僕を変えてくれた留学(厚見 祐介さん)

僕はイタリアのトスカーナ州にあるシエナという街で約10か月生活し、交換留学生として外国人大学に通いました。高校の時から京都産業大学にはイタリア語専攻があるのを知っていて、イタリアに留学するために選んだと言っても過言ではありません。実際にその地へ行くことができただけで目標を達成したと思いましたが、留学中にはこれまで20年生きてきた中で想像のできなかった多くの経験をすることができました。

留学するにあたって自分の中では「変わる」ということを目標にしていました。留学前の面接でもあまり勉強に関して話しませんでした。なぜなら、留学で勉強するのは当たり前のことだと考えていたからです。この目標にしていた「変わる」はたくさんの意味を持っていました。自分の性格に始まり、あらゆる物事についての考え方を含んでいました。実際どう変わったかを、自分で感じたことや人から言われたことをもとに書きたいと思います。

まず性格について、日本にいるときは仲のいい人とは良く話していましたが、そうでない人とはあまり関わろうとしていませんでした。その理由は、「いま自分がいる状況が一番面白い」と思っていたからです。ところが、イタリアでイタリア人だけでなく、たくさんの国の人たちと関わるにつれ、自分のいた世界はとても小さいものだったと知らされました。「イタリア人は人の心の扉をこじ開けてくる」と言いますが、その言葉通りでした。そのおかげで自分からクラスメートに話しかけたり、レストランで店員さんと仲良くなったりすることができるようになりました。

そのようにして日々を過ごしていると、日本であまり言われなかったことを周りの人に言われるようになりました。例えば、「祐介の周りにはいつも誰かいる」や「年齢や性別に関係なく、誰とでも仲良くなれるよな」などです。そして、「お前、日本人じゃないだろ!」と言われたときは、頭の中には「?」しか浮かびませんでした。なので、どうしてそう思うのかを質問すると、「初対面の人に自分から挨拶をして握手を求めたりして、受け身ではないから」と説明してくれました。そのときはじめて自分自身が変わったことに気づきました。自分の知らないうちに、他人に興味を持ち、自分の知らない世界を知りたいと思うようになっていたのです。そのおかげで、ワイン関係の仕事をしている人や料理人、芸術家など、年齢や職業が違うたくさんの人に出会うことができました。

大事なことは「自分から動く」ということ、これを私は実感しました。留学体験談で必ずと言っていいほど聞くフレーズで、留学前の私は「皆同じ事を言うんだな」なんて思っていました。まさか自分も同じことを言うとは予想していませんでした。待っていても何も起こりません。動けば必ず何かしら変化が起きます。良いこともあれば、もちろんそうでないこともあります。私はこの当たり前だけど難しい「自分から動く」ということの大事さを知り、実行できるようになりました。

そして、YesとNoをはっきり言うようになりました。わがままと思われるかもしれませんが、嫌なことは何を言われようとNoと言います。日本人の多くは相手の顔色を見て、嫌なことでもYesと答えると思います。その理由は「嫌われたくない」という心理でしょう。もちろん留学前の僕もそうでした。Noと言う勇気がなく、嫌々ながらYesと言った経験も多くあります。しかし、そのたびにどこかで後悔をしていました。でも、そんなことは本当にちっぽけなことで、Noと言っても仲良くしてくれる人はいます。僕はそういう人との関係を大切にするようになりました。

次にあらゆる物事についての考え方の変化について記します。いま日本では多くの人が様々な偏見を持って生活しているように思います。例えば、中国人に対してです。日本と中国の国家間の関係があまり良くなく、中国人観光客の爆買いやマナーの悪さのせいで、中国人に不信感を抱いている人がいます。実は僕も留学前まではそうでした。しかしイタリアでたくさんの中国人の友達ができ、彼らと日々を過ごしたことで変わりました。日本のニュースで取り上げられる中国人のイメージに基づいて、皆をひとくくりにして考えないようになったのです。日本人が抱く中国人のイメージについて彼らに質問すると、「それは一部の人たちで、皆がそうではない。そういう偏見を持たれるのは嫌だ」と答えました。それで私は、何も知らずに「中国人だから」という理由だけで距離を置くのは間違っていると分かりました。これはあらゆる物事に当てはまると思います。偏見はその人の考えを小さくしてしまいます。僕は何事にも偏見を持たずに接することを決めました。それによって世界が広がっていくことを実感しています。

自分の目標通り「変わる」ことができたこの留学は、これから長い人生を歩むうえで、忘れることのできない大切なものになりました。

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