Ⅶ 日本近世の魔除けとまじない

近世になると平和の時代の到来とともに、盛んに寺社への参詣を一種の「遊び」として行うようになります。同時に、そこでは多様な個の不安や願望にこたえるために、寺社は次々と多岐にわたる御利益が作り上げられていきました。寺社では、個々の由緒や神仏の霊験をふまえ、様々なご利益をうたった護符や縁起物などを授与するようになっていきます。
一方で、信仰の世界は寺社内部にとどまっていたわけではありません。出版文化の発展にともなって、仏教や神道、俗信に関する知識が出版物として広まっていきました。秘伝に属していたはずの吉田神道や修験道に関する書物も刊行されていきます。

また、専門的な知識や技術者の間で秘匿され、継承されていた家相・人相などの占いやまじないなどの技法書、入門書も出版物として誰しもが手に入れうる環境が整っていきます。
『増補呪詛調宝記大全』(右図)のような呪符やまじないの書物は繰り返し、版を変えて増補されて類書が刊行されました。
そうしたなか、地域社会の知識人などは、『東方朔秘伝置文』や『大雑書三世相』といった書物により、田畑の作付けなどを指導するようなところもあらわれます。禁忌などの民俗知識も、このような書物を介して形成されることがありました。
近世は、宗教知識が「世俗化」し、多様な回路を通して浸透していった時代であるということができます。

(村上 紀夫)


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