令和4年度 学部授業・カリキュラム改善に向けた「年間報告書」

1.「学習成果実感調査」についての分析結果

新学科体制の完成年度はすでに迎えたが、過去4年間にわたり、初年次配当科目の導入科目とそれ以外の科目に分けて、引き続き調査を実施している。完成年度を迎えたという当学部の事情のほか、新型コロナ感染の下火に伴う対面授業の大幅増加という事情により、いくつかの項目で一昨年、昨年度との違いが見受けられる。過去5年分の調査結果を並べた傾向は、以下の通りである。
導入科目以外の結果(プログラム平均)については、「シラバスを確認した」(設問2-1)のスコアがここ4年間で上昇して、高スコアで定着している(4.07→4.75→4.80→4.86→4.83)。これにより履修者が内容をきちんと確認している傾向がうかがえる。「準備学習の平均時間」(設問3)も、大まかに言って、高スコア傾向が維持されている(2.13→2.64→2.72→2.59→2.55)。また「履修に満足している」(設問8)、「身に付く力が付いたと思う」(設問9)についても、ともに安定して高い傾向が見られた(3.96→4.01→4.07→3.99→3.98、3.75→3.76→3.85→3.83→3.82)。履修に満足・身に付く力ともに、引き続き、各科目でどんな力が身に付くのかを学生に意識させることを今後とも継続させていきたい。
導入科目の結果(プログラム平均)についても、「シラバスを確認した」(設問2-1)のスコアにおける上昇傾向が見受けられる(3.77→4.60→4.70→4.76→4.85)。1年生はシラバスを読んで履修登録することに慣れていないなか、新学科体制が完成年度を迎え、ここ数年続いたシラバス改訂機会も落ち着いた中、さらに履修者が丁寧にシラバス確認を行っている傾向の定着が確認できる。他方、「準備学習の平均時間」(設問3)において昨年度に比較してポイントのスコア上昇がみられた(2.02→3.02→2.63→2.39→2.60)。また初年次から「準備学習の必要性」(設問6)を感じている傾向が、今年度はさらに強まったといえる(3.52→3.76→3.72→3.55→3.91)。「履修に満足している」(設問8)、「身に付く力が付いたと思う」(設問10)のスコアは、昨年に比較するとやや微減と言えるが、高位推移傾向が定着しており(3.98→3.97→4.08→4.00→3.88、3.71→3.70→3.89→3.84→3.79)、引き続き努力したい。「リーディング・ドメインの選択に役立ったと思う」(設問9)についても(3.82→3.95→4.08→3.97→3.91)、高止まり傾向がうかがえる。導入科目やベーシック・セミナーなどで、ここ数年来のリーディング・ドメインの考え方や選択方法についての周知に取り組んだ結果と考えられ、今後さらに改善に取り組みたい。

2. 学部独自のFD活動についての報告

(1)公開授業とワークショップ

令和4年度には学部授業・カリキュラム改善に向け、春と秋にそれぞれ公開授業とワークショップを行った。

  1. 春学期公開授業:
    • 科目:「マーケティング入門」
    • 担当教員:上元 亘(経営学部准教授)
    • 実施日時/場所:6月20日(月)、13:15-14:45、516教室
    • 参加人数 8名
  2. 春学期ワークショップ:
    • 実施日時/場所:6月20日(月)、14:55-15:30、5号館2階ミーティングルーム2
    • 参加人数 8名
    • 〈ワークショップでの意見交換内容〉:
      ・ムードルのアンケート機能を使った、学生とのリアルタイムの意見交換が参考になった。自分の意見が取り上げられた学生は、学習意欲が向上している様子であった。
      ・ムードルで、東洋経済などから最新の関連記事リンクを貼っているのも参考になった。
      ・1回生向け導入科目ということもあり、ゆっくり丁寧な説明をしているのが印象的であった。加えて、スライドの情報量も適切であると感じた。
      ・説明のたびに、教科書の該当ページを案内するのが丁寧でよいと感じた。このやり方なら、学生も教科書を購入することの意義を分かってくれそうである。
      ・500人を超える履修者にもかかわらず、中間レポートを課して採点していることは驚きであった。上元先生曰く、採点に1~2日かかるとのことである。
      ・複数教員による開講科目ではあるが、上元先生曰く、試験やレポート課題はもちろん、レジュメの中身についても比較的統一化しているとのことである。
      ・学生の私語がやや多かったが、今回は学部教員が見学に来ていたこともあり、これでも普段よりは少なめだったとのことである。昼食後、3時限目の大講義室講義に特有の難しさかもしれない。
      ・大講義室の照明について、スクリーンと黒板のどちらを優先して調節するかについてはなかなか悩ましいとの意見が出た。
  3. 秋学期公開授業:
    • 科目:経営管理論
    • 担当教員:赤岡 広周(経営学部准教授)
    • 実施日時/場所:10月13日、9:00~10:30、516教室
    • 参加人数 5名
  4. 秋学期ワークショップ:
    • 実施日時/場所:10:30~11:00、5号館2階ミーティングルーム2
    • 参加人数 5名
    • 〈ワークショップでの意見交換内容〉:
      ・1限にもかかわらず出席者が多く、私語もないなど、良好な教育環境が実現されていた。
      ・履修生には予習・復習が推奨されており、それがレジュメの作り方や成績評価とも連動するなど、講義デザインにすばらしい工夫が見られた。
      ・毎回小レポートを課しており(1回5点満点・合計70点)、その課題も適切なテーマが選ばれていた。毎回の採点は大変とのことだが、今の履修者数なら何とか対応できるとのこと。小レポート用紙の整理は、授業補助員にお願いしている。
      ・小レポート中心の評価にすることで、運動部などの学生の単位取得可能性の向上につながっている。
      ・講義中に学生に自発的な発言を促し、インセンティヴとして1回1点を加算している。それが予習のインセンティヴにもつながっているほか、出た意見はその場でパワーポイントに書き込むことで、それも学生の励みになっている。また発言した学生を把握するために、教室の座席表を使うなどの工夫を凝らしている。

(2)その他研修会等

  1. 全学教育FD研修会
    • テーマ:「大学の授業の設計」
    • 概要:オンデマンド講義の視聴&意見交換会
    • 発表者:沖裕貴教授(立命館大学)
    • 実施日: 5月18日(水)2時限目(10:45~12:15)
    • 参加人数:25名
  2. 学部教育FD研修会
    • テーマ:「卒業研究(演習5・6)の指導について」
    • 概要:「卒業論文の傾向に関する考察と内容分析」
    • 実施日:7月20日(水)(12:00~12:40)
    • 参加人数:21名
    • 〈ワークショップでの意見交換内容〉:
      ・2021年度に経営学部に提出された145本の卒業論文を対象に、大まかな内容分析を行った。    
      ・テーマは、組織や消費行動、社会課題が多い傾向にある。
      ・定性的方法も定量的方法もある。
      ・頻出ワードは、次のような傾向を示した。経済主体に注目すると、企業(2,914回)、自分(974回)、会社(836)の順に多い。マクロ環境に注目すると、日本(2,465回)、地域(999回)、環境(948回)の順に多い。企業提供物に注目すると、サービス(1,271回)、商品(954回)、スポーツ(635回)の順に多い。企業活動に注目すると、経営(1,591回)、事業(1,481回)、活動(950回)の順に多い。
      ・4)意見交換:
      ・教員の研究テーマとは異なるテーマを選ぶことも多いが、学生に身近な現象をきっかけにテーマを選ぶことが多い。
      ・卒業論文への動機づけはとても困難である。論文を3回生の時に書いてもらい、論文を書 くことの作業の大変さを前もって知ってもらったり、ラインでグループをつくって励ましあったりといった工夫もしている。
      ・テーマを決めて卒業論文を進めていく作業は、就職活動の状況などがあり学生同士で一斉ではない。この点、指導(教員のコミットメント)が難しい。
      ・卒業論文にコピー&ペーストの文章が含まれないようなチェッカーを導入してもよいのではないか。
      ・コピー&ペースト対策に、Wordの他にExcelも提出させるなどといった工夫をしている。
  3. 大学院教育FD研修会
    • テーマ:「修士論文の指導について」
    • 概要:話題提供&意見交換
    • 実施日:7月20日(水)(12:40~13:00)
    • 参加人数:21名
    • 〈ワークショップでの意見交換内容〉:
      ・学部教育FDでの卒業研究(卒業論文)に関する話題提供とその後の意見交換を基に、修士論文の指導について意見交換が行われた。具体的には、各教員から次のような意見が挙がった。
      ・修士論文では、卒業論文とは異なり、より厳重に引用に注意しなければならない。そのため、コピー&ペーストの文章が含まれないようなチェッカーを導入してもよいのではないか。
      ・修士論文の指導を、卒業論文の指導と同じように多くの学生に対して実施することはできない。
      ・修士論文で利用予定の調査方法を扱った先行研究を修士課程の大学院講義で読み解く、という授業を設計している。
  4. 学部教育FD研修会
    • テーマ:「新任の先生から見た講義における困難や課題」
    • 概要:新任の先生に、本年度の講義を振りかえって困ったことや課題などを短めにご提供していただき、学部教員が共有して(解決策などあれば)討議していただく
    • 実施日:12月21日(水)(12:20~13:00)
    • 参加人数:23名
    • 〈ワークショップでの意見交換内容〉:
      ・学生間でパソコン能力やプレゼン能力の分散が大きい(ベーシックセミナーなど)
      ・どこまで学生主体でやらせ、どこから教員が介入するか、見極めが難しい(ケース分析やゼミ)
      ・ゼミにおける3年間の到達目標をどう決めればよいか
      ・ 低モチベーション学生(事前準備不足や私語)にどう対応するか
      ・ 講義やゼミにおける必要経費(マシュマロチャレンジなど)を援助してほしい
      ・ 大人数の対面講義では個別の対応が難しく、レポートのフィードバックも大変
      ・ よく質問する真面目な学生がテストでいい点を取るとは限らないのをどうするか
      討論:
      ・事前に理論を学んでから事例分析に進むのではなく、事例を調べる中で必要に迫られて理論を学ぶ、というアプローチもありうる
      ・学生のモチベーションの違いは、点数で差をつけることで対応するのも一つ
      ・教員にとって、研究費はあるが教育のためのお金はないのが現状
      ・ベーシックセミナーなどで、数人で作業をさせて互いにパソコン操作を学ばせるのも一つ
      ・レポートへのフィードバックは、総評という形で講義の中でまとめて紹介するのも一つ
      ・ゼミについて、学生全てが最後まで残って卒論を書くわけではない、と割り切るのも一つ
      ・講義課題は、学生の興味をふまえてテーマを設定するとよい

3.総括

(1)1.と2.において確認された、本学部の授業・カリキュラムの長所

総じていうと、令和3年度に比較し、オンライン授業から対面授業が大幅に増加し、教員も学生もその双方に対応しながら乗り切ってきたといえる結果になった。
また学部再編の完成年度を無事終え、新学科体制の定着と安定化が求められる年であった。こうした中ではあったが、上記で紹介した「学習成果実感調査」分析結果を経年比較すると、導入科目、導入科目以外いずれもおおむねアンケート結果は良好であった。引き続き授業、カリキュラムの改善に取り組みたい。コロナ禍という困難な時期にあっても、すでに紹介した公開授業とワークショップが予定通り実施され、教員間で授業改善に向けた具体的試みが堅実に継続されていることも、引き続き本学部の特徴である。

(2)1.と2.において確認された改善すべき点

以上で述べてきたように、本学部におけるカリキュラム・授業改善の試みは比較的順調である。こうしたポジティブな動きを停止させないことが大切である。
とはいえ、新学科体制の定着とさらなる安定化にむけて、「学習成果実感調査」では見えない新たな課題も年とともに徐々に現れる可能性はある。それらに抜かりなく対応し、さらに魅力的な経営学部を形成することが必要であると思われる。

4. 次年度に向けての取り組み

本学部では、例年「公開授業」及び「ワークショップ」を春学期と秋学期に実施してきた。引き続き、これらは計画通りに行われ、効果を上げることが求められる。
また次年度については、すでに完成年度を迎えた新学科体制の更なる定着・安定化が求められる。同時に、オンライン授業中心から、対面授業の本格的復活・再洗練化も要求される。教育FDを通じて、幅広く教員間での情報共有や議論を行い、引き続き各自の授業改善につなげていく予定である。
教授会開催日の昼休みに経営学部内で行う研究会のうち、春秋に1回ずつ教育FD研修会開催と割り当て決定しており、具体的に次年度の予定は未定ではあるが、7月と12月に一回ずつの開催を予定している。
最後に、経営学部では大学教育における各教員の研究能力向上と、その切磋琢磨が重要であると考える。これに鑑み、また学部教員間相互の研究活動を認識するために、教授会前のお昼休みに研究FD・パワーランチを継続する。
昨年の秋学期以降に行われてきたパワーランチは、以下の通りである。

  • テーマ:パーパスと向社会性:組織が出すメッセージと従業員意欲の関係を中心に
  • 概要:研究FD活動
  • 講師:Shin Hayoung(シン・ハヨン)(経営学部 助教)
  • 実施日:9月21日(水)12:00~13:00
  • 参加人数:23名
  • テーマ:Market-sensingとサービス化:アンケート調査の分析結果と産学連携共同研究への展望
  • 概要:研究FD活動
  • 講師:須賀亮太(経営学部 助教)
  • 実施日:2月10日(金)12:00~13:00
  • 参加人数:21名
  • テーマ:開かれたネットワークの閉じられたコミュニティ—ガクチカとスティグマ
  • 概要:研究FD活動
  • 講師:舟津昌平(経営学部准教授)
  • 実施日:3月17日(金)12:00~13:00
  • 参加人数:29名
PAGE TOP