【理学部】宇宙物理・気象学科 鈴木研究員が金星の山岳波の伝播特性に関する論文を出版

2023.06.07

2023年に本学で博士(物理学)を取得し、現在は理学部客員研究員である鈴木さんが、金星の山岳波の鉛直伝播特性に関する数値的研究を論文にまとめました。宇宙物理・気象学科の安藤准教授、髙木教授も共著者になっています。

山岳波とは、風が山岳などの障害物に当たったときに励起される大気中の波動ですが、風速や大気の安定度、山の幅など一定の条件を満たしたときにしか鉛直方向に伝播できません。地球では比較的よくみられる現象で、奥羽山脈やロッキー山脈の東側でも山岳波が波状雲によって可視化されることがあります。金星では、金星探査機「あかつき」に搭載されたLong-Infrared Camera (LIR) が金星大気上層の巨大な山岳波を発見したことは有名です。それ以来、風速が極端に遅いはずの金星の下層大気でどのように山岳波が励起されるのか、下層から上層に伝播してくる途中にある中立層(大気が不安定で、大気中の波動は伝播できないと考えられています)をどのようにして通過してくるのか、そして、そのような巨大な山岳波はなぜもっぱら夕方に出現するのか、などさまざまな問題について研究されてきました。鈴木さんの研究は、それらに一石を投じるものです。

鈴木さんらは、数値モデルを用いて、山岳波の鉛直伝播特性が惑星境界層の厚みや静的安定度にどのように依存するのか調査しました。山頂近くにおける風速が比較的速く惑星境界層の厚みが山の高さより低い場合に、雲層上部での山岳波の振幅は観測結果と整合的になりました。ただし、地表近くの風速や静的安定度などの条件によっては、惑星境界層の中に山がすっぽり入ってしまっているときにも観測と整合的な計算結果が得られました。つまり、LIRで観測されたような金星の巨大な山岳波を上層にもたらす条件は唯一ではなく、複数の可能性があるということが明らかになりました。山岳波がもっぱら夕方の地域で観測されるということは、そのような複数の条件のうちの1つがもっぱら金星の夕方に実現されるということかもしれません。

掲載論文

雑誌:Icarus, Volume 402, 115615
題目:Dependency of the vertical propagation of mountain waves on the zonal wind and the static stability in the lower Venusian atmosphere
著者:Anna Suzuki, Hiroki Ando, Masahiro Takagi, Yasumitsu Maejima, Norihiko Sugimoto, Yoshihisa Matsuda
DOI:https://doi.org/10.1016/j.icarus.2023.115615

用語

惑星境界層
地表に接している、惑星大気の最下層部分。地表面の摩擦の影響を受けると同時に、日中は乱流によって混合されていることが多い。
静的安定度
擾乱に対する静止した大気の安定性。日中に大気が良く混合されるような状況では静的安定度は低く、よく晴れた冬の夜間のような状況では静的安定度が高い。
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