現代社会学部 プロジェクト演習加藤ゼミ 持続的資源利用についての特別講義を開催

2021.08.05

現代社会学部プロジェクト演習の加藤敦典ゼミでは、現在、ベトナムの食、教育、文化芸術などをテーマに活動をすすめています。
加藤ゼミでは、2021年7月16日(金)に、一般社団法人マリノフォーラム21の代表理事会長を務める渡邉英直先生にお越しいただき、「漁業振興に必要な対策について(持続的資源利用と社会的及び経済的な視点から)」の講演をしていただきました。講演は渡邉先生が上述したテーマに関する様々な問いをゼミ生に問いかけ、一緒に考える双方向の形式で進められました。
初めに、マリノフォーラム21の取り組みの紹介も含めて渡邉先生に自己紹介をしていただきました。その後、「漁業の社会的な役割とは何か」という問いから話が進んでいきました。内容は大きく三つに分けられます。
一つ目は、漁業に対して政府は漁港の整備を行うべきだということです。漁業は国民に食糧(動物性蛋白質)を供給するという社会的に重要な役割を担っています。しかし、後継者が不足し、従事者が減っているのが現状です。そこで、漁業者に漁業を続けてもらうため、水揚げや漁船の停泊のための港の整備が必要です。加えて、漁村は辺鄙(ぴ)な場所にあることが多いので、そこにより多くの人が住めるよう、生活インフラなどの居住環境を整えることも不可欠です。日本は漁村の人口が少ないですが、ベトナムなどでは漁村に若者が多く、日本とは違う光景が広がっているそうです。なぜそのような違いがあるのか、実際に現地に行って答えを探したいと思いました。
二つ目は、持続的に魚を獲るための工夫です。漁業において、資源を持続的に利用するためには適切な資源管理が必要です。つまり、漁獲を管理するということですが、それはモニタリング(状況の整理と把握)→コントロール(操業規則の設定)→サーベイランス(操業の管理・監視)のサイクルで成り立っています。モニタリングでは四分野の情報、分析を行う必要があります。まず、誰がどのくらい漁獲したのかを表す「漁獲」と、どの方法でどのくらいの時間を使ったかなどを表す「漁獲努力量」の分析を行います。この二分野がその後の分析に必要な情報になるので最も重要です。これらを基に「資源状態分析」を行います。これは、利用している種の資源量はどれくらいか、その資源の年齢別の構成はどうなっているのか、資源の状態は良いか悪いかをなどを分析します。例えば、昨年は20隻の船で200㎏獲ったとします。それが、今年は20隻の船で100㎏であった場合、資源の状態は悪くなったということになります。最後の分析は「漁場環境」の分析です。魚の産卵や産卵後の生育は海洋環境に大きく影響を受けるため、水温や塩分濃度、海流の動きなどの断続的な調査が必要となります。モニタリングの次にコントロールに移ります。これは、モニタリングで得た分析に基づいて、資源を持続的に利用するための規則を設定することです。そして、設定した規則が守られていることを確かめるための管理や監視がサーベイランスです。
三つ目は、漁業の経済視点からみた特徴です。漁業を行う上での支出として、漁船の建造や燃料の調達、冷凍・冷蔵保存にかかる経費などが挙げられます。漁船の建造は大きな初期投資であり、12年が減価償却だと言われています。燃料は価格の変動が大きく、高騰することもあります。水産物は腐りやすいので冷凍・冷蔵保存が不可欠ですが、保管に経費がかかるという点がネックになっています。次に収入ですが、同じ魚でも大きさや品質によって価格が異なります。加えて、魚の価格は漁獲量の動向で決定されるため、大漁になっても収入が増えるわけではありません。これらを踏まえて利益を上げるためには収入が支出を上回る必要があります。市場の動向の素早い把握とその情報提供のため、ひとつの漁場で組織を作り、全員が情報提供できる環境を整えることが重要です。これを進めることで、継続的な漁業経営の分析と対応策の策定につながります。
持続的資源利用と社会的及び経済的な視点からみた漁業振興に必要な対策は、漁業者中心の資源管理です。なぜなら、水産資源を利用して生計を立てているのは漁業者だからです。自分たちの生活を維持していくためには責任を持って資源を管理する必要があります。そして、漁業者中心の資源管理を支援するのが政府の役割です。
渡邉先生が水産資源管理の指導のためベトナムなどを訪れた際に、分析などの指導をしても分かってくれないことが多かったことから、正しいことを分かってもらえるように伝えることが大切だと仰っていて、私たちの活動においても同じことが言えると感じました。正しいことを分かってもらうことで、より多くの当事者の協力を得ることができ、課題の解決につながると思います。また、様々な活動において誰が責任を持って取り組むべきか、その取り組みをどのようにうまく進めていくべきかを考えることが大切だと感じました。

(現代社会学部 現代社会学科2年次生 大西 夏生)

特別講師の渡邉英直先生
ゼミ生と記念撮影
※写真撮影時のみマスクを外しています
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