式神を操り鬼を討つ?留学生が晴明神社に祀られる安倍晴明に迫る!

2023.11.22

京都産業大学では世界各国の外国人留学生が学んでおり、日本語科目や学部の専門教育科目を受講しながら日々学びを深めています。今回は、交換留学生対象日本語科目「京都で学ぶ日本文化Ⅱ」において外国語学部教員がゲストスピーカーとして招かれ「晴明神社」をテーマに講義をするということで取材しました。

(学生ライター 法学部2年次 町原 捷月)

講義を担当したのは、外国語学部アジア言語学科日本語・コミュニケーション専攻の 盛田 帝子教授(専門:日本文学、日本文化)です。受講生は、フィールドワークに向けた事前授業として「晴明神社」について学びました。中国、韓国、ドイツの3ヵ国から来た交換留学生計8人を対象とした授業は盛田教授の柔らかい語り口で進んでいきました。

京都市上京区の晴明神社は、安倍晴明が祀られている神社です。安倍晴明といえば、フィギュアスケート選手でオリンピック金メダリスト、現在はプロとして活動する羽生 結弦氏が振り付けのモチーフとしたことで話題になりました。

ワークに取り組む受講生 真剣な様子

日本人にとってはその名を一度は聞いたことがある安倍晴明ですが、留学生にはあまり馴染みがありません。
講義の冒頭に、受講生は「安倍晴明について知っていることやイメージをカードに書く」というワークに取り組みました。晴明神社に安倍晴明が祀られていることは、前週の授業で学んだものの、晴明の具体的な人物像は浮かびにくく、記述に苦戦している様子が見受けられました。

続いて、説話化された安倍晴明について説明がありました。安倍晴明は陰陽師として活動した人物です。晴明に関する説話は、彼の没後百年ほどに成立した『今昔物語集』に収められ、後に夢枕 獏氏による『陰陽師』という小説や、その小説を基にした漫画、2001年に滝田 洋二監督が製作した映画『陰陽師』などで世に広まったことが紹介されました。また、高校生の頃に古文の授業で学ぶ『大鏡』や『宇治拾遺物語』にも安倍晴明の逸話が残されており、それによれば、安倍晴明は呪術を使ったり、普通の人の目には見えない式神を操ったりと、実に人間離れした能力を持つと同時に、陰陽師として深い眼識を持っていて、他の陰陽師の呪力を打ち破るなどの卓越した能力を持ち合わせていたそうです。

このように「人間離れした」と語られる安倍晴明。ここまでくると本当に実在したのかどうかが疑わしくなるほどですが、安倍晴明という人物は実在した人間であり、等身大の安倍晴明は、天皇や上層貴族に日々奉仕した官僚「陰陽師」だったことが説明されました。

それでは「陰陽師」の職務とはどのようなものだったのでしょうか。
「陰陽師」は、説話などで私たちが想像する、鬼など架空の悪の存在を打ち破るような存在ではなく、今でいう国家公務員と同じような立場でした。職務内容は大きく3つあり、1つ目は「政務の日時や方角の吉凶を歴注(暦に付された、日の吉凶などを示す注釈のこと)に基づいて判定すること」、2つ目は「怪異・病気の原因や土地の選定などについて占うこと」、3つ目は「祭祀・儀礼の執行」であったと紹介されました。占いを非常に大切にしていた平安時代にこのような職務を任されていたことを考えれば、陰陽師という役職の重要さが分かると盛田教授は説明されました。

安倍晴明はそんな重要な役職である陰陽師として、天皇や上層貴族に奉仕していました。40歳の時には天文得業生といって、天文博士について天文道を学び、博士に報告する天文の観測を行う成績優秀な特待生になり、52歳~54歳の期間には天文博士となり重要な職務を担いました。そして85歳で、その生涯を終えました。

古地図を手に説明する盛田教授

次に盛田教授は、『細見京繪圖』(さいけんきょうえず)という古地図を用いて説明を行いました。『細見京繪圖』には京都の古い地図が描かれており、上賀茂神社や神山なども見ることができます。受講生は1枚の地図を囲み、「上賀茂神社はどこにあるのか」、「晴明神社はどこにどうつながっているのか」など、昔の京都を上から平面で見て地理の確認をしていました。はじめは発言を控えていた受講生ですが、今とは少し違う地形の面白さに気付いてくると、積極的に発言するようになっていきました。

地図を囲んで昔の京都の地理を確認
現在とは異なる京都の様子が分かる「細見京繪圖」

晴明神社は京都市上京区に位置しており、安倍晴明の屋敷跡に1007年に創建されたと伝わっています。境内には安倍晴明が祈祷によって霊水を湧き出させたと言われる井戸があり、また式神を隠したとされる一条戻橋が近くにあります。安倍晴明の伝承は京都だけではなく、本州から九州の各地に広がっていて、例えば、大阪には安倍晴明が944年に阿倍野で生まれたという伝説があり、産湯の井戸と誕生地の石碑があることが紹介されました。

授業の最後に盛田教授は、2つ目のワークとして「今日の授業を受けて初めて知ったことや学んだことについてまとめましょう」、「授業を受ける前と比較すると、晴明神社や安倍晴明に対するイメージがどのように変わりましたか」という2つの質問を投げかけ、受講生は真剣に取り組んでいました。

終始日本語で進められた授業でしたが、留学生は真剣に内容を理解しようと授業を受けていました。安倍晴明は留学生にとっては馴染みがなく、理解するのは難しかったそうですが、それと同じぐらい興味深く楽しい授業だったと話していました。


私自身も、安倍晴明がどのようなことで有名な人だったか瞬時に出てきませんでしたが、盛田教授から「陰陽師」という言葉が出てからは、すんなりと話の内容が理解でき、興味深く授業を聞くことができました。
安倍晴明が伝説上の存在ではなく、陰陽師という職に就きながら、天文学者でもあった実在の人間だったということに驚きました。とはいえ、人間にしては能力がずば抜けていたために数々の逸話が作られたのだと思うと、「実在の」と言ってしまってよいのか分からなくなってしまう…そんな不思議な存在だと感じました。

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