Ⅵ 中国の魔除けとまじない

中国では、古来より不吉なきざしや悪しきものを退けることを「辟邪(へきじゃ)」と言いました。辟邪には様々な方法がありますが、「吉祥物」、つまりラッキー・アイテムを置くこともその一つです。そもそも「辟邪」という言葉も、古くは神獣の名前でした。例えば『急就篇』巻3には、「射鬾(しゃき)・辟邪は群凶を除く」とあります。また、古代の辟邪をかたどったとされる石像が現在まで伝わっています。こうした辟邪の霊験を持つ神獣(辟邪神獣)は、元祖である辟邪のほかにも、数多く生み出されました。今回展示している白沢なども辟邪神獣としての一面を持っています。
また呪符も辟邪に広く用いられました。呪符の使い方は、おおよそ貼る、帯びる、飲むの三通りです。このうち、我々にとって最もなじみ深いのは、鎮めたい場所に貼るという方法でしょう。これは日本のお札の使い方とそれほど違いはありません。また、帯びるというのも呪符がお守り(護符)のようなものだと思えば、分かりやすいでしょう。最後の飲むというのは、焼いて灰にし、水に溶かして飲むという方法です。これは元をたどれば、道教の源流である、後漢末の太平道の時代から行われていたようです。『三国志』裴松之注に引く『典略』には、「太平道では、師が九節の杖を持ち符を用いてまじない、病人にひざまずいて頭を地面にたたきつけさせ、あやまちを思い浮かべさせ、呪符を溶かした水を飲ませる。」とあります。

そもそも呪符というものは、神仙世界もしくは冥界の文書を模したものが多いようです。例えば今回展示しているベトナムの呪符も、神虎や独脚神と言った鬼神に、家々の不吉を鎮めよ、と命じる「勅書」の体裁を取ります。また文書には印(判子)が付きものですが、呪符にも押印してあるものが少なくありません。今回展示している「太上老君勅令」と題した木印(左図)も、一見すると呪符のようにも見えますが、実は様々な呪符が効力を発揮するために押される法印なのです。道士がこの法印を押すことで、その呪符(文書)は最高神である太上老君の勅命となり、鬼神たちを従わせることができると考えられました。

(佐々木 聡)


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