【理学研究科】物理学専攻の滝川 有希さんが2023年度日本惑星科学会秋季講演会で口頭発表を行いました

2023.11.13

本学理学研究科物理学専攻の滝川 有希さん、理学部宇宙物理・気象学科の髙木 教授、および学内外の研究者を含む研究グループが2023年度日本惑星科学会秋季講演会において、金星の紫外線反射率と大気循環の関係に関する口頭発表を行いました。近年発見された金星のスーパーローテーションの時間変動メカニズムの説明を試み、大変好評を得ました。

発表学会 2023年度日本惑星科学会秋季講演会
題目 金星の紫外アルベドと大気大循環の長期変動
著者 滝川有希、高木征弘、安藤紘基、佐川英夫、杉本憲彦、神山徹、松田佳久
発表日 2023年10月13日(講演番号OG-13)

近年の観測データから、金星の太陽光反射率(アルベド)が最近10年で数十%も変動し、それに伴って、金星上層大気の太陽光吸収による加熱率が上部雲層(高度59~72km)で大きく変化していることがわかってきました。このような太陽光吸収量の変動は地球では考えられない大きさであり、大規模な気候変動を、特に太陽光吸収量の多い雲層においてもたらすものと予想されます。実際、先行研究は雲頂の平均東西風(大気スーパーローテーション)の風速が、アルベドの変化に同期するように30~40%も変動していることを指摘しています。欧州の金星探査機Venus Expressや日本の金星探査機「あかつき」による観測によると、雲頂での東西風速はアルベドが大きいとき(太陽光をたくさん反射するとき)80~90m/sまで遅くなり、アルベドが小さいとき110m/s程度まで速くなります。本研究では太陽光加熱の変化に対して大気大循環がどのように変化するか、数値シミュレーションを用いて明らかにすることを試みました。

その結果、平均東西風は概ね95m/sから130m/sの範囲で変化し、加熱率が大きくなると速くなり、加熱率が小さくなると遅くなりました。風速の変化は加熱率の変化とほぼ同期していましたが、1~2地球年ほど遅れているようでした。初期解析の結果によると、加熱率の変化にともなって熱潮汐波(太陽光加熱によって作られる大気中の波)の振幅だけでなく、運動量輸送の分布(平均東西風の加速・減速の分布)が変化していました。加熱率が大きいときには加速率が大きくなり、広い領域で平均東西風が加速されるようになることから、平均東西風の変化は熱潮汐波の変化によって説明できる可能性があります。さらに、10地球日以下の周期をもつ短周期擾乱も、熱潮汐波と同じく加熱率が大きくなると東西平均風の加速に寄与することがわかりました。ただし、その加速度は熱潮汐波による加速度の20%程度の大きさでした。したがって、雲頂付近の平均東西風の時間変化は、主に熱潮汐波によってもたらされていることが示唆されます。

発表風景
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