【国際関係学部】海外ビジネスのピンチを救う「国際仲裁制度」とは?
2024.02.01
国際関係学部では、外交、ビジネス、国際協力の分野で実践的な経験を持つ専門家をゲストに招き、世界の最前線の知識や実情を学ぶことができる科目が数多く開講されています。今回は英語講義科目である「International Business Case Studies」(担当:植原 行洋教授) に、のぞみ総合法律事務所からミハエル・ムロチェク弁護士をゲストに迎え、「国際仲裁制度」について講演いただいた様子をレポートします。スイス出身の外国法事務弁護士であり、欧州ビジネス協会の会頭も務めるムロチェク氏は、自身の経験や実際の事例を交えながら、分かりやすく国際仲裁制度の機能について説明されました。
(学生ライター 国際関係学部4年次 竹本 逸美)
はじめに、国際ビジネス紛争とは具体的にどのような場面で起こる問題なのか説明がありました。国際ビジネス紛争は、日本企業が海外進出した際にビジネス相手と起きる問題のことを言いますが、例えば現地の代理店とやりとりをする上で、以下の問題が時折起きます。
- 物の売買における納期の遅延、品質不良、商品代金の不払い
- 販売代理店契約の解約トラブル、合弁相手先パートナーとの契約解消
- ロイヤリティー(権利使用料)の未払い
以上の問題が起こった場合には、主に4つの解決方法があります。
- 交渉(negotiation):双方のみの話し合い、法的拘束力なし
- 調停(mediation):第三者を入れた話し合い、法的拘束力なし
- 仲裁(arbitration):第三者を入れた話し合い、法的拘束力あり
- 裁判(litigation):裁判官を入れた訴訟、法的拘束力あり
解決にあたっては、交渉⇒調停⇒仲裁⇒裁判の段階があります。ムロチェク氏の専門である仲裁は、非公開性と第一審で完結する迅速性、その問題の知識を豊富に有する専門家が仲裁人となってリーズナブルな対応することによる柔軟性が特徴であると説明しました。
今回の講義では、日本のスポーツ用品会社(以降スポーツK.K.(仮名)と表記)がヨーロッパに進出し、現地の代理店(以降代理店AG(仮名)と表記)と契約を結んだ事例を基に、契約書面も用いながら、海外進出のパターン、リスクや仲裁業務の役割と重要性について解説されました。
まずスポーツK.K.がヨーロッパへ進出する際には、以下のような方法があります。
- スポーツK.K.が直接(Webサイトなどを使って)日本から現地へ製品を販売
- 代理店(複数または、1社が独占)を見つけ、製品を送りその後は代理店に販売を委ねる
- スポーツK.K.の名の下、現地で製品を他の企業に製造委託して販売する
- スポーツK.K.の子会社を現地に設立し、自社で製造販売する
一見どの方法も魅力的に思えますが、実はリスクも潜んでいるとムロチェク氏は説明します。
例えば、3の方法はライセンシング(Licensing)と呼ばれ、委託側(スポーツK.K.)の特許や技術を持った受託工場がライセンス料を委託側に支払う仕組みですが、品質管理の難しさや、受託側がスポーツK.K.の競合会社に将来的になってしまうリスクがあります。4の方法はそういったリスクを避ける方法ですが、日本から人材や技術を派遣・移管したり、工場を建設したりするなどのコストがかかるというデメリットがあるそうです。
スポーツK.K.と代理店AGの間で、トラブルが発生した際、国際仲裁制度はどのように機能するのかを、ムロチェク氏は「解約トラブル」を事例に分かりやすく説明してくれました。
印象に残ったことは、相手側担当者の交代やシャンパン条項(激しい交渉の末に契約が合意した後の解放感からお祝いをしながら片手でシャンパンを飲みながら契約書の内容を安易に決めてしまう現象)などにより、このようなトラブルはよく起こるとムロチェク氏は説明してくれ、紛争解決条項がしっかりと書かれた契約書の重要性を知ったことです。
ムロチェク氏は、契約書にはどの国の法律に基づき、どの国の裁判所で、どの言語で仲裁が行われるのかなど、細かく条項を設定されていることが重要であると話し、講義を締めくくられました。