【理学部】宇宙物理・気象学科 髙木 教授が執筆した金星の赤道ジェットの時間変化に関する論文が出版されました

2023.12.15

研究概要

太陽系で地球のすぐ内側に位置する金星では、金星の自転を大きく超えるような東西風が吹いていることが知られており、スーパーローテーションと呼ばれています。1回自転するのに243地球日もかかるほど自転速度の遅い金星で、それを大きく超えるような東西風がどこでも吹いているなら、地面摩擦の影響でいつしか大気は地面に対して止まってしまうはずです。にもかかわらずスーパーローテーションが維持されていることは、惑星気象学の謎の一つでした。日本の金星探査機「あかつき」は2015年から金星大気を観測し、スーパーローテーションのメカニズムが次第に明らかになってきています。

髙木教授はこの度、本学教員を含む複数の共著者とともに、最近の「あかつき」の観測によって示唆されたスーパーローテーション(特に赤道に存在するジェット気流)の成因とその時間変化のメカニズムを数値シミュレーションを用いて調査しました。

掲載論文

掲載誌:Journal of Geophysical Research, Planets,2023年
題目:Formation and Quasi-Periodic Variation of Equatorial Jet Caused by Planetary-Scale Waves in the Venusian Lower Cloud Layer
著者:高木 征弘 , 安藤 紘基, 今井 正尭, 杉本 憲彦, 松田 佳久
DOIhttps://doi.org/10.1029/2023JE007922
URL: Formation and Quasi‐Periodic Variation of Equatorial Jet Caused by Planetary‐Scale Waves in the Venusian Lower Cloud Layer - Takagi - 2023 - Journal of Geophysical Research: Planets - Wiley Online Library

研究成果

金星探査機「あかつき」に搭載された赤外線カメラによる最近の観測によって、金星大気の高度47〜55kmには赤道ジェット(赤道付近で回転速度が最大となるような帯状東西風で、成因を説明することが難しい)が存在するだけでなく、それが時間的に大きく変動している可能性が示され、その生成メカニズムと変動メカニズムの解明が大きな課題となっていました。本研究では、この赤道ジェットを大気大循環モデルを用いて再現し、生成メカニズムと準周期変動のメカニズムを調べました。

データを詳しく解析した結果、赤道ジェットは5.8日周期をもつ惑星規模の波(5.8日波)による赤道方向への角運動量輸送によって生成されることがわかりました。5.8日波はロスビー・ケルビン不安定と呼ばれる東西風の緯度分布を原因とする不安定によって励起され、高度 70 km 付近で観測されている5日波に対応する大気中の波です。一方、5.8日波によって作られた赤道ジェットは、7日周期をもつ惑星規模の波(7日波)の高緯度方向への角運動量輸送によって破壊されます。金星大気中では、5.8日波による生成と7日波による破壊が交互に繰り返されることによって、赤道ジェットの準周期的な変動が引き起こされることがわかりました。7日波は今回数値シミュレーションによって発見された惑星規模の波で、赤道ジェットのもつ不安定によって作られますが、これまでの観測ではまだ発見されていません。

本研究の結果は、「あかつき」の観測で発見された赤道ジェットの生成・変動メカニズムをうまく説明するだけでなく、金星大気中には地球には存在しないさまざまなタイプの惑星規模波が存在していることを示すものです。今後のさらなる観測により、惑星規模波の存在や構造を明らかにしていく必要があります。

高度48km低緯度における7日波の水平構造。矢印は風速の偏差。色はジオポテンシャルハイト(この高度における気圧の高低)。

参考

PAGE TOP