理学研究科大学院生と理学部 内田准教授の研究グループがシリコン結晶中の原子空孔について理論的新発見。注目論文に選出!

2022.06.06

研究成果

理学研究科大学院生 神原大輝さん、清水泰斗さん、理学部物理科学科の内田和之准教授からなる研究グループが、並列計算機を用いた第一原理計算によって、シリコン結晶中の10原子空孔に関する新しい理論的な知見を得たと発表しました。研究成果は2022年5月25日付けで英文学術誌Journal of the Physical Society of Japanの本論文として出版されました。また、この研究論文はJPSJ編集委員会から高い評価を得て、Papers of Editors' Choice(注目論文)に選ばれました。

掲載論文

題目: Discovery of Peculiar Electronic Structures of Decavacancy V10 in Silicon Crystal
著者: Daiki Kamihara, Taito Shimizu, Kazuyuki Uchida
掲載誌:J. Phys. Soc. Jpn. Vol.91, No.6, 064709 (2022) [ DOI: 10.7566/JPSJ.91.064709 ]
URL: https://doi.org/10.7566/JPSJ.91.064709
注目論文:https://journals.jps.jp/journal/jpsjnc

研究背景

結晶を作成したときに、本来は原子(1つあるいは複数個)が存在すべき場所から原子が抜け落ちてしまう場合があります。このときに残された「穴」を、専門用語では、原子空孔と呼びます。原子空孔は、結晶の電気伝導性や光学特性に大きな影響を与えることから、工学的に重要な存在です。また近年は、原子空孔を量子ビット(量子コンピュータの基本要素)として動作させる研究も進展しており、サイエンスの観点からも注目されています。

研究概要

原子空孔の興味深い性質は全て、空孔周辺の原子レベルでの構造と、それを反映した電子状態が生み出すものです。この研究では図のような、シリコン結晶中のV10と呼ばれる原子空孔の原子構造と電子状態を、第一原理計算と呼ばれる理論的な方法で明らかにしました。V10の存在は従来から知られ興味を持たれてきましたが、必要な計算規模が極めて大きいために、これまでは十分に調べられていませんでした。
今回、並列計算機上で、実空間法により実装した計算プログラムを動かすことで、V10の第一原理計算に成功しました。計算の結果は、量子力学の教科書的な知識に基づいた予想をくつがえす、意外なものでした。論文では、得られたデータの詳しい解析を行い、そのような結果が得られた特殊な物理的背景を明らかにしています。
図: Si結晶中の10個の原子空孔Vのクラスターの様子

参考

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