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- 2016 Apr. Vol.71
皆さんは惑星気象学という分野を聞いたことがあるでしょうか?これは比較的新しい学問で、地球の気象学を応用し太陽系惑星における気象現象を解き明かしていく分野です。私はその中でも、大気中の物質循環や大気組成の変動に着目して研究を行っています。
地球大気では私たちが住む対流圏の上空にも成層圏などいくつかの層が存在し、場所・時間によって温度や湿度、風向きといった大気の状態が異なります。特に風は大気中でのエネルギーや物質の輸送を担っており、非常に興味深い現象です。"偏西風"や"貿易風"など、私たちが生活しているところよりも上空の上部対流圏.成層圏で吹く惑星規模の風は、私たちが日々の天気として感じる風とは規模が異なるものですが、遠く離れた場所まで黄砂を飛ばしたり、"エルニーニョ現象"のような海水温の上昇と密接な関係があったりするなど、私たちの生活環境にも密接に関わっています。これまでの研究により、地球における気象現象についてはさまざまなことがわかっていますが、他の惑星では地球にはない現象が観測されており、その多くがまだ解明されていません。今回は一例として、"地球の双子"とも呼ばれる金星の研究についてご紹介しましょう。
金星は、大きさや重さが地球と同程度の惑星です。しかし、大気の状態は全く異なり、地球の90倍もの大気が存在し、さらに惑星全体が数十qもある分厚い雲で覆われています。地球の場合は水蒸気が主な材料となって雲が作られますが、金星では二酸化硫黄を材料とした硫酸によって雲が作られます。研究では大型の望遠鏡でこの雲を観測しますが、望遠鏡での観測といってもその手法にはさまざまなものがあり、雲の厚みや温度を調べることもできますし、風によって雲が運ばれる
速度や、二酸化硫黄などの特定の物質を検出することも可能です。金星の雲については、これまでの研究で、おおよその厚みや組成などが明らかになっていますが、雲が作られる仕組みについてはまだよくわかっていません。地球で水蒸気がより多く上空に運ばれる場所で雲が多く生成するように、金星でも雲の材料となる二酸化硫黄の分布を調べることで雲がどこで作られるのかについての理解が進むと考えられます。現在、雲の上下で二酸化硫黄がどのように分布しているかの研究を進めている所です。
では、金星の雲について理解することは、何につながるのでしょうか?私は広大な宇宙を普遍的に理解していくための一つの基準作りだと考えています。最近では太陽系の外でも多くの惑星が見つかっていますが、それらの特徴は太陽系惑星のようにそれぞれ異なると予想されます。こうした系外惑星の研究をする際に、地球だけでなく金星や他の太陽系惑星との比較ができれば、研究スピードは格段に上がるはずです。そういった意味では、太陽系は"比較サンプルの宝庫"といえるでしょう。長期的な視点で考えれば、惑星気象学の研究は惑星全体への理解を深め、宇宙の神秘の解明に貢献すると考えられるのです。
研究や学会などで海外へ行く度に現地でコーヒー豆を買っています。出張の記憶や現地の雰囲気を思い出しながら一人で飲むのも良いですし、学生さんと研究のことなどを話しながらお茶をする時間も好きですね。いろいろなコーヒーを試しましたが、ハワイの「KONA COFFEE」が個人的におすすめです。