【理学部】航空宇宙産業なう!ー現場からの声を聞こうー

2025.05.13

理学部物理科学科の専門教育科目「宇宙工学基礎」(担当教員:河北 秀世 教授)は、宇宙産業関連企業からゲストスピーカーを招き、現場の最新技術や動向を学ぶことができる魅力的な授業です。今回は、ロケットエンジンなどの設計を手がける株式会社中央エンジニアリングの飛しょう体・宇宙技術部 中村勝彦氏をゲストスピーカーとしてお迎えし、航空宇宙産業の現状とその技術について講義をしていただきました。

(学生ライター 理学部 2年次 濱口 志保)

今回の講義は、授業を履修している物理科学科や宇宙物理・気象学科の学生だけでなく、その他の学生や教員も参加が自由となっており、多くの参加者が会場に集まりました。このような多様な聞き手に対し、中村氏は、航空宇宙産業の現状について分かりやすくお話しされました。

 

金属版3Dプリンターで作られたロケットエンジン部品

まず中村氏から、航空宇宙産業の組織構造について紹介がありました。この分野は宇宙機器(ロケットおよび人工衛星など)だけでなく、航空機、防衛関連のVR(仮想現実)、戦闘機、ミサイル用エンジンなども含まれます。航空宇宙産業と聞くとJAXAなどを思い浮かべる方がいるかもしれませんが、決して1つの企業だけですべてを行っているわけではありません。きわめて多種多様な部品がひとつの製品に必要なため、それぞれの部品を作る様々な企業や、それらを組み立てて調整・試験をする企業、さらに商社として会社同士の関係を取り持つ企業など、非常に裾野の広い産業構造をしており、多くの企業で役割分担をしています。中村氏が所属する「中央エンジニアリング」が担当しているのはロケットエンジンの部品開発やその解析です。ここで言う「解析」とは、設計中の部品がうまく機能するかどうか実際の製作前にコンピュータを活用して検証することを言います。解析技術が十分発達していない時代は、部品を実際に作ってから試験をし、それを設計にフィードバックするという流れが一般的でしたので、開発に大変時間がかかったようです。しかし、解析技術が発達した現在は、設計をしながら解析を並行して行い、より完成度の高い設計に基づいて実際に製作するという流れに変わってきました。このように、各企業が自身の担当する分野で技術を進歩させることによって、航空宇宙産業は急激に進化してきたのです。

熱心に説明を聞く参加者
続けて、71年前に部品設計のパイオニアとして創業した「中央エンジニアリング」の現在の技術について説明がありました。過去の失敗から得たノウハウやスキルをもとに、同社の一番の強みである金属版3Dプリンターを用いた部品製造の技術が開発されてきたそうです。金属版3Dプリンターは、一般的なプリンターとは全く異なる方法であらゆる形状を生み出します。具体的には、まず平らな台に0.05mmの金属粉末を敷き詰め、そこにレーザーを照射して、固めます。その後、再び金属粉末を敷き詰めてレーザーを当てる、という工程を繰り返しながら、立体構造を形成していきます。写真にあるような複雑な構造の模型も、このような方法で作られたものです。この技術は時間こそかかるものの、従来の切削に基づく加工方法では困難だった造形が可能となり、また切削困難な金属素材でも造形できるといった大きな利点があります。今回お話をしてくださった中村氏は、航空宇宙産業の先端技術はさまざまな分野で応用されていると語られ、「あらゆる面から物事を考えられるように、日ごろから身の回りのことに関心を持つことが重要だ」というメッセージを参加者に送られました。
講義を通して、私は、数式や単位換算について知識はあっても、それらが実際にどこでどのように使われているかを理解していなかったことに気づかされました。また、中村氏から現在の航空宇宙産業についてのお話を伺い、自分が興味を持つ分野や将来どのような形で就職するかについて、これからさらに深く調べてみようと思いました。
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