「花が好きだから……」
黒田が生命科学部を選んだ理由は、こんな素朴なものだった。
黒田の研究対象は、「虫こぶ」。虫こぶとは、昆虫が植物に寄生し産卵した結果、植物の体の一部がこぶ状に発育したもので、昆虫にとっては外敵から身を守るシェルターとなり、食料にもなる。
「この『虫こぶをつくる』という作用を起こさせるために、昆虫は『CAPペプチド』というタンパク質を分泌しているのですが、同じCAPペプチドでも、アミノ酸の配列によってさまざまな種類があり、植物に及ぼす作用もそれぞれ異なります。私は、アミノ酸配列のどの部分を変えたらどんな作用が見いだされるのか、実験を通じて検証しています」
CAPペプチドによって植物の潜在能力を引き出すこの研究は、世界の食糧問題を解決するなど、大きな可能性を秘めていると黒田は言う。
「発展途上国では、乾燥していて養分が少ないなど、耕作に適さない土壌のため食糧不足に直面しています。また先進国でも、肥料や農薬を使わない農業への転換が求められています。CAPペプチドはこうした課題の解決に貢献できるかもしれない……それが研究を続けるモチベーションになっています」
卒業後は大学院に進学して研究を続けたいという黒田。実は、研究テーマを選ぶ際に、明確な目的意識を持っていたわけではない。そんな黒田の意識を変えたのが、学生の自主性を重んじる木村ゼミの環境だった。
「研究テーマを決めたら、どんなスケジュールで、どのようにアプローチするかは基本的に学生自身に委ねられます」
月に1度、ゼミ生が集まって木村教授と研究員に、自分の研究の進捗状況を報告し、今後の進め方についてディスカッションを行う……こうした環境を通じて『自分の頭で考える力』を身につけたことが最大の収穫だと語る。
「研究を通じて『世の中で最も神秘的なものは生物の世界だ』と気付きました。その謎を解き明かすために、今後も研究を深めていきたいですね」
※掲載内容は取材当時のものです。