【文化学部】ClaSP!「京都観光行動基準(京都観光モラル)」をご存知ですか?

2023.10.23

京都文化学科では、京都や日本全体、時には世界各国の「観光」について、観光政策や事例をもとにどのような観光形態があるのかなども学びの対象としています。
今回は、春学期に開講されている文化学部専門教育科目「観光地理学」(担当:桐村 喬准教授)を取り上げます。また、授業で学んだことをもとに京都観光におけるマナーについて現地調査をしてきましたので、その結果を紹介します。

(ClaSP!メンバー 文化学部3年次 松本 哲汰・村田 秀寿)


「観光地理学」の授業の目的は、地理学的な視点から、観光をめぐるさまざまな現象を説明できるようになることです。リゾートや自然、聖地、ヘリテージ、ツーリスト、ホスピタリティ、ダークツーリズムなどのさまざまなトピックに関する授業がありますが、今回は授業内で取り上げられた「京都観光行動基準(京都観光モラル)※1」に着目しました。
京都観光行動基準とは、京都が京都であり続けるために、観光事業者・従業者等、観光客、市民がともに大切にしていきたいことをまとめた行動基準のことです。本基準は京都市と京都市観光協会(DMO KYOTO)によって策定されました※2
この基準が策定された背景には、近年の京都観光における諸問題があります。例えば、一部の観光地では観光客の急増等により、大変な混雑が生じています。国内・国外を問わずさまざまなバックグラウンドを持つ人が何の基準もない状態で一堂に会すると、文化・習慣の違いによるマナー違反等が生じやすくなります。これまでも、騒音問題やゴミ問題、写真撮影禁止区域での撮影などの観光課題が発生し、市民生活に影響を及ぼす事態が生じていました。授業では、今後の持続可能な観光に貢献するための取り組みの例として、本基準が取り上げられました。
近年叫ばれ続けている「オーバーツーリズム」という言葉は皆さんもどこかで耳にしたことがあるかもしれません。しかし、日常生活においてその実態を学ぶ機会はあまり多くありません。
京都文化学科の授業では、伝統工芸や民俗、祭りや伝統文化のように我々の生活の中で当たり前になっているものも学びの対象となります。大学の授業の良さは自分の興味関心を深めることができることと、当たり前に対して疑問を持ち、学びの裾野をどんどん広めていけることにあります。京都観光行動基準を学んだ後に実際に京都観光をしてみると、これまで看過してきたものにも目が向くようになります。
例えば、祇園情緒溢れる花見小路を訪れますと、弁柄格子(べんがらごうし)や犬矢来(いぬやらい)などの京都らしい建築様式や整備された石畳が眼前に広がります。ときには舞妓さんや芸妓さんを見かけることもある花見小路には、たくさんの観光客も訪れています。しかし、賑やかな通りの各所にマナーを啓発する注意書きがあります。花見小路の近くにある祇園白川も同様です。普段はあまり気に留めることがない注意書きですが、京都観光行動基準を学んだ後では見え方も感じ方も異なりました。観光地の景観という観点からは、このような注意書きはない方が良いと考えられます。しかしながら、看板を立てざるを得なかった事情にも注目すべきでしょう。
花見小路の注意書き
祇園白川の様子
また、観光客にとっても、市民にとっても、生活する上で欠かせないものとして、トイレの存在が挙げられます。京都の街中にある公衆トイレや観光トイレを見てみますと、とあるステッカーが貼られています。その正体は、トイレの使用方法に関する外国人観光客向けの啓発ステッカーです。トイレ事情は国によって異なりますので、自国の生活習慣に基づいた使用方法でも、他国ではNGとなってしまうことも少なくありません。そこで、日本におけるトイレの適切な使用方法を理解してもらえるように、公衆トイレや観光トイレではイラストを中心としたユニバーサルデザインの啓発ステッカーが使用されています。
実際に京都の主な観光地のトイレを訪れてみたところ、その多くで啓発ステッカーを確認することができました。皆さんの中にも、言われてみると観光地のトイレで啓発ステッカーを目にしたことがあるという方も少なくないと思います。今回の現地調査を通じて、この活動も市民と観光客がお互いに過ごしやすい環境づくりのために行われているものの一つだと改めて感じ取ることができました。
しかし、これらの現地調査を通じて、ふと疑問に思ったことがあります。京都の街中にはたくさんの注意書きがありますが、注意書きが多くなればなるほど、その効果は上がるのでしょうか。注意書きが当たり前になり過ぎると、逆に注意力が散漫になってしまう可能性があります。そのようなことを考えながら帰路についたところ、京都駅の喫煙所の前にあるユニークな暖簾に出くわしました。暖簾という京都の身近な生活道具が活用されていながらも、しっかりと記憶に残るデザインです。まさに観光地の景観を保ちながらマナーを啓発する方法ではないでしょうか。
観光客の多くは、普段の生活圏とは異なる環境に身を置くことになります。「郷に入っては郷に従え」ではありませんが、少なくとも観光倫理を共有することでオーバーツーリズムの解消への一歩を踏み出すことができます。観光客が地元住民の日常生活を守りながら観光を楽しむことができれば、観光産業や地域経済への寄与も期待できます。逆に、自分の思うままに観光を続けていると、思わぬところで人に迷惑をかけ、いずれは観光自体ができなくなる可能性があります。このように京都文化学科の授業で得た学びを、より多くの方たちに知ってもらえるように、今後も取材活動を続けていきます。
京都駅構内にある喫煙マナー啓発の暖簾
※1 京都観光行動基準
※2 DMO(Destination Management/Marketing Organization)とは、地域と協同して観光地域づくりを行う法人を指します。京都には京都市観光協会の他にも、一般社団法人京都府北部地域連携都市圏振興社(海の京都DMO)、一般社団法人森の京都地域振興社(森の京都DMO)、一般社団法人京都山城地域振興社(お茶の京都DMO)などのDMOが存在します。
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