【経済学部】経済学部研究会開催報告 テーマ:グローバルビジネスの最前線
2023.12.08

今回の研究会では、株式会社日本経済新聞社でコメンテーターとして活躍されている中山 淳史氏をお招きし、失われた30年から脱しきれない日本企業にとって必要な視点や世界のビジネスを取り巻く環境の変化についてお話しいただきました。
講演の冒頭、中山氏はこれまでの新聞記者、論説委員、およびコメンテーターとしての歩みを紹介されました。同氏は1989年に株式会社日本経済新聞社に入社されて以来、自動車、電機をはじめ多くの産業分野について取材を続けられています。また、米国駐在中の2001年に9・11同時多発テロ事件に遭遇され速報記事を執筆されたほか、カルロス・ゴーン氏など著名な業界関係者へのインタビューも多く手掛けられています。
続いて、ご自身のご経験をふまえ、ビジネス等さまざまな場面において人間に生じる悲観的または楽観的なバイアスの重要性を指摘されました。例えば、世界の貧困率や平均寿命、公衆衛生など、過去数十年で世界は少しずつ良くなっているにもかかわらず、必ずしもその認識は広まっていない面があります。また、米国では失業原因を他国の貿易政策に求めるような政治的宣伝がなされ、多くの支持を集めました。このように人間の思考には正確なデータよりも印象的なイメージが先行する傾向があり、過度に悲観的または楽観的な見方に陥って判断を誤ることがあります。
そして、失われた30年の中で日本企業が見失っていたことも、そういった人間の直観に潜むバイアスと関連があるとの見方を提示されました。バイアスにより見落とされがちな現象の例として挙げられたのが、指数関数的な変化です。例えば2の累乗は2乗が4、3乗は8と当初はゆっくりと変化するように見えますが、14乗は1万を超え、30乗では10億を超えるというように、ある段階から多くの人の直観をはるかに上回る勢いで増大していきます。ここ30年ほどで急激な進歩を遂げたIT関連産業はまさにそのような変化の生じた分野であり、その代表として半導体の集積度が2年ごとに2倍になるという「ムーアの法則」を紹介されました。これに対し、従来型のアナログな業界ではそうした変化が生じておらず、デジタル化に遅れた多くの日本企業は業績の横ばい状態が続き、海外企業との大きな差が生じるに至りました。
このようなビジネス環境の変化の中で、今後の日本企業には何が求められるのでしょうか。中山氏は1つの方法として、新技術を導入するだけでなく短期間で多くの製品開発サイクルを回し、指数関数的な成長を享受することの重要性を示されました。例えば従来の電機産業のように一度製品を売って終わりとするのではなく、アップルやテスラにみられるように売った商品にインターネットを通じてアップデートを行い、試行錯誤を繰り返して価値を高めるような工夫が1つの参考となります。加えて、米国の半導体産業補助にみられるように、古典的な自由競争ではなく、国家の積極的な関与により過当競争を排し、集中的に開発を進めていくことも必要になりうると指摘されました。
講演の冒頭、中山氏はこれまでの新聞記者、論説委員、およびコメンテーターとしての歩みを紹介されました。同氏は1989年に株式会社日本経済新聞社に入社されて以来、自動車、電機をはじめ多くの産業分野について取材を続けられています。また、米国駐在中の2001年に9・11同時多発テロ事件に遭遇され速報記事を執筆されたほか、カルロス・ゴーン氏など著名な業界関係者へのインタビューも多く手掛けられています。
続いて、ご自身のご経験をふまえ、ビジネス等さまざまな場面において人間に生じる悲観的または楽観的なバイアスの重要性を指摘されました。例えば、世界の貧困率や平均寿命、公衆衛生など、過去数十年で世界は少しずつ良くなっているにもかかわらず、必ずしもその認識は広まっていない面があります。また、米国では失業原因を他国の貿易政策に求めるような政治的宣伝がなされ、多くの支持を集めました。このように人間の思考には正確なデータよりも印象的なイメージが先行する傾向があり、過度に悲観的または楽観的な見方に陥って判断を誤ることがあります。
そして、失われた30年の中で日本企業が見失っていたことも、そういった人間の直観に潜むバイアスと関連があるとの見方を提示されました。バイアスにより見落とされがちな現象の例として挙げられたのが、指数関数的な変化です。例えば2の累乗は2乗が4、3乗は8と当初はゆっくりと変化するように見えますが、14乗は1万を超え、30乗では10億を超えるというように、ある段階から多くの人の直観をはるかに上回る勢いで増大していきます。ここ30年ほどで急激な進歩を遂げたIT関連産業はまさにそのような変化の生じた分野であり、その代表として半導体の集積度が2年ごとに2倍になるという「ムーアの法則」を紹介されました。これに対し、従来型のアナログな業界ではそうした変化が生じておらず、デジタル化に遅れた多くの日本企業は業績の横ばい状態が続き、海外企業との大きな差が生じるに至りました。
このようなビジネス環境の変化の中で、今後の日本企業には何が求められるのでしょうか。中山氏は1つの方法として、新技術を導入するだけでなく短期間で多くの製品開発サイクルを回し、指数関数的な成長を享受することの重要性を示されました。例えば従来の電機産業のように一度製品を売って終わりとするのではなく、アップルやテスラにみられるように売った商品にインターネットを通じてアップデートを行い、試行錯誤を繰り返して価値を高めるような工夫が1つの参考となります。加えて、米国の半導体産業補助にみられるように、古典的な自由競争ではなく、国家の積極的な関与により過当競争を排し、集中的に開発を進めていくことも必要になりうると指摘されました。
質疑応答
- 来場者からは、短いスパンで研究開発のサイクルを繰り返すとの提案に関し、日本企業の意思決定のスピード等を考えると実現が難しいのではないかとの質問がありました。この点については、新技術の導入は依然として重要であるものの、それが難しい場合に取りうる別の選択肢の1つとして提示されたとのことでした。
- 半導体等に関する国の関与については、過去の日本の産業政策の失敗が繰り返されることを懸念する意見も出されました。こちらに関しては、国の介入をどこまで認めるかについては難しい面があることは認められたうえで、近年日本で進められつつある計画は以前の経験もふまえており、これまでよりも期待できる面があるとのお考えでした。
報告者感想
講演を聞く中で、過去約30年間の間に日本企業に生じていたさまざまなバイアスの原因や公的部門の役割について考えさせられました。バブル崩壊後には政策対応の遅れもあり悲観的な見方が広がって必要以上にリスクが回避され、投資が低調となる中でデジタル化に乗り遅れたとされることがあります。逆に、円安等を背景とする好況の場面では楽観的なバイアスにつながり、従来型の産業が温存された面もあったかもしれません。こうした期待形成におけるバイアスはその時々の政策にも影響されており、マクロ経済学や行動経済学でも議論されていますが、今後も国の介入のあり方を考える上で無視できない点になりそうです。
また、製造業に関する提言とともに、新聞を含むメディアの役割にも繰り返し言及されている点が印象的でした。現代はインターネット、SNSが発達し単純な事実としてのニュースが手軽に入手できるようになった反面、信頼性の低い情報やバイアスのかかった言説も増加しています。このような中で新聞社など既存メディアの仕事も変化し、かつて夜討ち朝駆けといわれたようにスクープとなる事実を求めていた形から、客観的なデータを示して分析・解釈を加え、読者側からの意見発信も可能にするなど多様な視点を提供する「考えるメディア」の方向へとシフトしています。このようなメディアの新たな役割は、現代における大学の役割にも通じるものがあると感じました。インターネット上で情報が氾濫する中で、知識・情報を整理し関連付ける体系的な思考や、複眼的なものの見方を提供する教育・研究の重要性は以前より増しているように思われます。中山氏は講演の終盤、IT技術に幼少期から馴染んだいわゆるZ世代の持つ柔軟な発想力の可能性について語られました。本学の学生の皆さんにも、さまざまな学びや意見交換の中から、環境の変化に適応する新たな発見が生まれてくることを期待します。
また、製造業に関する提言とともに、新聞を含むメディアの役割にも繰り返し言及されている点が印象的でした。現代はインターネット、SNSが発達し単純な事実としてのニュースが手軽に入手できるようになった反面、信頼性の低い情報やバイアスのかかった言説も増加しています。このような中で新聞社など既存メディアの仕事も変化し、かつて夜討ち朝駆けといわれたようにスクープとなる事実を求めていた形から、客観的なデータを示して分析・解釈を加え、読者側からの意見発信も可能にするなど多様な視点を提供する「考えるメディア」の方向へとシフトしています。このようなメディアの新たな役割は、現代における大学の役割にも通じるものがあると感じました。インターネット上で情報が氾濫する中で、知識・情報を整理し関連付ける体系的な思考や、複眼的なものの見方を提供する教育・研究の重要性は以前より増しているように思われます。中山氏は講演の終盤、IT技術に幼少期から馴染んだいわゆるZ世代の持つ柔軟な発想力の可能性について語られました。本学の学生の皆さんにも、さまざまな学びや意見交換の中から、環境の変化に適応する新たな発見が生まれてくることを期待します。