づくりにかかわる企業・団体の代表者などを講師として招き、地域が抱える課題や地域づくりの現場から見た日本社会についてお話しいただきます。今回は、株式会社マイファームで代表取締役社長を、そして学校法人札幌静修学園および一般社団法人日本有機農産物協会のそれぞれで理事長を務めていらっしゃる西辻一真氏をお招きし、日本社会における農業の在り方についてお話を伺いました。

(学生ライター 文化学部4年次 市原 美季)


幼い頃から農業に触れる機会があった西辻氏は、高校時代に将来農家になるという夢を持ち、京都大学農学部へ進学されました。大学では健康に良い大豆の栽培に取り組まれていたそうですが、自身の研究成果を世の中に広めるにはかなりの時間がかかることを知り、大学院には進学せず、卒業後は農家になると決められました。しかし当時は、農家出身ではない人が農業に新規参入するための制度が整っていなかったため、希望を変更し情報通信サービス会社に入社されました。サラリーマンとして働いていたある日、営業で飲食店を訪問した西辻氏は、残飯として捨てられた大量の野菜や正しく保管されていない食材を目の当たりにし、早く自分が農家になり、野菜を扱う人たちに野菜の美味しい食べ方や正しい管理方法などの知識を伝え、この状況を変えなければならないと感じたそうです。そうして会社を退職した後、2007年に、農家をサポートする「株式会社マイファーム」を設立されました。マイファームは「自産自消」という言葉を掲げています。この言葉は西辻氏がつくられた言葉で、自然に触れる楽しさや面白さや人が作物を育てるように、人も自然に育てられていることなどの意味が込められています。マイファームは、農作業を通して楽しく野菜の知識を身につけてもらうことを目的とした体験型農園サービスを開始し、今では全国120カ所以上で展開しています。

「日本で食ベ物は余っていると思いますか」という西辻氏の質問に対し、手を挙げる受講生たち

農家に携わる企業を起業し、夢を実現された西辻氏ですが、経営者としての考えが大きく変わる出来事があったそうです。2011年の東日本大震災の影響で農園のお客さんが離れてしまい、会社の経営が大きく傾いてしまいました。こうした背景によりマイファームから離れることを余儀なくされた西辻氏ですが、数年後、自身が設立した会社が倒産目前にある状況を知り、2013年に経営立て直しのためマイファームに復帰することを決意されました。その際、西辻氏が会社に戻ってくることを信じて会社に残ったメンバーや、自身が復帰するタイミングで一斉に戻ってきてくれたメンバーたちを見て、なぜあの時会社に残るという判断をしなかったのかと深く反省されたそうです。この経験から、無理な事業拡大を控えることや、会社の理念は社員やアルバイト含め全員で決めるなどの意識を強く持つようになり、会社経営をより客観的に捉え進められるようになったそうです。

受講生からの質問に答える西辻氏

授業の最後に受講生から、「労働力不足により大量生産型農業や機械化が進んでいる中で、人にこだわる理由とは何か」という質問がありました。西辻氏は、「生産者と消費者それぞれの食に対する意識を変えることが重要だ」と述べられました。食品ロスの多さが深刻な課題とされている日本において、生産者は作物を大切に作り、消費者はその作物を大切にいただくという考えがまだまだ広まっていないように思われます。作物に手間をかけて大切に育てるということは、機械には難しく、人の手でしかできません。また丁寧に育てられた作物を残さず美味しく食べることも、消費者である私たちにしかできないことです。このお話を聞き、農家の方々だけではなく、私たちの行動次第で日本の農業の在り方を少しでも変えることができるのではないかと感じました。


西辻氏が企業のトップとして大切にされているポイントの中で、“変化に柔軟であるか”という言葉が一番印象に残りました。私自身、大学を卒業した後、環境が変わることに不安がありましたが、「成長のためには変化に対して臨機応変に対応すべき」というお話を聞き、状況に応じて自分ができることに取り組もうと気持ちを切り替えることができました。また、受講生には農業に関心のある学生も多く、講義後の質疑応答タイムでは、西辻氏のもとに学生から多くの質問が寄せられていました。社会の変化に目を向け、他人事ではなく自分事として考える学生の様子を見て、“変化に柔軟な人”とはまさにこのように学びを得て成長する学生たちだと、取材を通して実感しました。

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